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恐怖列車と太陽の君(2)


前編 恐怖列車と太陽の君(1)


『恐怖列車への招待状』

それから数日後、恐れていたことが現実になった。
昼食の時間、突如全員のスマホが鳴り、メッセージが届いたのだ。


「恐怖列車ってやっぱり本当だったんじゃん!」
「私たちも消えちゃうの?」

泣き出す女の子までいて、教室内はパニックになりかけていた。


そんな空気を変えたのは、やっぱり佐藤君だった。


「みんな、俺の話を聞いてくれないかな」

教室中に彼の声が響き渡る。
しんと静まり返った教室。
教壇に立った彼は、クラス全員を見渡してから言葉を続ける。

「実は、少し前から恐怖列車について調べてたんだ。それで、列車から全員無事に降りる方法も突き止めた」

佐藤君は一瞬だけ私のほうを見てうなずいた。

「だから、明日はこのメッセージに書かれた集合場所に来てほしい。俺が絶対にみんなを助けるから」

何の根拠もない言葉だったと思う。
けれど、その一言でクラスがひとつになった感じがした。

やっぱり佐藤君は太陽の人だ。



翌日。
メッセージに書かれた時間よりも少し前にA駅に到着した。
クラスメイトも何人かいる。

噂と一つだけ違ったのは、すでに恐怖列車が到着していたこと。

全体的にさび付いた車体は、いつかテレビで見たどこかの田舎町のローカル列車に似ている。
そして、駅と列車全体にうっすらともやがかかっているようで、もしかしたら私たちはすでに別の世界に迷い込んでしまったのではないか、という気さえする。

到着した人から列車に乗る、という空気ができつつあるようで、列車の中にはすでにクラスメイトのほとんどが座っているようだった。
それを見た人も、一人、また一人と列車に吸い込まれるように恐る恐る乗り込んでいった。

佐藤君はどこだろう。
そう思いながら、私も流れに乗るようにして列車に乗り込んだ。


列車の中は意外ときれいで、座席は青色のロングシートとなっている。
すでに席は半分以上が埋まっていて、ぽつぽつと一人分の座席が空いている程度になっていた。
列車全体を緊張感が包んでいて、皆一様に無言の中を静かに歩いて座席を探す。

どこに座ろうか。
こういう状況でも、座る順番や位置は重要で、なんとなくではあるがクラス内のカーストが反映されている感じがした。

迷っていると、真ん中よりもやや車両後部側に、3人程度が座れるスペースが目に入った。

佐藤君が隣に座るかもしれない。
無意識にそう思った私は、そのスペースの一番中央寄りに腰かけた。

と同時に列車に乗り込んでくる佐藤君の姿が見えた。
人数を数え、全員が乗車していることを確認すると、佐藤君は当然というように私の隣に腰かけた。

いつもの明るい「おはよ!」はなかった。

しばらくすると、突然列車のドアが閉まり、列車は緩やかに走り出した。



佐藤君の考えは的中していて、私たちは2問目までを無事にクリアすることができていた。
このまま3問目に進む、と思ったところで、なぜか列車は減速を始めた。

佐藤君を横目でちらっと見ると、彼は動揺する様子もなく、まっすぐ前を向いている。

「ねえ、電車が止まることってあるんだっけ?」

私も前を向いたまま小声で尋ねてみた。

「俺の調べた限りでは聞いたことがない。走っている列車の窓から飛び降りようとした人は、列車から体が出た時点でみんな死んだって聞いたけど」「じゃあなんでゆっくりになってるの?止まっちゃいそうだよ?」

