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幸福とはなにか。「幸せの4つの因子」以外にも考えられること

前回は、幸福度計測機能を実装するために、幸福の尺度は何かを定義しなければならないと書きました。そして、その尺度の例として、幸福に影響を与える心的要因である幸せの4つの因子を、前野教授の研究成果を引用して説明しました。

しかし、私はこの4つの因子で完全に幸福を説明できるとは思っていません。おそらく前野教授も同じ立ち位置ではないかと思います。なぜなら、これらの因子が強い人は幸せだと感じている人が多い、という極めて静的で統計的な結果に過ぎないからです。

幸福だと感じている人たちのこれらの因子が強い傾向にあることがわかっていても、私やあなたが、いまこれらの因子を強くすることによって幸福になるとは限りません。

幸福の工学的解釈

よって、直近は4つの因子を適用したサービスを考えていくとしても、それを良しとはせずに「幸福とはなにか」を並行して研究しアップデートする必要があると考えています。

当たり前のことですが、幸福そのものを簡単に定義することはできません。しかし、我々は人々が幸福になるための解析や応用がしたいのですから、様々な切り口から幸福とはなにかを知り全体感を把握したうえで、工学的解釈を得ることに的を絞って研究を進めていくことはできます。

最終的に工学的解釈に落とし込むことを見越したうえで、幸福とは何かを論ずる切り口を提供することには価値があるでしょう。ここでは例として、すぐに思いつく切り口を並べて思索してみたいと思います。

いくつかの尺度でとらえる幸福

一点目は、幸福の尺度、すなわち物差しを決めるということです。主観的幸福感であれば「『とても幸せ』を10点、『とても不幸』を0点として、あなたはどの程度幸せだと感じていますか」というアンケートが最も単純な尺度として使えます。これには問題が指摘されているにせよ、一つの尺度として考えて良いでしょう。

また、幸福度と社会的属性や個人的属性に相関があることはすでに知られているため、これらも幸福の尺度を決める上で重要となるでしょう。たとえば、内閣府の経済社会総合研究所の調べによれば、主観的幸福感を用いた分析により、以下のことがわかっているそうです。

1. 所得の上昇が人々の幸福度を改善するには限界がある。
2. 失業が個人にもたらす負の影響は、所得の減少以上に、非常に大きい。
3. 正規雇用、非正規雇用の違いがもたらす影響は、国ごとに異なる。賃金を考慮しない場合には、非正規雇用がわが国でも男性、女性別では幸福度を有意に引き下げるわけではない。
4. 年齢別にみると欧米では40代が一番低い。日本では年齢とともに幸福度が低下するとする研究もある。結婚や配偶者の存在は幸福度を引き上げる。
5. 労働者にとって、雇用主による経営への信頼は、生活全般の幸福度に大きく影響する。
6. 政治体制への信頼感やソーシャル・キャピタルの質が幸福度に大きく影響
7. 東アジアでは社会的な調和から幸福感を得る一方、欧米では個人的な達成感から幸福感を得る傾向にある。

前回とりあげた前野教授の幸せの4つの因子も、その一種として考えられますね。また、国民総幸福量(GNH)もその例として挙げられます。これは幸福の量を具体的な数値・指標として定めたものです。

幸福を測る尺度については、その定義そのものが研究分野として成り立っているように思われます。それらの文献を調査していくことも価値があるだろうと思います。

前提条件によって異なる幸福

一つ、尺度を定義するにあたり注意すべきことがあります。それは、前提条件を明確にすることです。前提条件が異なると全く異なる結果になることがあります。

例えば、まず幸福度を聞いた後にデートの回数を聞いた場合と、デートの回数を聞いた後に幸福度を聞いた場合とでは、後者の方が高い相関(0.66)があることがわかっています。質問内容は変わらないのに、質問の順序を変えただけで結果が変わるのです。

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