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君のいつかのその日まで

1.プロローグ

おはよう。
今日は、晴天です。
外では、太陽でライトアップされた子供たちが鼓笛隊の練習をしています。1カ月前までは、ゆっくりとしたテンポで奏でられていた音楽も、今やパンケーキを裏返す時みたいに、ふわりと高く、音が空へと鮮やかに奏でられるようになりました。彼らの奏でる音に、成長を感じるたびに微笑ましく思い、この前、下校中の小学生たちに「頑張ってね!」と言ったら彼らの頭上に「?」が見えました。主語が抜けていたから彼らの反応がおかしかったのだと気づいたのは、彼らの奏でる曲を鼻歌で歌った瞬間でした。

さて、明日はあなたもご存じのように、2番目の私がやって来ます。

前もって言っておくと、2番目の私は、ほとんど私と同じです。「ほとんど」ね。
だから、私は「彼女」と呼ぶ方がしっくりくるので、これからは「彼女」と書きます。

彼女には、小さな「くせ」があります。
なんでも、彼女は「続き」を聞きます。

この話の続きは?
これからは?
と言う風に、事あるたびに聞いてくるはずです。

興味と言うよりは、心の奥にかすかに残る寂しさで、あなたに続きを聞いてきます。

なぜなら、彼女は「終わり」が嫌いだから。

彼女は自分自身を「つなぎ目」であろうともがきます。
終わりをつくらないように、そこから目を離しても大丈夫でいられるように、もがくはずです。

だから、あなたにお願いがあります。
彼女に「終わり」を教えて下さい。

向き合えと。
悲しみから、逃げるなと。

でも、こんな言葉、本当は嘘なのです。
大体の事は、避けていい。
苦しさを感じた時点で、そこから目を離すべきです。

でも誰もが、どちらのジャッジを下すかを渋ります。
そして、一部の人はでちらでもない選択をし、自ら苦しみの中に全身を投げ込んでしまいます。

彼女は、きっと、投げ込んでしまう。
底など無いのに、どこにも降り立つ事の出来ぬ不安へと身を捧げてしまう。

だから、あなたにそのジャッジマンで居て欲しいのです。
彼女自身が、終わりと向き合い、肯定しようとするまで。

いつまでかは、分かりません。
でも、あなたが、あなたでいられる時間までで構いません。彼女のそばに、居てください。

こんな、一方的なお願いをしてごめんなさい。
いつも、私はあなたに勝手なお願いをしてしまいますね。
あなたが、いつも笑顔でうなずいてくれるから、つい頼ってしまうのです。

では、最後に私からあなたへ。

私は、あなたが、好きでした。
とても、とても。

私があなたの記憶から、途切れてしまう事は、受け入れたくない現実です。
でも、先に、進むために必要だから。
いつか、また、あなたに会えることを願って、私は、先に進みます。
あなたとのこれまでを、思い浮かべて。

私は、先に終わるけど
どうか、あなたは、素敵な続きを奏でてください。

では、さようなら。
そして、彼女をどうか、お願いします。

次の日、僕の目の前に、「彼女」が現れた。
彼女は、君の言う「彼女」だったけれど、
僕は、やっぱり戸惑ってしまう。

彼女は、僕ににっこり笑った。
その表情はいつかの日の記憶にそっと上から重なった。愛しい君に寸分たりとも狂い無く。

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