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【本】この現代の息苦しさを知る。

『出口のない海』がよかったので、絶賛、横山秀夫祭り中です。

『ルパンの消息』は、横山氏が最初に手がけた警察小説。

15年前自殺とされた女性教師の死が殺人だったというタレ込みに端を発し、関係者として呼ばれた当時チンピラ高校生だった3人。時効まで24時間、彼らの供述で当時の事件に迫っていく中で、戦後最大の謎、3億円事件まで絡んできて…

今読むと、チンピラが見事にチンピラで笑、刑事、警官、教師の描写含め、どこかテレビドラマ的というか、一、二世代上な感じなのですが、それがかえって、日本ぽさがすごくあって、読んでいる間中、日本の空気をどっぷり吸い込みました。

何より、人の気持ちのあり方とか、避けられなかった後悔、大切なものと抱き合わせの急所、そういうのの描写がやっぱりすごい。それが、新聞社で記者をしていたときのフラストレーションからきていたというのを読んで、思わず大きく頷いてしました。

ただそれだけなら、noteに書きまではしなかったと思うのですが、本の終盤のこの言葉が、今の日本へのもやもやを的確に表していて、とても衝撃を受けました。(ネタバレにならないように、少し変えています。)

「ルールとか分別とかが幅を利かせ、善行だとか人のためとか、そうした正論の濾過器に世の中全てがかけられていった。(中略)しかし、正論では濾過しきれない矛盾だらけのブツブツが残り、そういう正論社会への疑念と憎悪がごちゃまぜになったものが犯罪者となる。

(中略)これからは邪論が幅を利かせてくるような予感がします。どれほど強力な濾過器を使っても濾過できない、あらゆる正論に耐性を身につけた化け物じみた犯罪者が次々と現れてくる。

・・・・・・

別のところで、「妙にホワイトカラー化してきた今の日本」というようなことをおっしゃっている記事を読んで、わかるな、と思ったのですが、「正論の濾過器」と表現するとは。

今一番日本に帰るのが不安な原因はまさにこれなのかなと思っていて、つまりは、帰国子女予備軍の親として、子供がこの濾過器にかけられるのがやっぱり嫌なのです。

せめて、私が子供を濾過器にかけるようなことは絶対しちゃいけないなと、心に刻んだ一冊になりました。

よりたくさんの良書をお伝えできるように、頑張ります!