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生野区長として思うこと~住民投票を終えて~

 「大阪市を廃止し特別区を設置することについての住民投票」が11月1日に行われ、5年前と同じく僅差で反対票が上回り、大阪市は現在の形で存続することになりました。

 私は行政の人間ですので、賛否については完全に中立であり、選挙事務を滞りなく完遂する責任がある(正確には参与として見守る)のみです。あと、投票率の向上にも責任がありますので、市民として大事な一票をムダにしないでほしいという願いで啓発はしてきました。

 よって、私の発言や発信は「賛成・反対」のどちらでもなく、生野区というエリアをよくしたいと願う人間の想いとして、受け止めてもらえれば助かります。

自治体経営は根本的に「負け」の状態である

 開票が深夜に終わり、区役所の全職員に選挙事務への従事のお礼と、以下の内容のメールを送りました。

「住民サービスを落とさない」と簡単に口にできるほど、今後の日本および各自治体の迎える超高齢化に伴う税収減は甘くないことを踏まえ、地域活性化や福祉の維持を考えていかなければなりません。

 特に、生野区はいつも言いますが少子高齢化に空き家問題、学校再編、こどもの貧困、高齢者福祉、外国人住民の多さなどを抱える「日本の課題最先端エリア」です。

 区政の範囲でできることや、民間を巻き込んでできることを必死で考えてきた3年半ですが、根本的な税収不足=財源不足を切実に感じながら取り組んでいます。

 勝ち負けの問題ではなく、根本的に「負け」の状態にある自治体経営(国の財政も同じですが)をどう回していくかを、大阪市の在り方に関心が向いた今こそ、職員だけでなく市民のみなさんにも「自分ごと」にしてほしいと願ってやみません。

 その後に、セーフティネットとしての行政が機能することが最優先であり、そのための税収確保に向けた改革は続けなければならない、また新たな気持ちで日々の業務に取り組んでほしい、と伝えました。

 住民投票の結果で、大きく仕事が変わるわけではありません。ダイナミックに組織改編を伴う変化を起こすか、今の形で先を見通して先手を打ち続けるか、どちらになるかは民意にゆだねた結果であり、大阪市が残るからと言って「今のまま」停滞することも「過去の財源豊富な時代」に逆戻りすることもありません

 その点を心に刻んで、できる限りのことを一人ひとりの持ち場でやりましょう、というメッセージを職員に送りました。


今こそ「SIMおおさか2040」を作ろう!

 住民投票が終わったら、やりたいことがありました。それは自治体財政シミュレーションゲーム「SIMふくおか2030」の大阪市バージョンを作ることです。特別区になればその枠組みで、変わらないなら大阪市版か、生野区版を作ろうと思っていました。

 昨年、大阪市職員の有志で集まって「SIMふくおか2030」を体験しました。サイボウズさんの大阪オフィスを借りて、めちゃくちゃテンション上がったのが懐かしいです。

 これは架空の自治体「えふ市」の財政状況や将来起こるだろう社会課題を踏まえたシナリオを元に、福祉健康局長やまちづくり局長に任命された人たちが対話をしながら事業を取捨選択していくものです。

 職員研修としても有効なのはもちろん、市民の方と一緒にゲームをすることで「昔のように、要求要望すれば補助金やサービスが出てきた時代」とは違う台所事情も理解していただけます。

 その上で「未来に向けて今、何ができるか」を、税収増の観点や公共施設・公共サービスの見直しの観点、まちに若い世代をどう増やすかという前向きな議論につなげられればと思っています。これから、一緒に「SIMおおさか2040」を作ってくれそうな仲間に、声をかける予定です。

 詳しく知りたい方は、まずこの本を!

