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vol.6 【コロナ禍】文化・芸術・教育に触れる機会を、どう確保していく?

アートは決して特別なことではなく
おうちでもできることは、たくさんあるはず。

そんなメッセージを掲げて、このnoteをはじめました。
長くなったおうち時間で、ハンドメイドやお料理を楽しむ方は増えているように思いますが、皆さんはいかがお過ごしでしょうか?

こうして引きこもる時間を過ごしていると、アウトプットの時間は格段に増えたと思います。実際私も、かなりいろんな料理を調べて挑戦したり、ずっとメンテナンスを後回しにしていた作品に手を加えたり、構想していたことへのリサーチと計算の時間を持てています。

ただ、インプットはどうでしょうか?
お料理のレシピを調べるなど、そうしたインプットはあるのですが、人と会っていると不意にもらえる予期せぬ情報がなくなったことに気がつきました。「圧倒的に1日に得る情報量が少ない」と日々感じます。

ここ1ヶ月を振り返ってみると、手触りのあるものや、生き物の痕跡が感じられるものが恋しくなっている自分がいる

植物や酵母菌などを、次々と育てたくなっている私。
(少し前まではキノコも栽培していました。現在は紫蘇と藍の栽培を新たにはじめ、パン用のフルーツ酵母も時々発酵中。)

作り手や販売者の見えるジャムや珈琲を買いたい私。
(家計の負担を考えていつもなら適度にスーパーの品物を買うところを、現在1ヶ月以上買い続けている。もちろん美味しい。)

絵本のような手描きの説明書を、どんなに時間がかかってしまっても作って届けたい私...
(コロナをきっかけにリリースした「おうちポルケ」のことです... インスタレーションやプロジェクト型の作品制作をしているので、ご依頼のお仕事がない限り、普段こんなにハイペースでアナログ絵を描くことは、私の中で稀なのです。もうなんかパソコン触る作業頻度をできるだけ下げたい一心。)

【ちゃっかり宣伝】

ポルケノレシピ_artboxlight


触覚や味覚もまた1つの情報とするならば、そうした感覚を伴う情報に飢えている、と感じます。攻殻機動隊みたいな話になってますがw、結構今の状況の参考にできるSFかもしれないと真面目に思います。

人との濃厚接触をせずに、いかに、生(なま)さを感じられる “情報” に触れに行くか。

文化・教育を支える仕事をしてきた人たちは、フィジカルな生命活動の維持にはもっとも遠い場所の職業なので(しかし私たちは、メンタルとフィジュカルが表裏一体であることを、よく知っています)、新型コロナウィルスの影響を受けて真っ先に活動を停止せざるを得ない職種部類でした。どこかの演劇の人のように他の職業と比較して大変さを言いたいわけではないのですが、現状は確かにうちの業界も厳しいです。

文化・教育事業者のみならず、いま多くの人が頭を悩ませていることでしょう。
この状況下、出来ることはあるのだろうか。
どんな可能性が考えられるだろうか。
どういうテクノロジーが使え
それによってどんな技術と産業の需要が変化し
どうやってそれらと連携していくことができるだろうか。


私もそんなことを3月からずっと考えていた1人で、いろんな職業の方のお話しを聞く機会を積極的に持ちに行きました。1人で考えていると鬱屈してしまうので、頭のなかをガーンと打ち砕いてくれるような、そんな自分と異なる視点や、取り組みに出会うだけでも、希望を感じ、元気が出ると思ったのです。

今、どんな文化・芸術・教育・学びの機会を、私たちは得ることができるのでしょうか。
そして、受け取った私たちは、そこからどのように咀嚼、消化し、自身の実りにできるのでしょうか。

私は普段「文化を届ける」立場の者ですが、今回は「どうやって触れに行くか」という能動的な立場に立ってリサーチしたことをまとめたいと思います。


ミュージアムVRの可能性

これまで「調べに行く」といえば、図書館や博物館、美術館がありました。現在のミュージアム休館の現状について、一応軽く触れておきます。

美術手帖のWEB版では、全国の美術館・博物館休館情報をかなりマメに更新し、まとめてくれています。休館期間の多くが「〜当面の間」となっているのが ”事態の先行きの見えなさ” を物語っていますが、某美術館学芸員さんのお話によれば、6月からの再開を念頭に置いて動き始めているとのことです。ウィルスの変異が再び起こらないことを願います。


