大天使聖ミカエルへの祈り(ラテン語)対訳・逐語訳

 教皇レオ13世によって導入され,1886年から1965年まで読誦ミサの終わりにいつも唱えられていた祈りである。悪魔祓い的な性格を持っている。
 2018年9月末,教皇フランシスコは10月(カトリック教会では「ロザリオの月」とされている)の間毎日ロザリオを唱えることを呼びかけるとともに,ロザリオの終わりに "Sub tuum praesidium" という聖母への祈りとともにこの「大天使聖ミカエルへの祈り」を唱えるよう勧めた。

【テキストと全体訳】

Sancte Michael Archangele, defende nos in proelio; contra nequitiam et insidias diaboli esto praesidium. Imperet illi Deus, supplices deprecamur:
tuque, Princeps militiae caelestis, Satanam aliosque spiritus malignos,
qui ad perditionem animarum pervagantur in mundo, divina virtute, in infernum detrude. Amen.
大天使聖ミカエルよ,私たちを戦いにおいて守ってください。悪魔の邪悪さと謀略とに抗する守護者となってください。あの者(=悪魔)を神が支配下にお置きになるようにしてください,切にお願いします。そしてあなた(自身)は,天軍の総帥よ,霊魂たちを滅ぼそうとしてこの世をうろついているサタンとその他の邪悪な諸霊を,神的な力によって地獄へと突き落としてください。アーメン。

 ラテン語学習の教材としてお使いになりたい方のため,古典ラテン語式による母音の長短を示しておく。
Sāncte Michael Archangele, dēfende nōs in proeliō: contrā nēquitiam et īnsidiās diabolī estō praesidium. Imperet illī Deus, supplicēs dēprecāmur;
tūque, Prīnceps mīlitiae caelestis, Satanam aliōsque spīritūs malīgnōs, quī ad perditiōnem animārum pervagantur in mundō, dīvīnā virtūte in īnfernum dētrūde. Āmēn.

【対訳】

Sancte Michael Archangele,
大天使聖ミカエルよ,

defende nos in proelio;
私たちを戦いにおいて守ってください。

contra nequitiam et insidias diaboli esto praesidium.
悪魔の邪悪さと謀略とに抗する守護者となってください。

Imperet illi Deus, supplices deprecamur:
あの者(=悪魔)を神が支配下に置いてくださいますようにと,私たちは切に祈ります。
別訳:あの者(=悪魔)を神が支配下にお置きになるようにしてください,切にお願いします。
解説:
 この祈りは,ここ以外はすべて命令法・2人称で書かれており,大天使聖ミカエルに対して祈っていることが明瞭である。しかしこの箇所だけは接続法・3人称で,単に願いを表現する形(「~しますように」「~なりますように」)となっている。そうはいっても全体が聖ミカエルへの祈りなので,ここも聖ミカエルに向かって願いを述べていると考えるとすっきりするのではないか,と考えた結果が別訳であり,全体訳ではこちらを採用した。

tuque, Princeps militiae caelestis,
そしてあなた(自身)は,天軍の総帥よ,

Satanam aliosque spiritus malignos,
サタンとその他の邪悪な諸霊を,

qui ad perditionem animarum pervagantur in mundo,
霊魂たちを滅ぼそうとしてこの世をうろついている(〔サタンと〕その他の邪悪な諸霊を),
解説:
 直前の "Satanam aliosque spiritus malignos"(あるいは "aliosque" 以下のみ)を受ける関係詞節。「霊魂たち」とは人間の魂のこと。

divina virtute, in infernum detrude.
神的な力によって地獄へと突き落としてください。

Amen.
アーメン。

【逐語訳】

Sāncte Michael 聖ミカエルよ(Sāncte:聖〔形容詞〕)

Archangele 大天使よ

dēfende 守れ,防戦せよ,撃退せよ(動詞dēfendō, dēfendereの命令法・能動態・現在時制・2人称・単数の形)

nōs 私たちを

in proeliō 戦いにおいて,戦争において(proeliō:戦い,戦争〔奪格〕)

contrā ~に対抗して(英:against)

nēquitiam 邪悪,不道徳,役に立たないこと(対格)

et(英:and)