「100年暮らせるまち」の強み。

 先日、同じ生野区役所内にある都市整備局「生野南部事務所」の所長・副所長さんと一緒に、まち歩きをしました。

 3年半前に来た時、空き地とフェンスだらけの生野南部地域を見て「なんでこんなことに!?」とびっくりしました。今は、20年以上の歳月をかけた国の事業として、防災上危険であったまちが安全で住みやすい環境に変わったことを理解しています。

 今年、この地域にできたばかりの市営住宅に、入れてもらいました。所長さん曰く「ハルカスビューで、夕焼けの時はもっといいですよ!」とのこと。

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 8階のベランダから、あべのハルカスが見えました。近くに大きな建物が無いので、すばらしい開放感です。

 環状線の向こう側は天王寺区、マンションが立ち並んでいます。手前に並ぶ戸建てや長屋が、このまちで3年半を過ごした私には、むしろ愛おしい。 

 この市営住宅は生野南部エリアからの住み替えや、現在取り壊し中の府営住宅からの住み替え用として機能しています。

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 奥が府営住宅で、取り壊し後は道路が整備され、戸建てが建つのではないかと想定されています。3年半前に来た時より、明らかに「まちが変わる」実感がありました。

 これからの時代、高層マンションが一律に立ち並ぶまちより、複数の形態の住まいが混在している地域の方が持続可能であり、長く住み続けられます。生野区はもともと区内転居も多いのですが、若いうちは駅周辺のワンルームマンション、家庭を持ったら戸建て(3千万円以内で庭付き戸建てが買える!大阪市内なのに!)、こどもが独立したら同じエリアで暮らしやすいコンパクトな間取りの家やマンションに住み替えることもできます。

 そして、生野区は100歳以上の方が24区中最も多いまち(2020年9月の数値)です。区内在住の方が長寿であるというより、高齢になってからの他区からの転入が多いのが理由です。サービス付き高齢者向け住宅や福祉施設も多く、また在宅介護・看護のネットワークも比較的充実しています。

 人生100年時代をできる限り健康で、人のつながりの中で生きることができるまちとしても、モデルとなりうる可能性があります。

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 この広報紙の表紙、めちゃくちゃ良くないですか!?大好きなんですよ。超高齢化社会は、他の自治体より先に生野区に来ていることをプラスにとらえて、健康寿命の延伸や「居場所と持ち場」づくりを進めていきます。

一人ひとりができることを、できるだけ。

 今回、住民投票で少しでも「大阪市の未来」に関心を持っていただいたのであれば、結果がどうあれ、これからも関心を持っていただけたらな、と思うのです。

 近所に空き家があれば、持ち主に声をかけて「区役所に相談に行くといいよ!」と言ってほしい。

 まちのイベントを行政がやる時代も、いつまで続くかわかりません。ぜひ、自分たちがやりたいことは、仲間を募って実現してみてください。11月21日・22日のこのイベントも当日スタッフを募集していますので、一歩踏み出すとまちの見え方が変わりますよ!

 私自身、自分が住んでいるところでは地域活動協議会(まちづくり協議会)の下で「子育てサロンぽんぽこ」のボランティアとして活動しています。職場でもない、家でもない「持ち場」で地域の方とおしゃべりしながらする活動は、私にとって癒しの時間でもあります。

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 写真は4年前の水遊びの日のものですが、かつては路地にビニールプールが出てて、その周りで親がこどもを見守りながらしゃべってるシーンが見られたものです。

 今年は本当に新型コロナ禍で、学校や保育園もプールが無かったこともあり、生野区中にビニールプールを出して、密にならないよう遊ばせてあげられないかな……なんて思ってました。

 生野区が持つ古さや懐かしい昭和の空気感は、今こそ「周回遅れのトップランナー」であり「一周まわって新しい」。新型コロナ禍で職住一体の暮らしや、地元で遊ぶ魅力や空き地という名のオープンスペースの価値も再発見されています。

 大阪市が単に「残る」のではなく「生まれ変わり続ける」結果となったことを受け止めて、できる限りトップスピードでバトンを組織に引き継げるよう、気合を入れなおそうと思った開票後の深夜でした。


今日も明日も、「はじまりの日」。

 ボブ・ディランの「Forever Young」を絵本にした『はじまりの日』を卒業生に式辞で読んだことがあるのですが、なんとなく今の心境に合ってるので紹介しておきます。

※曲に絵本をそのまま合わせた動画もありました。

 きみの手が ずっと はたらきつづけますように
 きみの足が とおくまで 走っていけますように
 流されることなく 流れをつくりますように
 きみの心のうたが みんなに ひびきますように
 毎日が きみの はじまりの日
 きょうも あしたも 
 あたらしい きみの はじまりの日

 明日も、また。
 生まれ変わり続けるまちを、未来につなぐ仕事をします。