セブン&アイ・HDの2024年2月期決算から考える投資魅力

セブン&アイ・HDの2024年2月期決算から考える投資魅力


 4月10日にセブン&アイ・HD(以下、セブン&アイ)の2024年2月期(2023年3月~2024年2月)連結決算が発表された。日本の上場小売企業はほとんど2月か8月決算である。

 そのセブン&アイの決算内容からは、実にいろんな問題が見えてくる。悪い話ばかりではないが、結構気になる話も多い。

それでも何とかセブン&アイの投資魅力を探し出してみようと思う。日本最大の小売企業であり、世間ではこれからもインバウンド需要拡大や賃上げで消費が拡大すると期待されているからである。

 現在のセブン&アイのトップである井坂隆一・代表取締役社長は、2016年5月の定時株主総会直前に創業家(伊藤家)、社外取締役、それに「物言う株主(当時はサードポイント)」まで味方に引き入れたクーデターで実質創業者だった鈴木敏文・代表取締役会長(当時)を追放し、以来トップに座り続けている。

 クーデターでも何でも要は井坂に実力と人望があり、セブン&アイが健全な成長を続けていればれ何の問題もないが、どうもそうではない。またそんな井坂が寄せ集める経営陣も、当然に軽量級である。 

 さらに問題は、鈴木敏文・代表取締役会長(当時)が完成させていた堅牢な国内コンビニ事業の各種システムが今も健在で、井坂があまり手を加えなくても(実際は放置したままで国内店舗サービスの劣化を招いているが)国内コンビニ事業は収益を上げ続けている。そのためグループ全体の問題点の認識・改善が「さらに」遅れてしまう弊害が出て来る。

 また井坂が「独自色」を出そうと海外(北米)コンビニ事業を急拡大させるも明らかにコントロールできておらず、また保身のために「物言う株主(現在はバリューアクト)」の要求を聞き入れて不採算事業売却に動くが、2023年9月の百貨店事業(そごう・西部)売却は1296億円もの巨額損失となり、今度はイトーヨーカ堂売却に取り掛かるも創業家(伊藤家)に遠慮して最初から中途半端な方向に進み始めている。

それでもそんなセブン&アイの投資魅力を何とか探し出してみたい。


その1  セブン&アイの2024年2月期連結決算のポイント 売上げと利益


 セブン&アイは、売上げ規模も利益水準も「国内最大」の小売企業である。

 その2024年2月期の連結決算は、売上げに相当する営業収益が11兆4717億円(前年度比2.9%減)、営業利益は5342億円(同5.5%増)、純利益が2246億円(同20.1%減)となっている。

 セブン&アイの2024年2月期は、営業利益だけが過去最高であるが、営業収益と純利益は過去最高となった前年度(2023年2月期)から、それぞれ2.9%、20.1%の減少となっている。

 コロナが下火となり経済活動が活発化し、とくにインバウンド需要が急回復する中で、売上げに相当する営業収益が微減となり、純利益が2割も減少していることになる。

 2024年2月期において国内小売企業で第2位となるイオンの営業収益(売上げ)が9兆5535億円(前年比比4.8%増)、営業利益が2508億円(同16.6%増)、純利益が446億円(同109%増)と、4年ぶりに最高益となった。総合スーパーとコンビニの違いはあるが、イオンの営業収益(売上げ)も利益も、セブン&アイを上回るスピードで拡大している。

 また8月決算であるが2023年3月~2024年2月の数字をつなぎ合わせると、国内小売企業で第3位となるファーストリテイリングの営業収益(売上げ)が2兆8972億円、営業利益が4179億円、純利益が3387億円となり、同期間(2024年2月期)のセブン&アイの純利益を上回った。


その2  コンビニ専業大手のファミリーマートとローソンとの比較


 セブン&アイを含むコンビニ各社の決算数字は、内外の加盟店売上げが含まれていない。それを加えたセブン&アイの2024年2月期におけるチェーン全体の営業収益(売上げ)は17兆7899億円であるが、やはり前年度比0.3%減となっている。

 繰り返しであるが、セブン&アイの2024年2月期の営業利益は5342億円(前年比5.5%増)、純利益が2246億円(同20.1%減)である。それではコンビニ専業のファミリーマートとローソンはどうなっているのか?

