日本語にがて組
日本人が日本語とくいなんてさ、うそばっかりだぜ。
教室をいどうしながら、おれは友達と離れて、中野さんとふたりっきりの教室にいく。中野さんが日本語が苦手なのはしょうがない。だって、一ヶ月前に転校して来たばっかりだし、「ブエノスアイレス帰り」だから。
はぁ。「ブエノスアイレス帰り」なんて、俺も言ってみたいもんだよなー。先生が、どこにあるか世界地図でおしえてくれたけど、遠すぎてイメージがわかないよな。
中野さんは、けっこう美人。でも、友達はいない。
ふたりっきりの授業だけど、ぼくたちも全然話さない。
俺たちの<ことばの授業>は、オンライン授業だからパソコンの前に座る。この教室には俺たちふたりしかいないけど、違う国にある同じ学校のやつとも繋いでるから、実際には15人くらいのクラスだ。みんな10歳。ことばの授業は他にもあって、英語やスペイン語、中国語、韓国語なんかもある。先生はそれぞれの言葉が話される国にいて、生徒のいる国もばらばらだ。
これは日本語のクラスだから、先生が目の前の教壇に立つときもあるけれど、半々くらいかな。今日も先生はオンラインみたいだ。よしっ。
パソコンを立ち上げると、早速画面を二つにわけて、内職の準備にとりかかる。内職っていうのは、その授業の内容じゃないことをやること。もちろん、本当はよくないし、見つかったら先生に怒られるけど、俺は今アプリを作ることにはまっているのだ。
アプリを作るのは面白い。ずーーーっとやってても飽きない。新しい、知りたい情報は英語で書いてあるから、実は、英語は日本語よりだんぜんできる。こういうところ、母さんにそっくりだと父さんは笑う。
カタカタやってると、ふと
「それって、Swift?」と聞き慣れない声がした。
ぎょっとして振り返ると、斜め後ろの席に座ったまま、真面目な顔をした中野さんがいた。
「そうだけど、読めんの?」とききかえすと、
「まあね、私も好きなんだ。」と中野さんは言う。
…まじかよ。びっくりしすぎて思わず動ようしちゃったけど、極力外に出さないようにした。何かさ、格好悪いかなっておもって。だけど、超びっくりしたわ。
授業が終わって、ふと中野さんと目があう。
「今度さ、作ったやつ見せあいっこしね?」
「いいよ。」
次の授業に移動する間、にやにやしそうなのを必死におさえた。でも、どうしてだか筆箱が賑やかな音をだす。次の理科は中野さんも友達もいる。
よりたくさんの良書をお伝えできるように、頑張ります!