〔符号略号〕 モールス符号と通話表 ①
モールス符号
Samuel Finley Breese Morse(サミュエル・フィンリー・ブリース・モールス 1791年4月27日~1872年4月2日 アメリカ合衆国 発明家)は、現在のものと全く異なった電信符号を用いて電信実験を行い、その後、改良した電信符号で特許を取得し、発明者にちなんで「モールス符号」となる。
日本では、無線局運用規則(昭和25年電波監理委員会規則第17号)別表第1号の和文と欧文(国際電気通信連合(ITU) 国際電気通信連合憲章に規定する無線通信規則(RR : Radio Regulations)に対する勧告と同じ。)符号が定められている。
モールス符号は、短点(・ : 「ト」と表現)と、長点(- : 「ツー」と表現)を組み合わせて、A~Z(アルファベット)、数字、記号、カタカナ(和文)を表現し、長点1つは、短点3点分の長さに相当し、各点の間は短点1点分の間隔をあけ、文字の間隔は短点3点分、語間隔は短点7点分あけて区別する。
ただし、符号の上に上線が引かれているものは、例えば、SOS(上線付き)は、「・ ・ ・ - - - ・ ・ ・」と間隔がないよう連続で打ちます。(SOS 上線なしの場合 「・ ・ ・ - - - ・ ・ ・」と文字の間、短点3つ分空白となる。)
和文モールス符号については、文献をまとめると、以下のとおり。
・ 1855年(安政 2年) オランダ人が考案
・ 1869年(明治 2年) 子安峻(こやす たかし)が考案
・ 1873年(明治 6年) 吉田正秀と寺崎遜らが現行の和文モールスとなるものを考案
・ 1885年(明治18年) 7月 1日 濁点とルの符号を入れ換え。
「ヰ」(ゐどのヰ/井戸のい)、「オ」、「ヱ」(かぎのあるヱ/鍵のあるえ)を追加
・ 1893年(明治26年) 7月15日 「ー」(長音)を追加
・ 2004年(平成16年) 7月 1日 「@」アットマークを追加
◎ モールス無線通信
モールス無線電信による通信を「モールス無線通信」といい、無線局運用規則((昭和25年11月30日 電波監理委員会規則第17号)第12条関係 別表第一号に掲げられているモールス符号を用い、また、無線電信による通信を「無線電信通信」といい。業務用語には、同規則第13条関係 別表第二号に定める略語又は符号(略符号」)を使用し、略符号と同意義の他の語辞を使用してはならないと規定されている。
モールス無線通信は、アマチュア無線局、漁業無線局のほか、モールス符号で識別信号を送信する人工衛星局、無線航行局、無線標識局などがある。
最近まで、防衛省、海上保安庁等の無線局でもモールス無線通信を利用していたが、固定通信業務を行う無線局等が廃局し、同時に無線電報書式による通信も廃止された。
無線電信通信の手送りによる通報の送信速度の標準(1分間あたり)
・ 和文 75字
・ 欧文暗語 16語
・ 欧文普通語 20語
とし、送信速度は、空間の状態及び受信者の技倆その他相手局の受信状態に応じて調節しなければならない。
そして、遭難通信、緊急通信又は安全通信に係る送信速度は、原則として、1分間あたり和文70字、欧文16語を超えてはならない規定がある。
◎ 無線電信遭難周波数 500kHz
船舶局と交信できるのは、海岸局のみですが、500kHz及び関連する周波数の割当てを受けている海岸局は、日本には、存在しませんが、一般業務用船舶局が1局(隻)ある。(2024年12月調べ)
無線電信遭難周波数 500kHzは、船舶局が、モールス符号による遭難通信(SOS(上線付き))を発信できる唯一の周波数で、毎時15分から18分と、45分から48分の各3分間は、SOSを出す以外は電波の発射を禁止する沈黙時間(SOSに対する聴守時間)となっていた。
無線室には、SOLAS条約で定められた時計があり、径5インチ(12.5cm)以上、長針(分)黒色、短針(時)黒色、同心の秒針の3針、これに、日本時間(JST)とグリニッジ標準時(GMT≒UTC : 協定世界時)との両方を表示するため短針(時)緑色が付加されているものがある。沈黙時間帯には、放射状に赤色で塗り潰されていた。
わが国最初のSOS(海難通信)は、1908年(明治41年)12月18日未明、汽船「第2電信丸」が角島沖で沈没したが、その際に同船からのSOSを角島無線電信局(JTS 海岸局)が受信したのが最初。
実際、商船の場合、1人通信士=通信長が多く、ブリッジ(操舵室)と同じ階に、船長室、通信室(通信士の部屋を兼ねている場合が多い)がある。
