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“音の達人”Stray Kidsが紅白やレコ大をも席巻すると予想する理由 〜 2023年J-ROCKライターが初体験した衝撃事件

Stray Kids(ストレイキッズ)の何が素晴らしいかというと、まず第一に“音楽”だ。楽曲は独創的でクオリティーが非常に高い。すでに全米1位を連発するようなアーティストなのだから当然といえば当然なのかもしれないが、ほかにも、思わず二度見してしまうほど流麗なビジュアルや、卓越したダンススキル、果てはメンバーの人間性など、語るべき魅力が多すぎて、ここまで世界的に支持されるその原点=音楽についてあまりフォーカスされていない気がするのだ。

……と、音楽について冒頭から大絶賛する原稿を書いている筆者はJ-ROCKについて主に執筆してきたライターであり編集者。キャリアは数十年、なおかつ昭和生まれなだけに、最初、ストレイキッズというグループ名を聞いた際「え、ストレイキャッツ?」と聞き返した立派な老害でもある。
(※ストレイキャッツは、1980年代より活躍したアメリカのロカビリーバンド)
専門分野はロックやパンク。「グルーヴこそ命」「バンドが至高」と生涯言い続けてきた筆者が、どうしてもStray Kidsについて書きたくなった顚末とその魅力を紹介していきたい。

“事件”発生は2023年2月11日。


わたしは重い足取りで、さいたまスーパーアリーナへ向かっていた。
「チケットが2枚取れたから同行してほしい」という実姉からの依頼で、Stray Kidsのライブへ行くことになったのだ。
失礼ながらそれまで彼らを「韓国出身のアイドル」くらいにしか認識していなかったわたしは、その2枚が超貴重なプラチナチケットであることも知らず、グループについてほとんど下調べをすることもなく会場に着いた。
そしてまずその規模に驚く。
Stray Kids 2nd World Tour “MANIAC” ENCORE in JAPAN
と書かれた巨大看板の下で、若い女の子たちがこぞって写真撮影をしている。
ワールドツアー。しかも2nd。さらにその“アンコール”……。
看板の周辺のみならず会場を取り巻くように3〜4万のファンが集い、すでに熱気を発している。そのキラッキラの笑顔に少々面食らいながら入場して席に着くと、姉からの一言にさらに驚かされた。
「Stray Kidsは曲を全部自分たちで作ってるんだよ」
えっ!?
それじゃあアイドルじゃなくてアーティストでは??
韓国音楽事情についてまったく知らなかったわたしが一番衝撃を受けたのは、「自作ドル」が存在するということ。
(※自作+アイドルの造語。
「作曲ドル」「自主制作アイドル」などの呼称もある)
日本でアイドルといえば、大人たちのプロデュースにより与えられた曲を歌い踊るティーンエイジ、という認識。だからわたしはアイドルを好きになったことが一度もなく、音楽を聴きはじめた幼少期から、自己プロデュースするバンドやアーティストを尊敬してきた。

自分たちで楽曲を作れるのなら、なぜ楽器を持たなかったんだろう? という“バンド脳”のわたしに、姉は
「8人のメンバーのうち、3RACHA(スリラチャ)っていう3人のプロデュースチームがあってね。彼らが作詞作曲もして全員歌うよ」
と続けた。
作詞作曲してプロデュースするのに自らも歌ってRapしてダンスも踊るというのだ。
そういえば「ダンス&ボーカル」文化というのだろうか、日本にも大ブレイクしたグループがあったが、これまで取材の機会もなくスルーして生きてきてしまった。
開演までの約1時間、姉はあれもこれもと教えてくれた。
プロフィールによると、Stray Kids(略称スキズ、SKZ)は2017年に韓国で活動を開始。日本でのCDデビューは2020年。メンバー8人。覚えられるかな、いや、間に合わない。
結局、名前も顔も区別がつかないうちに大音量SEと大歓声が会場を包みこむーー。

