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GET2019参加レポートNo.5ー2大VCの戦略から占う、今後の中国EdTeh(後半) | 中国EdTech#18

この記事は株式会社BEILリサーチブログにて 2019/12/27 に公開した記事を移行したものです

GET2019参加レポート第4、5回は、GET2019に登壇していた蓝象资本と北塔资本という2つの有力VCの戦略から、今後の展開を探っていきます。
今回は、具体的な投資先とともに、新しいトレンドを解説します。

今回扱うトピック

・ VCの投資戦略から見る、これからの注目トレンド
・今までの記事を振り返って

VCの投資戦略から見る、これからの注目トレンド

前回まで、彼らが新たにどのような方向性に注目しているのか解説しましたが、ここでは具体的な投資事例を見ながらより詳しく解説していきます。

年齢・内容・地域ごとにサービスが細分化

一つ目は、年齢・内容・地域ごとにサービスが細分化していくことです。
素質教育を見ても、2010年前後は、英語に特化してものが多かった一方、現在は様々な分野でサービスが登場しています。
K12分野や他の分野でも同じことが言えると考えられます。

例:Timing(蓝象)

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Timingは、簡単に言えば、動画版スタディプラスです。

動画で学習記録をつけられる他、複数人と勉強中の様子をストリーミングで共有し合うビデオ自習室機能などがあります。

学校向けICTツールの開発と導入

2つ目に注目されるのが、学校へのサービスの導入です。トップダウン行政で、日本よりも決定速度が早い中国ですが、それでもまだ学校のICT化は途上です。
毎年幼稚園から大学まで、合わせて3兆7000億元(約60兆)のが教育に使われています。K12教育だけでも2兆4000億元(約30兆円)の予算が存在します。
(ちなみに、ロイター通信によると、2018年の中国の歳出は22兆1000億元(約350兆円)、歳入は18兆3000億元(約290兆円)でしたので、国家予算の15%強が教育に使われていることになります。なお2019年度の日本の国家予算は101兆円です。)

このうち、ICT化に使われるのが、1%ほどと考えても、全国で約6兆円の市場が存在することになり、まだ導入が進んでいないことを考えると、これからさらに注目されていくことが予想できます。

例:合心科技(蓝象&北塔)

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合心科技は人工知能を使った自動添削システムです。添削だけでなく、弱点を分析し生徒へのフィードバックも自動で行います。教科は英語のみの対応になっているようですが、学校を中心に教師の仕事を大幅に削減してくれます。

 例:唯科乐(蓝象)

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唯科乐は幼稚園向けに、ロボット教育のカリキュラム・器材を提供するサービスです。中学・高校でも人工知能教育が推進されようとする中で、特に都会では幼稚園の頃からこうした教育を受けさえたい親がいること、一方で幼稚園側にはコンテンツがないことから生まれたサービスです。

例:十六进制(蓝象)

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十六进制は授業全般のサポートツールです。合心科技と同様に、手書きの答案をスキャン&文字認識で自動添削する機能もあり、またchromeを使った使いやすい電子黒板なども提供しています。

素質教育

先ほども解説したように、まだオンライン化されていない分野として、素質教育(STEAM教育)も注目されています。
ただし、数学やプログラミングはオンラインとの親和性が比較的高いものの、語学やアートなど、オンラインによる教育効果が見込みにくいものに関しては、既存のサービス形態とは異なったアプローチが必要になります。

例:一土教育(蓝象)

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一土教育は、北京と広州の私立学校です。幼稚園から中学校までをカバーしており、英語の授業が40%を占めます。またPBLを活用した授業を展開しています。

素質教育に分類するとと、少し違和感がありますが、従来の試験教育には収まらないカリキュラムの提供という側面が、クローズアップされているのだと思います。

例:爱得文儿童博物馆(蓝象)

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オンライン化とは違う方向性のサービスを展開しているのが、爱得文儿童博物馆です。博物館・美術館での活動を通じた子供向けの教育コンテンツを提供しています。

例:画啦啦(蓝象&北塔)

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画啦啦はストリーミングを使った幼児向けの美術教育サービスです。5,6人ほどの子供を、一人の教師が一度に教えます。
子供の手元にはカメラがあり、制作している絵を随時教師が確認してフィードバックできるようになっています。

新職業教育 

新職業教育とは、最近新しく提唱され始めた概念です。簡単に言えば、従来の資格試験対応型の職業教育から、インターネット・AIをはじめとしたスキルの学習を目指した職業教育です。
以前の記事で、中国のEdTechは職業教育が起点となって発展してきたと解説しましたが、中国でも少子高齢化の進展と人材の不足が叫ばれる中で、生涯教育的な文脈で新職業教育が取り上げられるようになってきました。

例:ViaX(蓝象&北塔)

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ViaXは大学生用の留学サポートサービスです。といっても留学の申請などのサポートだけでなく、論文執筆のアドバイスや、各学問の基礎的な授業までを提供しています。

例:一维弦(北塔);AIロボットの開発・教育ソフト

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一维弦は元々ロボット開発を行うスタートアップですが、同時に、大学へ人工知能教育のカリキュラム設計・教材や実験設備の提供を行っています。

今までの記事を振り返って

第2回の記事でも、中国EdTechの今後の展開を考察し、1)K12分野の成長、2)AIによる学習効率化、3)行政との連携 を取り上げました。

概ね方向性は当たっていましたが、1)のK12分野に関して言えば、ストリーミングサービスを中心に基本的なサービスは出尽くした感じがします。一方で、実際どこまで利用されているのか、普及に関してはどこまで可能性があるのかはわかりません。むしろ既存の形態の塾もたくさん存在することが考えられます。
おそらく、学校を起点としたEdTechの導入が戦略として取られていると言えるかもしれません。
またスタートアップ全般の収益性の悪さもあり、長期的な視点を持ちつつ、どのように市場で生き残っていくのか、ここからが勝負になるのだと思います。

参考

・蓝象资本創始者 宁柏宇「要么做大象,要么避开大象」
・北塔资本創始者 王凯峰「2020教育创业趋势分析」

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