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モノづくりの裏側:自分軸手帳が刷り上がるまで

即日1,000部完売した自分軸手帳。やっと購入してくださった皆様の元にお届けすることが出来ました。私自身は、制作の中でも印刷等々の最終工程を担当させていただいていたため、手元に現物が届くまで、ソワソワした日々を送っていました。

10分で当初予定していた500部が完売し、追加で増刷した500部も数時間のうちに完売した時は、制作メンバーの一員として嬉しかった反面、実は内心とってもとっても不安でした。それは、まだ手元に刷り上がった手帳が無かったためです。

中身が完成し、印刷会社にデータをお渡しして自分軸手帳が出来上がってくるまで、実はたくさんの紆余曲折と珍事件がありました。都度皆さんに共有しながら一緒に笑い合いたいところでしたが、なんせ刷り上がるまで吉と出るか凶と出るか分からない。今日の今日まで珍事件を共有することが出来ていませんでした。手帳の巣立ちを見送ることができた今、これらを自分軸手帳が刷り上がるまでの舞台裏として、記録に残したいと思います。

本記事は、コンテンツ製作の部分はすっ飛ばし、手帳の仕様や印刷などに絞ったお話になります。中身の奮闘はぜひ公式noteをご覧ください。初めての手帳作り。印刷業界に多少出入りがあったとはいえ、正直分からないことだらけでした。そんな中、思い返せば連絡を取り合わない日が無かった程、細かい仕様の詰めから印刷に至るまで、手帳の現物を作り上げる部分を二人三脚で進めてくださった自分軸手帳デザイナーのくみさん、そして各ご担当の皆様、ありがとうございました。

本文の紙を決めよう

今回の自分軸手帳は、まさかのゼロからの手作りです。ありものの手帳を元にカスタマイズするのではなく、中身から手帳の仕様まで、本当にゼロから一般のワーママ&ワーパパが育児と家事と仕事の合間を縫って作っています。そのため、どんな紙を使うかも含め、携わったメンバーで決めています。複数の紙を取り寄せ、「紙質こだわり隊」という書き心地にこだわりを持つメンバー(りかさん&あさもっちゃんさん)に集まってもらい、実際に各自書き込んだり、色味を見たりしながらZOOM会議を行い、紙を決定しました。

書籍に使われるクリーム紙はおしゃれだけど、やはり多くの方にストレスなく使っていただける白い色にしよう!と紙の色も決まりました。また、手帳全体の重さが重くなりすぎないようにするため、紙の厚さも確認しました。

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しかし、印刷会社さんから「書き込むならもう少し厚い紙が良い」との提案が。重さと厚さ、どちらを優先すべきか…。やはり実物を見ないと判断が出来ないため、2種類の紙の厚さで束見本(実際の紙を使って同じような冊子を作る)を製作することにしました。

実際に出来上がってきた束見本を見ると、やはりイメージが湧きます。重さは異なれど、紙の厚さを厚くしても当初の目標としていた重さよりは軽い。そのため書き心地を重視し、紙の厚さを1段階厚くすることにしました。(目標は300g以内。左側が少し厚めの紙。300gに収まりそうだ!)

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手帳の顔でもある表紙

手帳の中身もほぼ完成に近づいてきていて、入稿日も近づいてきていたのですが、決まっていないことが一つありました。それが表紙です。手帳の顔にもなる表紙。きちんとイメージに合う表紙にしようということで、デザイナーのくみさんとお会いし、ありとあらゆる用紙サンプルを持ち寄り、イメージのすり合わせを行いました。

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落ち着いた印象で主張しない。それでいてシンプルすぎず、カバーが無くてもきれいな印象の紙…

2時間程サンプル紙を見比べながら、テクスチャーが少し入り、落ち着いた色の用紙2種類に絞り込みました。さらに、カバーを付けることを考えて、しなやかに曲がるけれど、ペラペラ過ぎない厚さを目指し、色んなノートや手帳を見ながら探り、厚さも決めました。元々見返し(表紙と本文の間に入る紙)は本文の紙をそのまま使う予定でしたが、少し味を出した方がきれいなのではないかということで、本文と表紙、どちらにも合いそうな見返し紙も新たに選びました。

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根詰めて紙とにらめっこしていたせいか、くみさんも私も帰りに電車を乗り間違えるという奇跡を起こしました。

入稿は21時

無事に仕様が固まり、中身も仕上がり、いよいよ入稿です。

印刷会社からデザインデータは白黒で入稿を依頼されており、印刷時に色を指定して、その色で印刷してもらうという流れでした。校正が完了した最終の白黒デザインデータを受け取り、それを印刷会社に送付。みんな育児と家事と仕事の合間に作業を進めているため、この日もデータを送付したのは20時近い時間でした。

無事に入稿完了!と思ったのも束の間。印刷会社から電話が。

「原稿に特色が入ってしまっています。4原色以外が見えてるんです。白黒データを再送していただけますか。」

???