 2020年11月に伊藤忠商事の完全子会社となり上場を廃止したファミリーマートの2024年2月期は、チェーン全体の営業収益(売上げ)が3兆692億円(前年度比3.8%増)、営業利益が837億円(同30.8%増)、純利益が518億円(同50.9%増)となり、すべて過去最高となっている。

 また現在、三菱商事の持ち株(50%)以外をKDDIがTOBで買い集め、完了後は三菱商事とKDDIが50%ずつ保有してやはり上場を廃止するローソンの2024年2月期も、チェーン全体の営業収益が2兆7569億円(前年度比7.2%増)、営業利益が940億円(同46.3増)、純利益が521億円(同75.5%増)と、やはりすべて過去最高となっている。

 ファミリーマートは伊藤忠グループの中で内外コンビニ事業だけの決算数字となっており、ローソンは内外コンビニ事業以外にエンタメ事業(営業収益が808億円、営業利益が66億円)が含まれるが、両社とも内外コンビニ事業全体の営業収益(売上げ)は増加しており、利益水準は急拡大している。

 2024年2月末時点における国内コンビニだけの店舗数ランキング(チェーン別)は、セブン・イレブンが21248店舗(2023年2月末比137店舗増)、ファミリーマートが16047店舗(同267店舗減)、ローソンが13779店舗(同44店舗増)となっている。

 以下、イオン系列のミニストップが1814店舗(同54店舗減)、北海道が地盤のセイコーマートが1173店舗(同4店舗増)、デイリーヤマザキが952店舗(同30店舗減)と続き、国内総店舗数が56505店舗(4年連続減少となる200店舗減)となっている。

 つまり国内コンビニはお手3社による寡占が進んでいる。2024年2月末現在の国内総店舗数における大手3社のシェアは90.4%であるが、チェーン別集計なので別チェーンとなっているローソン・スリーエフ(330店舗)、ナチュラル・ローソン(126店舗)、ファミマ!!なども加ええると、シェアはもっと上がる。

 大手3社の中でも、足元ではファミリーマートとローソンが売上げ規模においても利益水準においても停滞しているセブン&アイを追い上げているが、2024年2月期においても国内1店舗あたりの1日平均売上げはセブン・イレブンが69.1万円、ファミリーマートが56.1万円、ローソンが55.6万円と「まだまだ」差がある。

 まだ井坂が追放した実質創業者である鈴木敏文の「遺産」が残っていることになる。

 それではそんなセブン&アイの2024年2月期決算を「より詳しく」見ていく前に、「そもそも国内コンビニ事業は本当に拡大しているのか?」も検証しておく必要がある。


その3  国内コンビニ事業は本当に拡大しているのか?


 一般社団法人・日本フランチャイズチェーン協会が集計する「コンビニエンス統計調査(月報と年報)」は、国内コンビニ店舗の98.5%をカバーしており、しかも毎月20日に前月分が集計・発表される「貴重な」データである。前年分も翌年1月20日に発表され、日本の消費動向も「最速で」把握することができる。

 1年以上の数字が遡れる「既存店」ベースの年間売上げの前年比変化率を、コロナ直前の2019年暦年(1~12月)から集計すると、2019年が0.4%増、コロナに見舞われた2020年が4.7%減、2021年が0.6%増、2022年が3.3%増、2023年が4.1%増となっている。

 確かにコロナが下火になりインバウンド需要が急回復している2022年~2023年の「消費」が急拡大しているように見えるが、データは物価上昇も加味した名目ベースである。

 同じ2019年以降の消費者物価指数(総合)の前年比変化率は、2019年がプラス0.5%、2020年がプラス0.0%、2021年がマイナス0.0%、2022年がプラス3.2%、2023年もプラス3.2%となっている。2019年10月以降の1年間は消費増税分(8%から10%。軽減税率あり)も含まれる。

 つまり2022年~2023年の「消費」急拡大の大部分が価格上昇分であり、日本の消費活動は価格上昇分を除いた実質ベースでは「ほとんど」回復していない。

 現時点ではコンビニ各社の利益が高水準であるところから「価格転嫁」も順調に進んでいることになる。コンビニ大手の収益の源泉は物価上昇分の価格転嫁を順調に(というより便乗して必要以上に)転嫁出来ている結果で、その負担は消費者と納入業者と高額ロイヤリティを本部に支払う加盟店が負担している。

 4月以降も原油価格の上昇や円安でインフレは加速するため春闘だけでは実質賃金の目減りは解消せず、消費活動は名目ベースでも「いずれ」減速に転じ、安直な価格転嫁に頼れなくなる恐れがある。つまり大手コンビニの利益水準も「どこかで」腰折れする可能性も出てくる。


