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落語家を推してみる

◼️桃月庵白酒「代書屋」

2023年5/11(木)は、深川江戸資料館に行った。
二階のホールで落語会があるのだ。
地階の資料館では江戸時代の長屋や店を見て回れる。
落語前に気分を盛り上げるのにお勧め(有料だけど)。

この日の落語会は「瀧川鯉昇・桃月庵白酒 二人会」である。
脱力の鯉昇師匠に毒吐きの白酒師匠とバランスの良い会。
そのまったり具合に安心したのか、私の中で鯉昇師匠の「千早ふる」がどこかに消えてしまった(居眠りした、とも言う)。
それはともかく。

白酒師匠は毒吐きと言いつつ実は優しい。
「代書屋」は無筆のアホが代書屋に履歴書を書いてもらうって、ただそれだけの噺。

笑いをとるためにアホを徹底的に追い詰める落語家もいる。
「アホをそんなにいじめるな!」
と言いたくなることもある。

けれど白酒さんは優しい。
アホの “もりちゃん” が名字の存在を理解しないのに、
「ん~、どう言ったらわかるかな~?」
と、代書屋は悩んで言葉を探すのだ。
それがことごとく外れるのが可笑しいんだけど、決してもりちゃんをバカにしないのよ。
温かいの。

「代書屋」は柳家権太楼師匠の「セーネンガッピ!!」と、この白酒師匠の「どう言ったらわかるかな?」がマイ・レコメンド。
とか英語で言ってみる。

◼️瀧川鯉八「いまじん」

それに先立つ5月10日(水)は、横浜にぎわい座で「第四回まんぱち 三遊亭萬橘・瀧川鯉八 二人会」を聞いて来た。

この二人の異様な空気が混じり合ったら面白くないわけがない。
二人の共演を思いついた人に (この春にぎわい座を辞めたそうだけど) 盛大な拍手を送りたい。

三遊亭萬橘師匠の天才ぶりは毎回書いているので、今回は瀧川鯉八師匠について。
先の瀧川鯉昇師匠の七番弟子である。
なのに“鯉八”と一味違う名前を付けられた。

落語芸術協会の二つ目で結成されたユニット、成金メンバーの一人でもある。
成金とは全員が真打に昇進したら解散するという当初の目的を見事果たし、今や伝説になった(?)ユニットなのだ。

成金の出世頭といえば六代目神田伯山を襲名した当時の松之丞だが、こちらは講談師である。
落語家の出世頭はいろいろ意見はあろうけど、私は瀧川鯉八だと思っている。

鯉八師匠の作る新作は、どれも奇妙奇天烈である。
今回の「いまじん」はその中でも最たるものである。

よく落語はオチを楽しむ芸などと解説されるが、そんなことはない。
みんなオチなどとうに知っている。
同じ噺を演者によってどう語り、どう落とすのかを楽しんで聞くのだ。
言ってみれば究極のネタバレ芸である。

だから、新作落語も内容を明かしたとて聞くに支障はない。
あらすじを述べてもいいのだけれど、鯉八師匠の「いまじん」に限っては詳細を控えたい。
というのも初めての人には無心に聞いて、混乱して欲しいのだ。
私がそうだったように。

「え、何この噺? どこがどうなってるの? え? え? え?」
と聞き終えた当初は頭の中が?マークでいっばいになるのである。
帰り道に頭の中で
「多分こういう噺だろう」
と整理して、
次に聞いた時に
「やっぱり、こういう噺だった」
と納得して、
そして今回
「ああ、いい噺だな」
と感動した。
それだけ時間がかかる噺なのである(私のおつむが貧弱なせいとは思いたくない)。

今回のテーマは仲違い

複雑な入れ子構造の新作落語なのである。
「夏目漱石は〝I love you〟という言葉をこう訳した。〝今夜は月がきれいですね〟」と語るマクラがこの噺のテーマだろう。多分。
可笑しいようで、しみじみ愛しい噺である。

それにしても、鯉八師匠は何故こうも複雑な入れ子構造の噺にしたのか。
含羞ゆえだろう。
「こんなこっ恥ずかしいことを真顔で言えるか!」
といったところか。
繊細な人に限って、繊細さを見せたがらない。
「私って繊細なんです」
と臆面もなく言い切れる人は実は図太い。
図太いふりをした人こそ繊細なのである。
この「まんぱち」は繊細な含羞二人組の落語会と言っても差し支えないだろう。

大体がオープニングトークで萬橘師匠はまるで客席を見ないのである。
ずっと鯉八師匠を見て話しているのだから、どれだけ内気なんだと言いたい。
こちらとて高座の落語家と目が合えば俯いてしまう程度には内気だが(だから前列は苦手である)そう宣言する程度には図々しい。

いや、また萬橘さんの話になってしまった。
今日のテーマは違うのだ。
鯉八さんの奇妙さにぜひ生で直面して欲しいのだ。
この「いまじん」に次いで私が好きなのは「若草」という新作である。

※巻頭写真は「若草」をテーマにした落語会でもらった。
私立鯉八女学院の校歌と登場人物のシールである。

この写真だけでもどんな新作落語なのか興味がわくでしょう?
皆さんには奇妙な鯉八落語に接して、大いに混乱していただきたい。

第五回まんぱち12月8日開催予定

オープニングトークでこの会が四回目の開催にあたるとのことで、鯉八さんが客席に挙手を求めた。
この会に何回来ているか問うたのだ。
私は覚えていなかった。
複数回は来ているが、正確な数はわからずに二回目に手を挙げてしまった。

帰って調べてみたところ「まんぱち」の開催は以下のとおり。
一回目 2021年7月13日
二回目 2022年3月8日
三回目 2022年11月14日
四回目 2023年5月11日

うち私の出席は、一回目、二回目、四回目の三度だった。
三回目は涙を飲んで欠席している。
柳家三三師匠の「三三と豚次の五日間」通し公演とかち合ったからである。
せっかくなので一回目と二回目の演目を鯉八さんのみ感想付きで並べる。
三回目の演目は……誰か他の人に訊いてくれ。

第一回まんぱち 2021年7月13日(火)
オープニングトーク
かけ橋  のめる 
萬橘  宗論
鯉八  長崎 / これも愛が感じられるから好きな噺
鯉八  にきび / 鯉八噺には奇妙なばーちゃんがよく登場する
萬橘  青菜

第二回まんぱち 2022年3月8日(水)
オープニングトーク
楽ぽう  狸賽
鯉八  最後の夏 / 実に皮肉な本音の世界。何故笑えるかフシギ
萬橘  手水廻し
萬橘  あくび指南
鯉八  若さしか取り柄がないくせに / 私的には演題を短くして欲しい

今回とり上げた落語家のうち、瀧川鯉昇と桃月庵白酒は入門編レコメンド。
瀧川鯉八と三遊亭萬橘はステップアップ編レコメンド……かも知れない。
以上、落語家を推してみました。

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