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【温泉に行った】野沢温泉ふたたび②
■旅館と猫と
桐屋旅館の特徴は猫だけではない。
明治21年創業の歴史ある旅館なのだ。
大正時代の古い写真など見れば、かつての繁盛ぶりが伺える。
館内のそこここに見事な壺や絵画が飾られている。
コンクリート建築のようだが、廊下や階段は木造でその意匠も素晴らしい。
建築に疎い私であるからして詳しい説明は致しかねる。
けれど「レトロ」の一言で済ませるにはもったいない造りである。
とりあえず写真を並べる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699431559900-iyKO4hZvvE.jpg?width=800)
実のところ、写真は私が自室「萩の間」に戻るよすがに撮ったのだ。
だつて本館と別館に別れて入り組んだ複雑な建物なのよ。
長い歴史の間に建て増しが成されたのかしら?
それも今となっては懐かしさを醸し出すわけだが、方向音痴にとってはなかなかの魔宮である。
(方向感覚のある人にとっては、多分それほど複雑じゃないと思う)
![](https://assets.st-note.com/img/1699431560944-PyeJIH25Z4.jpg?width=800)
従業員室に入る隠し扉もあるらしくムギがひっそり待機していた
私が育った昭和時代、温泉旅行といえば団体旅行が主流だった。
それは華やかで賑やかなものだったらしい。
幼かった私には何やら猥雑に感じられる部分もあったが。
令和の今は温泉地には個人旅行者が多い。
さびれかけた街並みは若者や個人旅行者向けに新しくなっている。
猥雑さよりオシャレさが目立つ。
お陰でおひとりさまも悪目立ちしない。
このお宿には、古の華やかさが残っている。
と同時にトイレや洗面所などは新しく改築されている。
猫仕様も完璧である。
障子紙は猫が引っ掻いても破れない丈夫な紙である。
畳もイグサではないから、猫の爪で荒れることもない。
襖紙はちょこっと破れもあったけど。
いいのいいの。
猫がいるなら当然なの。
![](https://assets.st-note.com/img/1699494209856-9ME8hyLa5E.jpg?width=800)
二泊目の夜には、猫の客室係が何匹も遊びに来てくれた。
部屋のドアを細く開けておくと、当然のように入って来るのだ。
この細く開けっ放しにしておく感覚は久しぶりである。
猫を亡くして以来である。
興味津々でやって来るのは若い子猫が多く、手拭いをふりふりするとたちまち狩りの態勢に入る。
大きく手拭いを振りかざせば、見事に跳躍して飛び掛かる。
![](https://assets.st-note.com/img/1699577812136-D9KE5rrhtV.jpg?width=800)
そうだそうだそうだった。
子猫というのは、こういう風に飛んだり跳ねたりするものだった。
妙に懐かしく遊んで、写真を撮ることさえ忘れるのだった。
■三日目
帰る日である。
寝起きにザーザーと強い雨音を聞く。
この雨の中を帰るのかと憂鬱になりつつ朝湯に浸かる。
やはりお宿のお湯はまろやかで優しい。
自分で湯を溜めないで、いきなり湯船に浸れる温泉サイコー!!
と所帯じみた喜びに浸る。
朝食会場を訪れる頃には雨は上がっていた。
よしよし。
そういえば食事の写真を上げていない。
夕食なし朝食ありの宿泊だった。
朝食はバイキングである。
![](https://assets.st-note.com/img/1699577938741-lP4ljAyIID.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1699577939654-jeuGQxJWfU.jpg?width=800)
高血圧を案じて野沢菜も食べなかったが、充分に満足できる内容だった。
温泉卵はマストでしょう。
殊に葱が美味しかった!
自分で準備しないのに何品目も選べて、後片付けもしなくて済む温泉旅館サイコーー!!
とまたやたらに所帯じみた喜びに浸るのだった。
部屋を片付けて荷物をまとめていると、指名手配犯ムギがやって来る。
![](https://assets.st-note.com/img/1699494036642-6WVUN1Or5A.jpg?width=800)
すっかり慣れた風に入って来るのは、私も無碍に追い出さなくなっていたからだ。
いいじゃないか。少しばかりおちっこしても。
布団なら洗えばいい……って、洗うのは私じゃないな。
さーせん。
でも、初日以来お下の失敗はしていないムギである。
そしていよいよ部屋を出る時、
「ほら帰るよ。ぐーちゃん、部屋を出ようね」
などと言っている。
いや、ムギですから。
![](https://assets.st-note.com/img/1699581152954-n6GhxzptMt.jpg?width=800)
いつの間にか私にとって猫は全て「ぐーちゃん」になっている。
そうかそうかそうなのか。
![](https://assets.st-note.com/img/1699494209077-RAqX6011HN.jpg?width=800)
可愛いのは、うちのぐーちゃんだけなのだ。
そして猫は全て「ぐーちゃん」なのである。
よって猫は全て可愛いのだ。
何だこの意味不明な三段論法は?
まあ、いいじゃないか。
桐屋旅館。
何度も来たいお宿である。
だって子猫たちの成長ぶりを見たいもの。
![](https://assets.st-note.com/img/1699582824497-ZkwRlzg2Is.jpg?width=800)
![](https://assets.st-note.com/img/1699583237455-uEFBu0zKkX.jpg?width=800)
そして私は雨上がりの中央バスターミナルから飯山行のバスに乗るのだった。
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