īnsidiās 待ち伏せ,密かな謀略(対格)

diabolī 悪魔の

estō あれ(動詞sum, esse〔英語でいうbe動詞〕の命令法・能動態・未来時制・2人称・単数の形)
● 命令法未来時制は「命令法第2式」ともいう。動詞sum, esseの命令法現在時制(命令法第1式)単数形は "es" なのだが,1世紀くらいから次第に第2式の "estō" で代用されるようになっていった。ここの "estō" もそういう事情で用いられているにすぎないと考えられるので,意味するところは第1式(つまりごく普通の命令法)と同じだと考えてよいだろう。

praesidium 助け,守り,傘,覆い(主格)

imperet 統制/支配/命令するように(願う),統制/支配/命令せよ(動詞imperō, imperāreの接続法・能動態・現在時制・3人称・単数の形)

illī あの者に/を,彼に/を(与格)

Deus 神が
● "imperet" の主語。

supplicēs (<supplex) へりくだって願っている,切に願っている(形容詞,複数・主格)
● 次の動詞に隠れている主語(1人称・複数,格は主語なので当然主格)を修飾している。

dēprecāmur 私たちが願って得ようとする,こいねがう,祈る(動詞dēprecor, dēprecārīの直説法・受動態の顔をした能動態・現在時制・1人称・複数の形)

あなたよ(呼格)

-que(英:and)
● "tūque" = "and you"。"you and" ではない。

Prīnceps 第一の者よ,率いる者よ,君主よ

mīlitiae caelestis 天の兵役の,天の軍勢の,天の兵士たちの(mīlitiae:兵役の,軍勢の,兵士たちの,caelestis:天の〔形容詞〕)
● "caelestis" は単数主格・単数属格・単数呼格が同形であり,理論上は前の "Prīnceps" にかける(呼格)こともできるが,そうすると "mīlitiae (軍勢の,兵士たちの)" に何の修飾・限定もつかなくなってしまい,一般的な意味での(要するに人間の)「軍勢」「兵士たち」を意味することになりかねない。しかし「サタン」「悪魔」と戦うのは一般的な意味での「軍勢」「兵士たち」ではなく天使たちのそれであるに決まっているので,ここは "mīlitiae" にかけて(属格)「天の軍勢」「天の兵士たち」と解釈するのが適切である。

Satanam (<Satanās) サタンを
● 一応第1変化名詞なのだが,ギリシャ語由来の名詞特有のやや特殊な変化をする(この "Satanam" という形は普通の第1変化名詞と共通だが)。なお,もとはヘブライ語であり(「敵対者」「妨げる者」といった意味),ギリシャ語を経由せずヘブライ語から直接取り入れたのであろう形として "Satan" という無変化の同義語もある。

aliōsque spīritūs malīgnōs また,その他の邪悪な諸霊を(aliōs:その他の,-que:英and,spīritūs:霊を〔複数〕,malīgnōs:悪い,邪悪な,悪意のある,有害な)

quī(関係代名詞,男性・複数・主格)

ad perditiōnem animārum 霊魂たちの滅びを目的として(ad:~を目的として,perditiōnem:〔永遠に〕滅ぶこと,失われること,animārum:霊魂〔複数〕の)

pervagantur 徘徊する,うろつく,歩き回る(動詞pervagor, pervagārīの直説法・受動態の顔をした能動態・現在時制・3人称・複数の形)

in mundō 世界の中で(mundō:世界〔奪格〕)

dīvīnā virtūte 神的な力で(dīvīnā:神的な,virtūte:力で〔奪格〕)

in īnfernum 地の底へ,陰府へ,地獄へ(īnfernum:地の底,陰府,地獄〔対格〕)

dētrūde 突き落とせ,追いやれ(動詞dētrūdō, dētrūdereの命令法・能動態・現在時制・2人称・単数の形)

āmēn アーメン


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