衝撃に次ぐ衝撃。圧巻のステージ


結論からいうと、なぜ彼らが全員「マイク」を選び、歌い踊ってパフォーマンスをするのか、この数時間のライブで完全に納得させられてしまった。
ステージはとにかく衝撃の連続だった。
ほとばしるエナジー。8人それぞれの個性の煌めき。かつ、規律正しく一糸乱れぬ群舞やフォーメーションには「誠実」「真面目」「一生懸命」などのワードが頭に巡り、日本のバンドのライブでは体験できなかった種類の「好感」がどんどん湧き上がってくるのを驚きとともに受け止めた。

韓国エンターテインメントはこんなに進んでいるのか。

と、一撃をくらった瞬間でもあった。
音楽のジャンルも思い描いていたものとは違った。
オープニングからダークな世界観で漢(おとこ)っぽさを全面に打ち出す楽曲が続き、その意外性にも惹かれた。
一般的にはHipHopやEDM(エレクトリックダンスミュージック)といわれるのだろうか。確かにRapは強烈でこのグループの特性だと分かるが、同じ曲の中に美しいメロディーラインのパートもある。
メンバー自身が作詞作曲しているからこそ(中でもリーダーのBangChanは編曲・トラックメイクまで)、8人の声の特性を掴んで魅力を引き出し、独特のグルーヴを生み出すことに成功しているのだろう。
そう、自身が楽器を演奏するバンドではないが彼らなりの“グルーヴ”が確かにあった。
もうジャンル=Stray Kidsといってもいいのではないだろうか。

そう感じたのは、伴奏が途中から生バンドによるライブに変わったことも大きかった。なんと理想的なのだろう。歌い手8人と演奏者のコミュニケーションもしっかり取れていて、大迫力のサウンドが下から突き上げ観客たちをさらに熱狂させる。
ステージセットなどを視覚的にグレードアップする演出ももちろん大事だが、バックバンドや音響に重点を置けば置くほどこの先リスナーの層が広がるのではないだろうか。

わたしたちが観ていた位置はスタンドの5列目ほどで、メインステージには近くないが、巨大スクリーンが少なくとも3箇所あったのでメンバーの表情をうかがうことができた。ダンスも全身を使って表現するものが多く凄まじい運動量なのに、ちゃんと生歌を響かせてくることにも感動をおぼえた。
いわゆるバンドのライブと同様、同期・バックトラックを併用しているにしても、マイクはオンで確実に歌詞のメッセージを伝えてくる。

それと、メンバーの顔面最強ーー

「Stray Kidsは全員イケメン」とは聞いていたが、これほどとは…。
パフォーマンス中はキレッキレで鬼カッコいいのに、MCでは、一生懸命練習したのであろう可愛らしい日本語でビミョーな笑いまで取ってくる。これは人気が出ないわけがない。

筆者の第一印象を交えてメンバーを紹介してみたい。〈生年月日順〉

BangChan(バンチャン/1997年10月3日生まれ/オーストラリア出身)
3RACHAを率いるプロデューサーでもあり、グループのリーダー。
第一印象: 彼が歌うパートの安定感がすごい。それでいて他メンバーの頭の高さまでジャンプしていたように見えた。超人。
腹部のシックスパックなど肉体美がよく見える衣装(布が少ない)、アスリートかと見紛う。
今、音楽について一番インタビューしてみたいアーティスト

Lee Know (リノ/1998年10月25日生まれ/韓国出身)
DANCE RACHA(メンバー内のダンスユニット)でパフォーマンスの屋台骨を支える。目力と体幹が素晴らしいダンスリーダー。
第一印象: 朝霧の中から登場しそうなソフトな歌声と、王子様的ルックス。なのになぜか昭和的な職人気質を感じる

Changbin(チャンビン/1999年8月11日生まれ/韓国出身)
3RACHAで、著作権を持つ楽曲数がBangChanの次に多い。
第一印象: Rapスキルの王者。ダークかつ攻撃的にも思えるスタイルなのに、MCでは一変「かまってちゃん」??
じつは愛嬌ナンバーワンで、感性豊かなクリエイター

Hyunjin (ヒョンジン/2000年3月20日生まれ/韓国出身)
DANCE RACHAのビジュアル爆弾。その腰の動きは18禁にしたい。(嘘)
第一印象: 華も毒も、表現自在のカリスマ ダンサー。指先、爪先まで魂が宿るような“憑依系”。唇ぷにぷに。マイクを持つとその声はどこかユニークで、ギャップすらも人気に変える

