カマンベールマフィン

小説のタイトルは、カッコよくないほうがいい。

……らしい。と、いうことに気がついたのは、プロになって何年もしてからです。

私の処女作のタイトルは『夏の塩』。自分では気に入っていました。いや、今だって気に入っている。思い出深いし。うん。だが、売れそうなタイトルではないのです。当時この本を出してくださったクリスタル文庫というレーベルは、なんというか、あまり売上だとか数字だとか、そのへんにキビシイ会社ではなかったので、このタイトルで刊行されてしまいましたが、たぶん他の出版社だったらタイトル変更されていたと思います。つまり、商業的に駄目なタイトルです。

純文学の世界はまた別かもしれませんが、エンタメ商業小説のタイトルには『タイトルだけで、どんな小説なのかある程度、読者に伝わる』ということが必要です。さらに『オリジナリティがあり、タイトルだけでなんだか面白そう』になると最強です。

書店には「これでもかっ」というほどの本が並んでいます。読者はそこから『自分の好みの本』を探しています。いちいちパラパラ捲って探しません。タイトルで目星をつけるのです。なのでタイトルが『わたし、こういう本ですよ!』と叫ぶことが必要になります。それを補佐しているのが帯に書かれたキャッチコピーです。物語の内容、あるいは売り文句が、場合に寄ってはタイトルより大きくドドンと書かれています。ちなみにキャッチは担当編集者が考えることがほとんどです。作家はあまり関与しません。

よくあるのが「このタイトル、ちょっとわかりにくいんですけど、読んでもらえたら、すごく納得いくと思うんです。まさにこのタイトルなんです」という、作家の主張。拙著『夏の塩』がまさにそう。読んでもらえると「あ、だからこういうタイトルなんだ」とわかる。だがしかし、忘れてはいけない……読者さんは買ってから読むのです。買ってもらうために、選んでもらうために、タイトルは考えなければならない。当時の私にそう言ってやりたい。でも言うことを聞かなかったかもしれない(笑)。タイトルというのは、作家のこだわりが強く出るところなので……わかってはいても、でもコレにしたいんだ! という場合もままある……気持ちは……わかる……(笑)。いまだに「では、他にどんなタイトルだったらよかったのか」は思いついてないし……。

結果として『夏の塩』は、ありがたくもたくさんの支持を頂きましたが、それはかなり長い時間をかけてのことです。決してパッと華やかな売れ方ではありませんでした。事実、品切再版未定の状態が長く、その間「読みたい」と仰ってくださった読者さんには、ご迷惑をおかけしました。でも今は角川文庫で手に入るから大丈夫! と宣伝しておく。

かっこいいタイトルって、ちょっと謎めいていたりします。難しい言葉だったり、珍しい単語だったりします。捻りが利いていたりします。しかし、よいタイトルは、内容が示唆されていて、わかりやすい言葉で、しかしインパクトがあり、読者の興味をそそる……そういうタイトルなのです。以上の条件を踏まえてなお、さらにカッコいいタイトルだったら、それは素晴らしいと思います。まあ、どんなタイトルをカッコいいと感じるかは、個人差もありますし。

タイトルの横に、ちょっと小さく入ってるもうひとつのタイトル。あれはサブタイトルです。ちょっとわかりにくいタイトルや、あるいはシンプルすぎるタイトルの場合は、サブタイトルがつき、説明を補足する役割を持ちます。拙著で言いますと『妖琦庵夜話 その探偵人にあらず』がそのタイプです。妖琦庵夜話、だけだとわからない。でもサブタイトルに『探偵』があって『人にあらず』とある。そこから、「あ、ミステリ的なものかな?」「人外がでてくるの??」という方向に察していただける。そういうふうに作られているわけです。

そんなこんなで、理屈はだいぶわかってきた私ですが、いまだにタイトルをつける時には悩みます。くらわかりやすくても、使い古された言葉では目立たないし、埋もれてしまう。今現在の流行語はキャッチーだけど、数年経ったら陳腐化するかもしれない。ものすごく素敵なタイトルを考えついたと思ったら、別の作家さんがもう使っていた……などなど。ちなみにタイトルに著作権はないので、同じタイトルをつけても構わないのですが、やっぱりややこしくなるので普通は避けますね。

ちなみに『ここで死神から残念なお知らせです。』の時、私が最初に出したタイトルは『死神ハイムリック』でした。漢字とカタカナの組み合わせって好きなのです……。しかしハイムリックの意味が読者さんにはわからない、つまり意味不明なタイトルになってしまうということで、編集部から再考を促されました。そりゃそうだ。「ぬぅぅぅ」と考え、次に出した候補が、『饒舌な死神』『ここで死神から残念なお知らせです。』『死神はカフェにいる』で、最終的に『ここで~』に落ち着いた、というわけです。みなさんはどれがお好みだったでしょうか……。

はー、ほんと難しいわ、タイトル(笑)


#小説