その4  そこでもう一度、セブン&アイの2024年2月期連結決算に戻る


 セブン&アイの2024年2月期における主要セグメント営業収益(売上げ)は、「国内コンビニ事業」が9217億円(前年比3.5%増)、「海外コンビニ事業」が8兆5169億円(同3.7%減)、それに「スーパーストア事業」が1兆4773億円(同1.9%増)である。金融事業などその他の事業は規模が小さいので省略するが、営業収益合計が11兆5348億円(同2.9%減)となる。

 前年度はこれに「百貨店事業」営業収益が4673億円加わっていたが、2023年9月1日に百貨店の「西部。そごう」をハゲタカのフォートレストにわずか8500万円で売却してしまったため、2024年2月期からは「百貨店事業」が消えている。「西部・そごう」の保有不動産だけで3000億円の価値があったはずである。

 これまでも書いているように国内および海外コンビニ事業の営業収益(売上げ)には内外の加盟店売上が含まれていない。紙面の関係で計算方法は省くが、加盟店売り上げを含めた国内チェーン全店売上げが5兆3452億円、海外チェーン全店売上が10兆4118億円と、海外コンビニ事業が国内コンビニ事業の約2倍の売上げとなっている。

 2016年5月にグループトップとなった井坂は、何とか自分の「独自色」を出そうと海外コンビニ事業に注力する。そして2020年8月に米国のガソリンスタンド併設型コンビニを約3800店舗運営するSpeedway を210億ドル(当時の為替で2.2兆円)で買収すると合意し、2021年7月に合併を完了させる。

 Speedway の2020年の営業利益が13億ドルで、この買収で130億ドルもの「のれん」が発生していることを考えても「かなり」割高な買収だったが、それでセブン&アイの100%子会社である7-Eleven Inc.は13000店舗と北米最大のコンビニとなり、2022年2月期には海外コンビニ事業のチェーン全店売上が「初めて」国内コンビニ事業のチェーン全店売上を上回った。さらに2024年2月期にはその差が約2倍まで拡大している。

 国内コンビニ事業が飽和状態であるため海外コンビニ事業を拡大する戦略は「間違い」ではない。しかし問題は井坂を含むセブン&アイ経営陣が急拡大する海外とくに北米事業の実態とリスクを正確に把握しているとは思えないことである。

 2005年に7-Eleven Inc.のCEOとなったジョセフ・デビントは、北米以外の海外業務を統括する7-Eleven International LLCも含めてセブン&アイ海外部門の唯一の責任者となったが、井坂らはデビントをコントロール出来ているようには見えない。デビントを採用した鈴木敏文社長(当時)は決してデビントに大きな権限を与えなかった。

 外国人幹部に過大な権限を与えると「巨額報酬」を狙ってとんでもないリスクを抱え込み、それを本社がコントロールできず、致命的な状況になるまで認識できず手遅れになることがある。まさに全くコントロールできていなかった米ウエスティングハウスに潰された東芝のケースである。コンビニは原子力発電よりはリスクが少ないが、それでも事業が10兆円規模まで拡大すれば、セブン&アイといえども何かあった場合のダメージは大きい。

 日本最大の小売企業であるセブン&アイの命運は、いつの間にか「実力が未知数」であるデビントが差配する「日本からよく見えない」海外とくに北米コンビニ事業に過剰依存となっていることを、株主はよく認識しなければならない。

 全くの余談であるが。セブン&アイ取締役でもあるデビントの直近の役員報酬は37.8億円(井坂は2.4億円)である。デビントの報酬は日本企業の取締役としてはLINEヤフーの慎ジュンホ代表取締役の45億円に次ぐ(出澤社長も10億円)。LINEヤフーは度重なる韓国そして中国への情報漏洩を引き起こして深刻な経済安保上の懸念となっている。


その5  セブン&アイの2024年2月期連結決算の収益について


 繰り返しになるが、セブン&アイの2024年2月期における営業利益は5342億円(前年度比5.5%増)と過去最高であるが、純利益は2246億円(同20.1%減)となり、足元のペースでファーストリテイリングに追い抜かれてしまった。

 その純利益が減った主な理由が2つある。

 1つは、2023年9月1日に「百貨店事業」を売却したものの売却損と債権放棄で1296億円もの損失を計上し、イトーヨーカ堂のリストラ費用なども加えて合計2459億円もの特別損失を計上したからである。前年度の特別損失は866億円だった。 

 もう1つは、Speedwayを210億ドルで買収した結果、長期の有利子負債(借入れと社債発行残高)が買収完了前の2021年2月期末の9275億円から2024年2月期末の2兆7535億円に急増し、同時に金融費用(金利負担)が同じく191億円から506億円に、減価償却が同じく2204億円から3880億円に、それぞれ増加している。借り入れはドル建てが多く、それだけ金利負担も増加している。