乗船中、500kHzでの実際の遭難通信を受信したことはなかったが、非常に強い信号で、短点12の後に「SOS SOS SOS DE J」まで打って、その後、信号がいなくなったことが一度あった。(ドキドキしたね。)
船舶局の無線通信士は、中波と短波による陸船間通信(主に電報による通信)を行い、ブリッジにある国際VHFによる通信等は、船長以下航海士が行う。
無線通信士は、入港中、26175kHz以下の電波を使用することが原則できないので、出港した港の防波堤を出たところ(港外)から入港する港の防波堤の手前までがお仕事時間で、港内にいる間は、原則として、電波の発射ができなくなるので、お休みとなる。
多くの海外の港では、入港直前、検疫や税関等の職員がボートがやってきて、無線室にある送信機のスイッチ類に封印をすることも多い。国によっては、この職員の中には、スタンプが欲しければ煙草を2カートンほしいとか、いろいろあるけどね。
◎ 基本的な中波の当直
① 当直時間になると通信室に入り室内灯を点灯し、時刻の確認、室内の目視点検及び通信開始時刻等の確認をする。
② 管制盤の主電源を入れる。この時点で、自動遮断器やヒューズが飛んだ場合は、再投入し、同現象があるときは、原因調査、修理完了後でなければ、再投入してはならない。火災等の災害防止。以下、電源を入れるときは同様。
③ 無線業務日誌による当直状況を確認と記録。
④ 受信機用電源盤を入れ、続いて、受信機本体の電源を入れ、空中線(アンテナ)をE(アース)から空中線切替器に挿入し、空中線切替スイッチを合わせ、周波数500kHzに同調させ聴守する。
⑤ オートアラーム(警急自動受信機)の電源を切り、オートアラーム聴取中の状況を無線業務日誌に記録。
⑥ 500kHzで海岸局から本船の呼出があると、その時点で、送信機の電源を「低」、「中」、「高」の順位入れ、主空中線をEから、空中線切替機の主送信機の接続し、呼出周波数で応答後、連絡設定を行い、その後、通信波に切替、通信を行い終了後、500kHzに戻り、聴守に入り、主送信機の電源を切る。無線業務日誌に記録。
⑦ 当直が終わると、オートアラームの電源を入れ、受信機本体の電源を切り、管制盤の主電源を切る。無線業務日誌に記録し、次の当直時刻を確認。室内灯を消灯し退室。
実際には、短波の周波数での通信のほか、気象ファックスや新聞ファックスの受信のほか、メンテナンスとしては、甲板員の方に手伝ってもらいながら、バッテリーへの補水や、空中線の清掃・点検等もある。
◎ 想い出
短波通信では、送信位置と受信位置がお互いに、日本からの距離が離れれば離れるほど、いろいろな困難にさらされる。
・ 季節が、夏季、冬季。北半球と南半球
・ 時間帯が、昼間、夜間。
・ 航行している海域が、赤道に近い海域、極域海域。
ということで、電離層に起因する問題のほか、赤道付近では、中波は通信に不向きとなり、冬の極域では、塩分が混ざった雪雨により、空中線の絶縁が失われたり、アンテナ線に氷が付着するなどで通信できなくなったりする。
特にワイヤーアンテナの碍子部分に塩分が付くと絶縁がなくなり、送信機の終段の真空管が真っ赤になるので、壊れる前に、マストに上り、碍子を真水で洗浄する方法しかなく、雪雨が連続して襲ってくる場合は、1回の洗浄で、20分を過ぎると、また、真空管が怒り出す。
漁業無線局でのモールス無線通信では、欧文と和文が入り混じるので、慣れるまで時間が掛かった。
JABC DE JXYZ TR QTO ハワイ15ヒ1700LT(ローカルタイム)
キセンムケ カイゴウ ポイント N(北緯)26.30 W(西経)146.30 ETA(到着予定時刻) 18ヒ 1400LT
チカクナリマシタラ SSBでオネ(お願い)、、、、
北緯26.30をホ26.30と送ってくることもあり、また、漁業無線の通信士は、感触として、長音(ツー)が若干長いような気がした。
コンテナ船では、積み込んだコンテナに書かれている記号番号等を延々と打電し、そのあと、同録しているテープで、内容を確認し、一日が終わる。
当時の細かいお話も機会があれば書きたいと思います。
つづく
参考文献等
日本無線史 第一巻 第一編 無線技術史(上) 1950年(昭和25年)12月30日 電波監理委員会
船舶局無線従事者証明 新規訓練 テキスト 1994年
モールス通信通信の原点 = CWその魅力/運用法/歴史 魚留元章著 CQ出版社 1998年
電信教則本 山崎慎一郎著 CQ出版社 1993年