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GET2019参加レポートNo.4ー2大VCの戦略から占う、今後の中国EdTeh(前半) | 中国EdTech#17

この記事は株式会社BEILリサーチブログにて 2019/12/20 に公開した記事を移行したものです。

GET2019参加レポート第4、5回は、GET2019に登壇していた有力VCの戦略から、今後の展開を探っていきます。
まずは蓝象资本と北塔资本という二つのVCと、両者の現状認識を見ていきます。

今回扱うトピック

・中国EdTechの二大VC
・二大VCの現状認識
・二大VCの探る新たな方向性

中国EdTechの2大VC

北塔资本と蓝象资本は、中国EdTechの注目VCです。
下の図は2017年から2019年H1までに各投資会社によって行われたEdTech投資数を示したものです。これを見ると、全体的な投資件数は減少傾向にあるものの、2019年前半期の投資数を見ると北塔资本と蓝象资本がTOP2であることがわかります。
(ちなみにそれに続くのが塾大手の新东方と好未来です。)

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* 北塔资本のスライドより

蓝象资本の基本情報

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蓝象资本は2015年に設立された、教育専門のVCです。
主にエンジェル投資やシード投資を行っています。
創業者の宁柏宇は、15年に渡って好未来や新东方で教育に携わり、その後2014年に好未来の戦略投資部で教育系スタートアップへの投資を始めます。
そこから独立して、2015年に蓝象资本を設立しました。

2019年頭までに、すでに76のプロジェクトに投資しているそうです。

北塔资本の基本情報

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北塔资本も教育専門のVCです。
2018年に蓝象资本から分裂する形で誕生しました。蓝象资本と同様、エンジェル投資やシード投資を中心に行っています。
創業者の沈文博も好未来出身で、CEO補佐、投資委員会委員などを歴任したのち、蓝象资本に共同創業者として参加しました。その後現在に至ります。

まだ設立されたから時間が経っていませんが、沈文博が業界への幅広い人脈などを活用して、積極的に投資を行っています。

2大VCの現状認識

ここからはGET2019当日に、それぞれのVCが話していたことをまとめつつ、彼らが現在のEdTechの状況をどう捉えているのかということを見ていきます。
基本的な認識は、今までの記事の内容と一致していますが、最新のデータと事例とともに、もう少し詳細に解説します。

投資件数の大幅な減少

下のグラフを見ると、ピークを迎えた2018年と比べて、2019年の投資件数が大きく減少していることがわかります。
なおグラフはそれぞれ、前期(シード〜A+ラウンド)、後期(Bラウンド〜Eラウンド・戦略投資)を分けて図示しています。

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* 黑板洞察《2019年度在线教育行业大数据报告》

教育ビジネスは収益化が難しい

こうした投資の減少は、もちろんスタートアップバブル全体の落ち着きや米中貿易戦争の影響もあるでしょうが、もう一つの背景としては教育事業が黒字化しにくいということも考えられます。

オンライン化したところで、基本的には教師をAIで代替することはなかなかできず、コストが高いのがその原因にあります。
下の図は有道,51talk,流利说,跟谁学という上場済のEdTech企業ですが、2018年の売り上げと利益を見てみると、どの企業もかなり苦戦していることがわかります。(単位は億ドル)

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* 北塔资本のスライドより

例外として、本ブログでも取り上げてきた新东方と好未来は黒字化に成功しています。
それでも新东方も好未来も上場してから株価が上昇するのにはそれぞれ10年以上の年月がかかっていることからいって、短期的に投資を回収できるような産業ではないのでしょう。

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* 北塔资本のスライドより

一方で、エネルギーや金融などのように、国営企業が存在しないことから、民間企業でもビックプレイヤーになる可能性がある点、また中国の家計に占める教育支出が25%に達していること(ヨーロッパは平均2%ほど)などから、まだまだ市場としての可能性はあるのではないかという見方を示していました。

中国EdTechの到達点

こうした状況を踏まえて、現在中国のEdTechサービスの主流はなんなのでしょうか?
特にVC的な視点から、収益的にも安定していると考えられるのが

「少人数クラス型のストリーミング授業サービス」です。

ストリーミングサービスには、大別すると他にも60人程度の生徒を一度に相手にするものと、一対一のもの(オンライン家庭教師)が存在しますが、コストと学習効果のバランスからみると、5、6人を一度にみる、少人数クラス型のストリーミング授業サービスが主流と言えます。

VCの探る新たな方向性

蓝象资本と北塔资本のプレゼンから、大きく分けて2つの方向性が見えてきました。

まだオンライン化されていない分野に注目

すでにK12を中心に、既存の塾で行われていたようなコンテンツはオンライン化されており、それぞれに有力サービスが存在します。
そこで新たに注目されるのが、素質教育です。
STEAM教育、特にアートや科学実験などはオンライン化しづらい特性があり、単純にオンライン化するのではなく、コンテンツにあった形でオンライン化を進めることが必要です。

実際、下の図を見ると、徐々に音楽、芸術、プログラミング、国語、論理思考、科学といったサービスが出始めているのがわかります。

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* 北塔资本のスライドより

AIの活用

以前の記事でも同じようなことを報告しましたが、VCの観点から見ても、
なかなか短期的な収益化が難しい教育事業で、学習効果を保ったまま規模を拡大させるにはどうしたらいのか、ということが課題になってきます。
以下の図は北塔资本のスライドから借用したものですが、
さらなるAIの発達と、授業方法の革新による個人最適化学習、というのがポイントになるのは間違いなさそうです。

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* 北塔资本のスライドより

それでは、次回は、より具体例とともに、今後の展開を深掘りしていきます。

参考

・蓝象资本創始者 宁柏宇「要么做大象,要么避开大象」
・北塔资本創始者 王凯峰「2020教育创业趋势分析」

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