日本語は分かりますが、意味が全くわかりません。再度送った原稿を確認するも私には白黒原稿にしか見えない。再度印刷会社に確認すると、「PDFリーダーだと何も見えませんが、PDFプロだと特色が見えるんです。」とのこと。PDFリーダーしか持ち合わせていない私には限界です。くみさんに確認すると、くみさんはPDFプロをお持ち、忙しい時間帯であるもののデータを見直してもらうことに。

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おやじギャグ…もとい、ユーモアあるやりとりを交わしながら21時。

これか!と判明し、最終入稿。無事に当初の予定通り入稿が出来ました。

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年末は手帳印刷の繁忙期。少しの日程のずれで印刷機を回せなくなり、納期が大幅に遅れてしまうこともあるのです。

ちなみにこの手帳原稿の中で、一番最後に完成した原稿は裏表紙のメッセージ。最後の言葉が入るまで、くみさんが仮で文字入れをしてくださっていました。もちろんお蔵入り。目にした方は少ないと思うので、せっかくなのでここに晒します。

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入稿の裏で綱渡り

仕事がとにかく早いくみさんのお陰もあり、無事に期日通りに印刷会社にデータをお渡し=入稿することが出来ました。しかしこの時点で細かい仕様がまだ動いていたため、印刷会社に入金が出来ていない状況でした。最後の見積もりを確認し、入金直前のこと。

最後の最後に背表紙の処理で印刷会社と製作サイドの認識にずれがあることが分かりました。

もともと見積もりしていただいていた仕様は、1枚の紙がそのまま表紙、背表紙、裏表紙になる形のもの。これでも十分な開きが確保出来るというお話でした。しかし強度を保つために表紙の厚さを少し厚くし、素材にもこだわっていく段階で一つの懸念が。

「これ、背表紙も表紙と同じ紙でくるんだ場合、本当に180度開く…?」

急遽印刷会社とテレビ電話を行い、実際に似たような製作物を見せていただいくことに。再度我々の理想をお伝えし、現状の仕様でどうなるかを確認してもらったところ、「やはり表紙が厚くなると紙の抵抗で、180度開きっぱなしにするには、手でギュッと開かないと難しい。そしてそれを繰り返すと背表紙が傷むかも…」と伝えられました。我々の180度開きは、どこのページを開いても本当に180度パタンと開くことを指していたのですが、印刷会社さんには「180度近く開きやすくなっていれば良い」とのご認識。熱いこだわりが伝わりきっていなかったのです。

これでは 『180度開く、書きやすい手帳を作りたい』という一番最初に上がった要件定義が崩れてしまう…。

慌てて文房具屋さんや本屋さんへ行き、180度開くタイプのノートや手帳の仕様を観察。表紙と背表紙が一体になっているものは見かけず、ほとんどの商品の背表紙は紙テープやファイバーテープで固定されていました。

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やはり180度開きのためには、1枚の紙で包む製本処理ではなく、テープ式でないと実現しないことを実感し、テープ式の製本に変更することに。ただの紙テープだと見栄えが悪いので、ファイバーテープで背表紙を処理してもらうようお願いすることにしました。しかし、元々かなりタイトなスケジュールで制作を進めていたため、納期に間に合わない可能性があり、「出来るかどうか、現場に確認してみないと」…というお返事が。

現在の見積もり仕様と納期通りに進めると、180度開きを実現できない可能性が高い。しかしテープ処理にこだわると、そもそも実現できない可能性もありそうで、費用も嵩む。(機械作業から手作業への変更)