コロナ以前から、VR、ARをミュージアムが使う試みはありましたが、コロナをきっかけにVRで展覧会を公開する試みが、世界各国で広がりを見せています。
日本のなかでもずば抜けて高いクオリティを感じたのが国立科学博物館でした。


「 おうちで体験!かはくVR」

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国立科学博物館の「日本館」は重要文化財に指定された西洋建築で、見所のひとつです。
この建築の鑑賞と、空間を大胆に使ったダイナミックな展示が、VRとの親和性が非常に高いと感じました。
VRは建築や空間を見せる(魅せる)展示にも有効かもしれません。(そういえば軍艦島VRとかも楽しいですもんね)
夢中で隅々にカーソルを合わせて、館内を探検してしまいました。これ、時間が溶けます。3D空間の中を散策する感じです。このVRの技術に「3Dウォークスルー」と名付けられていることも納得です。
博物館の展示物はアカデミックな強度がバックグラウンドにありますし、そうした資料活用としてもかなり優秀です。
展示物もとても見やすく映っているので、鑑賞も、どこまで深度を持ってできるかは未知数ですが、とりあえず成立できるような気がしました。このぐらいの解像度があれば、作品によっては「対話型鑑賞」も可能な予感があります。

余談ですが、日本館を建築鑑賞の観点で楽しまれる場合は、こちらの解説ブログと照らし合わせながらご覧いただくと細部に注目できて良さそう。マニアックで面白いですw 。ぜひカハク・ダンジョンで時間を溶かしてください。


そして、同じ「3Dウォークスルー」を使って展覧会を公開してくれているのが、森美術館。


「未来と芸術展」3Dウォークスルー

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この展示を私は実際見に行っているのですが、細やかな作品や、映像を使った動きのある作品、光と影を見せるような展示が多く、3Dウォークスルーでは細部を読み取るのが難しいと感じました。同じ高度な技術でもコンテンツによって向き不向きが出ることは、今後の活用を考えるうえで非常に参考になる事例です。今後は3Dウォークスルーの見栄えを考えたうえで展覧会が企画されるということも、大いにあり得るだろうと思いました。


VR展覧会を行うメリットはいくつかあります。
中でも興味深いのは、フィジカルな制限を乗り越えたVRは、インターネット環境さえあれば世界中どこからでもアクセスでき、「知の共有」が広がる、ということです。これまでの展覧会は、まずその場所に物理的にアクセスする必要がありました。そのハードルがなくなるのです。
そして展示物の質感などの情報は、モニターを通して確実に一定数がとりこぼされて行くので、「本物を見る」ことへの価値は損なわれず、むしろ貴重な体験として価値は保たれます。もちろん、回線アクセスの環境格差という問題が新たに出てくるでしょうが。
観光資源の一部として位置付けられていたミュージアムでは、このやり方では経済的な不満が出てくるでしょう。それはミュージアムの本来の在るべき姿を再考する良い機会だと指摘する専門家もいます。

ミュージアムの在り方については、DOMMUNEで放送された「美術評論家連盟2020年度シンポジウム「文化/地殻/変動」訪れつつある世界とそのあとに来る芸術」を参考にしました。3時間とかなり長い録画ですが、非常に面白い話題ばかりでしたので、私ももう一度見返すぞというメモをかねて、URLを載せておきます。


アーティストたちのアプローチ

そんななか、VRとはまた少し違った方法で、ネットの中で展覧会を開いて話題になったのが、武蔵野美術大学の学生が主体となって企画した「バーチャルムサビ展」です。
これは実際の展覧会を広角カメラで撮影して合成するVRと異なり、3Dデジタル空間の中に、平面作品を配置する、という見せ方でした。
展覧会は4月30日までとなっていますが、5月18日現在も見ることができました。

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ソフトのダウンロードが必要だったり、アカウント作ったりが必要ですが、ぜひ見てみてください。私の後輩でもある彼らの新しい試みは素晴らしいと思いました。大変な状況下だと思いますが、ぜひここで挫けず卒業してほしい。おそらく私が当時学生だったら、参加しないと思いますが(笑)。作品の向き不向きが圧倒的にありますし、鑑賞に至るには難しいと判断するからです。しかし制作と発表の場として、可能性を感じました。いち早くこの技術を見つけて運用まで持ってきたことに、拍手を送りたいです。

個人レベルのアーティストたちも、様々な試みをしています。
SNSで発表するアーティスト
電話で聴く展覧会を開いたアーティスト
オンラインで1人しか入れないwebサイトを開いたアーティスト
....などなど....