HAN(ハン/2000年9月14日生まれ/韓国出身)
3RACHA内では最年少メンバー。作詞作曲、Rap、ダンスまで完璧にこなす万能さで、まさに天才。
第一印象: 滑舌の良さと高音まで突き抜けるボーカルは驚異。最初、PAさんがHAN贔屓なのか!? と思うくらい声量も随一で目立っていた

Felix (フィリックス/2000年9月15日生まれ/オーストラリア出身)
DANCE RACHAの天使。このビジュアルにして、超重低音ボイス。英語圏で育ったため、Rapや歌の英語パートは最強かつスパイシー。
第一印象: 1年ほど前に写真で見た時「Hyde(L'Arc~en~Ciel)並みの美形がいる」と記憶していた(←この辺もバンド脳ゆえ)。
ヒョンジンが「華」なら、フィリックスは「花」。凛と咲く姿に誰もが魅了される

Seungmin (スンミン/2000年9月22日生まれ/韓国出身)
VOCAL RACHAを牽引するStray Kidsのメインボーカル。スタイル抜群。
第一印象: 「誠実」「真面目」を最も感じたパフォーマー。伸びやかで温かい声質。生まれながらの歌い手でありながら努力を惜しまない人なんだろうと思った

I.N (アイエン/2001年2月8日生まれ/韓国出身)
VOCAL RACHAで、グループの末っ子。笑顔で全世界を骨抜きにする、プロのアイドル。
第一印象: 8人の中で最初に声を覚えた。鼻腔共鳴する透明感ある歌声。
それと「なんか一生懸命やってる子がいる!」と思わず目を奪われる、天性の魅力の持ち主

メンバーについての項目は長くなりそうなので、次回(が、あれば)持ち越しということにしたい。
初めて観たStray Kidsのライブは、アンコールを含めて3時間半以上に及び、その充実度にも彼らのスタミナにも驚かされるばかりだった。
その上、BangChanが「みなさん本当に長い時間ありがとうございます」とか「ずっと立ちっぱなしで観てくれて足が疲れたでしょう?」などと流暢な日本語で気遣ってくれる。こんなアーティスト見たことない。
感動とともに尊敬の念さえおぼえた、まさにカルチャーショックな一日だった。Stray Kidsをおしえてくれた姉には素直に「ありがとう」と思った。

SET LIST中の「クセつよ!」曲 ベスト3


Stray Kidsの曲は癖の強いものが多く、中毒性が高いといわれている。
そんな独創的な楽曲の中で、このライブ後にすぐ検索して聴きたくなったものがあったのでこちらでもいくつか紹介したい。

クセ強度No.3「Back Door」


2020年9月14日発売。YouTube再生回数は3.3億回(2023年10月時点)

じつは「クセ強度」No.1からリンクを貼っていこうと思ったのだが、もしここでStray Kidsを初めて知る人がいて(いないか)「ソリクン」から見たらどう思われるだろう……などと日和ってしまい(笑)、「Back Door」を選出。
このクオリティー高い楽曲がデビューからわずか2年後のものであることに驚かされる。
ダンスフォーメーションの多彩さから何度見ても飽きないのであるが、この曲には「目隠しバージョン」なる動画もネット上に存在し、メンバーのへなちょこぶりは爆笑必至だ。しかしカッコいい彼らを十分に知った上で見ていただきたい(笑)。

クセ強度No.2「神メニュー (God's Menu)」


2020年6月17日発売。YouTube再生回数は4.2億回(2023年10月時点)

サビ終わりの「ドゥ!ドゥ!ドゥ!」は一度聴いたら頭から離れない。
そう叫びながら包丁や鍋をふるって調理する様をダンスで表現しているのだが、いい意味で狂ってる。明確なテーマながらクスッと笑える歌詞を最強のリズムとメロディーに乗せ、最高のビジュアルで繰り広げるのだからStray Kidsには敵わない。
MVの再生回数4億超えは、現時点で彼らの歴代No.1だが、1億回を超えるMVがすでに10本存在する。今後「神メニュー」を凌駕する楽曲もどんどん生まれてくるだろう。