 2024年2月期のセグメント別営業利益は国内コンビニ事業が2504億円(前年度比8.0%増)、海外コンビニ事業が3016億円(同4.1%増)となっているが、海外コンビニのセグメント別営業利益には減価償却や金利負担が反映されておらず、また急激な円安が海外事業の売上げや営業利益を「機械的に」押し上げていることも考えれば、急拡大している海外コンビニ事業の実質的な利益は「思ったほど」大きくない。

 始まったばかりの2025年2月期も、イトーヨーカ堂などのリストラ費用負担は引き続き発生するはずで(理由は次項に)、減価償却や金利負担も急に減らず、何よりも急に円安修正となれば海外コンビニ事業の売上げも営業利益も「機械的に」減ってしまう。

 それにその3で書いたように、インフレ加速でこれまでのような「安易な価格転嫁」が難しくなることなども考えると、今後のセブン&アイの収益は、だんだん厳しいものとなる可能性の方が強い。


その6  今度はイトーヨーカ堂の売却


 4月10日付け日経新聞が、セブン&アイは傘下の総合スーパーであるイトーヨーカ堂などの株式を2026年以降に一部売却する検討に入ったと伝えている。出元はもちろんセブ&アイである。

 2016年5月にクーデターでグループトップとなった井坂は、常に不採算部門売却を迫る海外「物言う株主」の攻撃に晒され、保身のために百貨店事業をハゲタカに売却した。そこで2500億円で売却できると舞い上がっていたが、実際は「いろんな思い違いで」8500万円の売却になり、債権放棄も併せて1296億円もの巨額損失となってしまった。

 早く百貨店事業を売却しなければ自分の首が危ういと焦った井坂は、フォートレストなるハゲタカに見透かされて弱腰になってしまい、結果的に「とんでもない」売却条件となってしまった。

 今度は同じ不採算部門であるイトーヨーカ堂など「スーパーストア事業」の売却に取り掛かるが、2016年5月のクーデターで後ろ盾になってもらった総合家(伊藤家)の手前、おいそれと「不採算だから売却します」とは言えない。

 そこで「百貨店事業」売却大失敗の反省も入れ、創業家にできるだけ経済的メリットを残すために(要するに高く売却するために)内外コンサルタントを高額で雇って考え出したスキームのはずである。

 ところがイトーヨーカ堂を含む「スーパーストア」事業の2024年2月期は、1兆4773億円の売上げと135億円の営業利益しかない。これを報道にあるように「どうやって」2000億円超で売却するつもりなのか?

 具体的には(鈴木敏文社長時代から延々と続けてきた)リストラ費用の名を借りた資金援助を続け、伊藤家の保有分だけでも高く売却し(だから一部売却となっている)、さらに創業家次男の伊藤順郎を代表取締役副社長に昇格させ「旗頭」に据えるが、それでも希望価格での売却など不可能である。

 間違っても「不採算部門の売却」とは呼ばないが、創業家に配慮した「救済策」でしかない。セブン&アイには、また「余計な負担」が発生するだけで、株価へのプラス効果も全くない。


その7  最後にセブン&アイの株価はどうなる?


 セブン&アイは今年度に入った3月1日に1株を3株に分割しているため、ここからの株価はすべて分割調整後に揃える。

 セブン&アイの4月12日の株価(終値、以下同じ)は2000円、時価総額は5兆2651億円、予想PERは17.9倍、実績PBRは1.41倍。予想配当率は2.0%と、何とも中途半端な水準である。

 セブン&アイの株価は、井坂がクーデターでトップとなった2016年5月末が1581円だったので、そこから4月12日まで26.5%しか上昇していない。その間の日経平均が17234円から39523円まで2.29倍になっているため、確かに「物言う株主」の不満も分からないわけではない。

 そもそも「物言う株主」の自社株買いを含めた株主還元要求に応じる必要はないが、セブン&アイは配当だけで純利益の50%に達しているため、自社株買いの余裕もない。

 唯一思いつく株価対策は「井坂辞任」であるが、長く居座るつもりの井坂は後継候補を全く準備しておらず、外国人を含む外部からの招聘もロクなことにならない。デビント起用など悪夢でしかない。

 逆に北米事業の分離・上場も考えたが、あまりにも無理がある。

 長々と書きながら考えてきたが、どうしても結論は「セブン&アイには投資魅力がない」となってしまう。多少株価が下がっても同じである。