私は全てを体験させていただいてはいませんが、試行錯誤する同業の活動は刺激的です。クオリティは二の次と思い、アーティストたち、特に若手のSNSはフットワーク軽く、いろんな手法を試しています。フォローしてみるのは良いと思います。

ちなみに三木はInstagramで色々やってみようとしています。よかったらフォローしてやってください。【ちょいちょい入る宣伝】

いろんなデバイスの可能性を、いまいちど見直す良い機会だと思います。


TV・演劇・映画の新たな手法

テレワークで演劇を作る動きも出ていますね。
TVドラマだと、NHKによる『今だから、新作ドラマ作ってみました』が、私の友人間で話題になり、教えてもらいました。

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残念ながら我が家はテレビがないのでトレーラーというかCMだけ見ました(涙)


Youtubeを調べると、芋づる式にいろんな劇団のテレワークで作った演劇動画が出てきます。
面白そうだったのをいくつかピックアップして載せておきます。私もまだ全部見れてません。他に面白いのがあったら、ぜひ教えてください!

短編映画『カメラを止めるな!リモート大作戦!』本編 | One Cut of the Dead Mission: Remote(公開日:2020/05/01)


『肌の記録』(脚本・演出:加藤拓也)/劇団年一(柄本時生、岡田将生、落合モトキ、賀来賢人)(公開日:2020/05/07)

Zoomの分割画面の手法がモロ取り入れられていて、なんとも生々しく「今」を反映してます。
一昔前にブームになった「24」ともまた違う分割とカメラアングル...そういえば、小津映画の「東京物語」をzoom風にしたコントもTwitterで見かけましたっけ...
50年後に演劇史とか映画史で解説されてそう〜、とか思って見ちゃう私。。。(笑)


学びのプラットフォームとして
オンラインの可能性を、肯定的に捉えてみる。
同時に、オフラインの可能性を、諦めない。

Zoomの講義に挑戦した大学教授たちが、「案外できるものだった!」と希望を感じているコメントをTwitterでちらほら散見します。
しかし、施設の文化事業を運営する友人から言われた一言に、ちょっと私はドキリとしました。

「みんなオンラインに移行していくけど
 オンラインばかりに頼っていて良いのかな...」

私も当初はオンラインの可能性を探ろうと、割と早い段階でZoomを使ったワークショップ研究に取り組みました。もちろんその研究は今後も続けるべきなのですが、同時にオンラインではなく、濃厚接触を避けるオフラインでの方法についても、考えることを諦めてもならないなと思いました。

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5月1日に私が関わっている保育園の子どもたちと、zoomを使ったリモート工作の時間を開きました。対象は3〜5歳。対象年齢が低い場合は人数の限界は必須だと思いましたが、しっかり子どもたちは自分で考えながら独自の工作を進めることができ、相互的に学ぶ場としての手応えも感じられました。今後、私のワークショップでも活用していくことになると思います。

ここで紹介してきたミュージアムやアーティスト、演劇界の事例たちは、とてもワクワクするアプローチだと思います。
しかし、「手触り」というアプローチまで踏み込めているものは、まだありません。物流に負担がかかっている現在なので、まだそこに負荷をかけるのは時期尚早かもしれません。
なので、内心はどこか、そんなにたくさん注文がきてしまっても困るよな、と思いながら「おうちポルケ」のリリースと広報活動をしています。


新しい挑戦は、今を補完する「使い捨て」ではない

今の私のモチベーションは、まさにこれです。
新しく始めたサービス「おうちポルケ」をリリースしているのは、ウィルスのワクチンができる数年後にも使えるサービスを確立しておくこと。
新型コロナウィルスはきっかけに過ぎない。

ミュージアムに課せられた「知の共有」の可能性が増すのと同じで、これをきっかけに届けられる範囲が広がる。それは文化格差を以前よりも少し、埋めることに繋がるかもしれない。

外出が自由になる頃、新たな技を習得して進化した我々かもしれないし、経済と政治に揉まれてボロボロに退化した我々かもしれない。
政治に目を見張りつつ前者の我々でありたいと思い、自宅時間を過ごしています。みんなサイヤ人になって再び会おうぜ....


Porque ARTとして新たに始めた「おうちポルケ」
よかったらのぞいて見てください。









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