私たちの会話を聞いたクラスメイトたちも、不安が混じりながらも、「もしかしたらこのまま降りられるんじゃないか」という空気になっていた。


そして、ついに列車は止まり、ドアが開いた。

「やったじゃん!クリアしたんだよ俺たち!」
「早く降りようよ」

開いた扉の近くにいた男子数人が声を上げ、列車を降りようとする。


「「待って!!」」


佐藤君と私は立ち上がってほぼ同時に声を上げていた。

が、制止は間に合わず、数人が列車を降りてしまった。


「どうなっちゃうの?」

恐る恐る佐藤君を見ると、佐藤君は声にならない声で「わからない…」と言った。


結局、そこ10人ほどが列車を降りてしまったが、誰かが死んでしまうようなことは起こらなかった。
そうこうしている間にまた扉はしまり、列車はゆっくりと走り出した。


「どういうこと?」

今度は佐藤君のほうを見ずに、まっすぐ前を向いたまま口に出してみた。

「ごめん、みんなをここから無事に降ろすって約束したのに、これじゃあこの後どうなるかわからない」

佐藤君は本当に申し訳なさそうに、小さな声でそう言った。

「だいたい、何かがおかしくない?こんなに簡単に問題がクリアできるなんて。列車から降りても何も起こらないなんて…
もしかして、罠なんじゃないの?」

「確かに、何かがおかしい。はめられたのかもしれない」

「やっぱり、ここから降りるなんて無理なんじゃない?私たち」

さっき降りたクラスメイトだって、今頃どうなっているか…。
もう終わりだ。


「ねえ佐藤君」

もうどうにもならないなら、最後くらい私も太陽の人になりたいよ。
最後くらい、君とちゃんと話がしてみたいよ。

「どうして、私の隣に座ったの?」

もっと話すべきことがあった気がするけれど、私の口からはそんなつまらない言葉しか出てこなかった。


佐藤君は一瞬考えて

「そのほうが、お互いのためにいいと思ったから。お前と一緒なら、全部終わらせられると思ったから」

と言った。

なんでよ。
なんで最後の最後にちょっとあったかい気持ちにさせられちゃうんだろう。

君は太陽の人で、
私はその真逆にいる人間で。
なのにどうして私なんかを頼るの?

「どうして、私に恐怖列車のことを相談したの?」

何気なく聞いたつもりだった。

けれども、佐藤君の表情はさっきまでとは明らかに違っていた。

そして気づいたのだ。

佐藤君は、どこで恐怖列車の車内での出来事を知ることができたんだろう、と。


「ねえ、君は誰?何が目的なの?」

私が言ったと同時に、車内に3問目開始のアナウンスが流れた。


すると佐藤君は立ち上がって、今日初めてまっすぐ私を見つめた。

「俺が行くよ。全部、終わらせるから。

お前のことも」


佐藤君は終わらせようとしている。
この恐怖列車を、そして私を、そして自分のことも。


そっか。
君は、
太陽の人なんかじゃなかったんだね。


<おわり>



あとがき

久しぶりに夢日記に書けるくらいの物語系の夢を見ました。
こういう話、まんがでよくありますよね。
『王様ゲーム』とか『友食い教室』とか。
それ系の漫画はたまに読むので、多分記憶の整理で現れたんだと思います。

けれど、そういう物語にありがちな、友達に対して疑心暗鬼になるようなことは途中まで全くなく、
佐藤君はどこまでもかっこよくて優しくて正義で、
最後、佐藤君と列車の中で隣に座ったときとかは、友情って美しい、とすら思えるくらいの気持ちになりました。
漫画だと、佐藤君ポジションは結構早めに消されますよね。
多分列車に乗ることすらできないくらい序盤で(笑)

だから、朝起きた時は、泣きながら「最後まで生きていてくれてありがとう」と思いました。

ちなみに、佐藤君は実在する私の友人です。
夢の中では、現実の私と佐藤君の関係性と
夢の意識における私と佐藤君の関係性とがときどきぐちゃぐちゃになって、
時には親しみを覚えて肩を借りて泣きたくなるくらい全信頼を寄せることもあれば、
佐藤君の気持ちが全然読めず、すごく遠い存在のように感じることもあって、
ずっと情緒不安定でした。夢の中ではいつものことなんですけど(笑)

列車の中で佐藤君と向き合ったのはたったの一度だけで、最後に一瞬だけ私の目を見て「俺が行くよ」と言ったところ、
ふつうにドラマのラストくらいにかっこよかったなー(何目線だ)

実際の夢では、佐藤君とはもうしばらく「これおかしくない?」「はめられたんじゃ?」みたいなやり取りが続いて謎の連帯感が芽生えつつも目覚めてしまったのですが、
それだと終わりが見えないので、ここでは佐藤君に無理やり悪役になってもらいました。
佐藤君が恐怖列車の黒幕で、その目的は私を消すことだったんでしょうね。なぜそうなってしまったのかが自分でも気になりますけど
悪者にしてごめんね、佐藤君。

でも佐藤君と列車の中で隣に座ってくれたことは、本当にほっとしたし嬉しかったです。

そして、本当は列車に乗ってからをしっかり書くべきだと思うんですけど、いかんせん夢なので、ステーキ食べたりオレンジジュース飲んだり、本当にくだらないことばかりで、文字に起こせるような内容じゃありませんでした(笑)
『神さまの言うとおり』を書いた人ってすごいな~って思います。

そしていつものことながら、夢なので矛盾や疑問点も多々残りますが、『悪の教典』みたいなエッセンスを入れれば、佐藤君を悪者にせず、生徒の失踪を学校がなぜ隠ぺいしていていたのか、あたりの疑問が解消できるな~なんて思いながらも、
これは夢なので、今日のところはある程度夢に忠実につづって終わりにしました。あと書いているうちに記憶が薄れてきて最後グダグダ。

佐藤君ありがとう!
悪者にして、ごめんね(笑)

今日はいい夢が見たいよ!










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