しかしこんなところで止まっていられない。ここでくみさんと相談したアイデアは3つ。

① 見返しの紙厚を厚くして、手帳の耐久性をあげ、表紙を薄くしポリプロピレン加工(用紙の表面をコーティングするラミネート加工)をし、包む製本方法のままいく

② 包む表紙にせず、テープ処理も行わず、塩ビカバーをつける

③ 我々で背表紙にテープを貼る

印刷会社と再度相談。①は結局加工の費用が掛かってしまうのと、加工した分紙に抵抗が出て、180度開きにくくなるとのことで却下。②は、背表紙が糸で留めているだけになってしまうため、強度が担保出来ないとのことで却下。③は、糸でかがった個別の冊子を1冊にしていく作業と並行して進めなくてはいけないため、私たち素人が対応することは不可。

つ、詰んだ…。

みんなが手間暇かけて、愛情込めて作った手帳をこんなところで躓かせてしまうのか…と絶望していたところ、印刷会社から、1週間納期が遅れるが対応できるという知らせが。

もちろん機械作業から手作業になった分、制作費用と時間は掛かってしまうのですが、そこはディレクションチームにお許しをいただき、当初の「180度開く手帳」を実現出来ることに。

本当に安堵しました。

色が違う!

制作工程も最終段階。実際の印刷機と用紙で印刷された試し刷り(色校)が届きました。

届いた色校を見てびっくり。想定していたインク色とだいぶ異なる印象で印刷されてきました。印刷会社さん曰く「家庭用プリンターと異なり、色を紙に打ち込むため、指定した色が紙に印刷され時間が経つと、どうしても違う色になってしまう」とのこと。似たようなインク色で印刷したことがないため、出たとこ勝負でしか確認が出来ないといいます。なんとも一か八かの仕事です。

ここからくみさんの試行錯誤が始まります。指定したインクと印刷されてきたインクの色から、他のインク色だとどう色が印刷されるかを研究し、数パターンの想定を作成してくださりました。再度理想の色に向けて色校を出し直します。

色が違う!パート2

絞り込んだ2種類の表紙の紙のうち、本命にしようとしていた用紙の実物大も合わせて届きました。しかしこの表紙の色が、びっ微妙…!イメージと違う!小さな用紙サンプルで確認していた時は違和感なく決めていたのですが、実際の大きさで本文用紙と合わせて出てくると、合わなくはないが、ちょっと黄色すぎて、胸がザワザワしました。

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(左側が本命だった色。右側が最終的に決めた実際の手帳の表紙)
再度くみさん、そして自分軸手帳部の主宰者でもあるようこさんに見ていただき、全員一致で出た結論。

表紙の色を変える!

もうワントーン白くした用紙に再度仕様を変更することに決めました。

何事にも終わりはある

最後にドタバタと仕様を変え、もう賭けに近い形で最後の色校を待ちます。(注:多分普通はこんな賭けにはなりません。ゼロから作り上げた産みの苦しみ)

時間が無かったこともあり、今回は印刷会社から直接くみさんに色校を届けてもらいました。そして…

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無事に今の自分軸手帳の仕様が完成されました。

しかし、この時届いたのは数枚の用紙のみ。実は印刷された現物は、届くまで誰も分からない。本当に賭けでした。(注(2回目):納期ギリギリで作っていたのでこんな賭けになりました…。)

印刷に入り数日後、ようやく手元に手帳が届きました。手帳を開けて、180度開いた時は感動しました。

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正直実際に手に取る皆さんが、どう評価されるかはとても不安でした。手帳制作に携わっているメンバーですら、出来上がりは手元に購入した分が届いて初めて知ることになります。期待通りの仕上がりになっているのか、気が気ではない日々。ですが、実際に手元に届いた方々からは喜びの声が上がり、こんな素敵なレビューまで見ることが出来ました。

感無量!

こぼれ話

今回、印刷会社さんからメール便で直接発送してもらったのですが、「届かない」というご連絡が多めでした。なんと、配達員さんがポスト上に苗字を見つけられない、苗字の漢字が違う、等だと戻ってきてしまうとのこと。郵便局や配達の荷物とはまた違った扱いなのだなと、とても勉強になりました。

終わりに

一般人が手探りで始めた手帳作り。最終的には本当に市販の手帳コーナーに並んでいてもおかしくない手帳に仕上がっているのではないかなと思います。私も毎日使っています。しかしこの自分軸手帳は使い続けてこそ意味のある手帳。皆さんの元に届いた手帳が、年末にボロボロになりながら、中身が輝いていることを祈ってやみません。

長文お読みいただきありがとうございました!

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