見出し画像

第25回:沖田が最後に語った言葉と、届けられた想い

「宇宙戦艦ヤマト2199」第26話で、沖田は艦長室から地球を見上げます。深々と椅子に身を預ける彼の手には写真があります。沖田と彼の家族との写真です。その写真に何を想うのか、彼の心が言葉になることはありません。 

艦長室の窓には、写真を手にした沖田の姿が映り込んでいます。後ろには、左側に出入り口、右側に収納式ベッドと、間取りとは逆の室内風景が見えています。通常の風景をコンピューター上の何か特殊なソフトで変形させた、というわけではなく、最初から左右を反転した状態に描いた室内の絵が、素材として使われています。その絵と、それから、こちらも左右逆に描かれた沖田の絵のレイヤーが、窓の描かれた絵の上に重ねられている、という状態です。重ねられた絵は、まるでそこに映り込んでいると感じられるよう、レイヤーの透明度が調整されています。 

こういう特殊な場合でも、そうでない場合でも、艦長室の室内風景は、基本的には登場するたびごとに、イチから絵が起こされていました。ヤマトのてっぺんに位置する艦長室は、理論上は3DCGのヤマトのてっぺんを、そのまま絵のガイドラインにすることもできます。けれどシリーズ中、この部分のCGがそのように活用されることは、ほとんどありませんでした。というのも、じつは艦長室にあたる空間は、3DCGと設定画では、おおきさや広さに少々、とは言いがたい、けっこうなちがいがあるのです。 

CGはおもに艦長室の外面のかたちを視聴者に伝えるためのものであり、設定画は艦長室の内部のかたち…室内を構成する情報を、画面をつくるスタッフに伝えるためのもの。どちらかが間違っているというのではなく、それぞれ別の用途でつくられているがために生まれたちがいでした。そういうわけで艦長室の場面では、外はCGを基準にしながら、中は設定画を基準にしながら、それぞれの絵が描かれていました。 

アニメには、設定画に描かれている情報を厳密に画面に描き出す作品もあれば、ある程度の振り幅の持たされた、というか自由度の高い作品もあります。3DCGを多用して、正確性を追求しているかのような「ヤマト2199」も、絵づくりの面では、意外と後者の部分が少なくなく、艦長室も、そういう場所のひとつでした。第16話のラスト、クーデター騒ぎが収まったあと、艦長室に古代たちが集まる場面は、もしもCGに合わせて「正確に」描いていたならば、かなりきゅうくつな印象の場面になっていたことでしょう。 

そうして、わりと自由度のある中でも、守るべきラインはありました。設定画の通りに描くと、窓枠についた電気スタンドが真田さんの頭にぶっ刺さったように見えちゃうので、この場面では、ほかのカットもぜんぶ、スタンドは折りたたんでいるってことにしてください。という具合のことが、絵を描く前、打ち合わせのときには話し合われていました。 

広さは変わっても、設定画にあるものは、あるものとして描くように。正確に、でも「いい感じ」に。機械的な流れ作業ではない、いつだってどこかに人の意志や感性が入っている。艦長室は、そういう部屋でした。 

沖田は艦長室から地球を見上げます。その部屋に、彼以外に彼の語る言葉を聞く者はいません。それでもその言葉が、どこかへ消えてしまうことはありません。沖田の語った想いは、懐かしい、青い星の記憶は、光になり、2199年の地球を照らします。 

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメの
制作に参加。「ブレイクブレイド」
(10年)「マギ シンドバッド 
の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

バックナンバーはこちらです。 

 ■マガジン『ヤマト2199の「中」の話』 

 記事の方針等は、こちらに。 

■5月から「宇宙戦艦ヤマト2199」のnote、はじめます。 

『ヤマト2199の「中」の話』の記事の『note』やブログへの転載は、ナシでお願いします。有料リンク集への掲載も禁止とさせてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?