クセ強度No.1「ソリクン(原題:소리꾼 / Thunderous)」


2021年8月23日リリース。視聴再生回数は3.3億回(2023年10月時点)

「ソリ」は「声、音」の意、「クン」は「達人」の意味だそうで、この記事の表題はここから引用させていただいた。
初見だったライブが終わって帰路につく時、「あのソリブーン♪っていうヘンな振り付けの曲が聴きたい!」と真っ先に思った。(実際はソリクンだったが笑)
パフォーマンスありきのMVももちろん楽しいが、CDをオーディオで聴いた際の音の深さにも感銘を受ける。韓国の伝統的な楽器も演奏に使われているとのこと。祭祀を盛り上げるパーカッションのような重低音も最高だ。

(尚、ここで挙げた3曲はCD、MVともに日本語バージョンもある)

今ではこれほどまでに大絶賛しているわたしだが、実のところ、この2月にStray Kidsのライブに連行されるまで、自分が韓国の音楽を聴くことはないだろう、と思っていた。
根拠はなく、嫌韓というほどの思想もない。
ただ『冬のソナタ』も、東方神起も、BTSも、ブームとして認識はしていても、深く知るキッカケがなかった。
“ROCKじゃないよね”というバンド脳のせいもあったと思う(笑)。

そんな石頭に、彗星のごとく激突してきたStray Kids。
わたしが思うにStray KidsはROCKだ。
彼らの音楽は、歴史もジャンルも言葉の壁も越え、いきなりわたしの星を侵略してきた。
そんな刺激的で甘美な“侵略“を、これから先も経験する人が急増するだろう。
やっと表題に触れるが(長かった!)、間もなく出演者が発表される2023年のNHK紅白歌合戦やレコード大賞などの舞台で彼らが脚光を浴びることは間違いないからだ。

結論:Stray Kidsは紅白やレコ大などを経てさらにブレイクする

この原稿を書いている最中にも以下のようなニュースがあった。


2023年1月〜9月の期間に発売されたシングルで、日本国内でミリオン(売上100万枚)認定されたのは3アーティストの4曲のみ(一般社団法人 日本レコード協会調べ)。うち2組は今年社名変更となったアイドル事務所のグループで、あとはStray Kidsだ。
売り上げがすべてではないことは重々承知であるが、これを評価しない手はない。ミリオンセラーを記録したStray Kidsの作品は、日本の実力派シンガーLiSAとのコラボ曲「Social Path (feat. LiSA) 」と、「Super Bowl -Japanese ver.-」などを収録した1st EP。
このうち「Social Path」は、彼らの“クセ強め”な楽曲と比較するとストレートで疾走感のあるポップ・ロックとでもいおうか、年末をゴージャスに締めくくるにはもってこいのナンバーだ。


軽妙なRapからバリトン級ボイス、そしてLiSAの突き抜ける高音までもが活かされ躍動感に溢れており、ファンにとってはすでに欠かせないテッパン曲だが、全国的に浸透するにはまだまだ伸びしろがある。
紅白やレコ大などで披露されてから2次ヒット、3次ヒットすることもよくある話だ。

もちろん、二つの番組に限らなくともいい。
これまで本国やアメリカなどで様々な賞を獲得しまくっている彼らだから、授賞式にすべて出席していたらスケジュールも大変だ。
でも日本人リスナーとして、日本の音楽賞を勝ち取る彼らを見てみたい。
それもなるべく大々的に、おじいちゃん・おばあちゃんでも知っているような伝統ある賞や番組に出てくれるほうが「突破した感」があって良い。

これまで韓国発アーティストに触れる機会がなかった人や、わたしのようにROCKしか聴かない石頭にも響く、グローバルな突破力を彼らの音楽は持っているのだから。

数十年も音楽業界にいて、もう他のジャンルを深堀りすることはないと思っていたのに、Stray Kidsに出会って以降、発表される曲がいつも想像を超えてくる喜びーー。
音楽を愛する者にとって頼もしい存在である彼らの活躍をこれからもずっと楽しみにしていきたい。


【次回、記事②ーーStray Kidsの楽曲やパフォーマンスはいかにして生まれたのか、メンバーそれぞれの魅力に迫るーーに続く(?)】


(文=伊藤美保)

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