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第11回:罰当番のスタンプカードと、彼女からのメッセージ

 「宇宙戦艦ヤマト2199」第12話で、古代と島は、艦内各所を掃除して回ります。その首には、罰当番のスタンプカードが下げられています。デキのよくない学生のような姿です。カードには、こんな文言が記されています。
「第1種清掃任務遂行中。本作戦は艦内及び担当者の精神の美化を目的とした極めて重大な任務也。手加減は無用」。「船務科士官 船務長 森雪」という署名も、その下にはあります。どうやら罰当番のコース設定には、彼女の意向もすくなからず反映されているようです。

「ヤマト2199」の「設定画」に「ヤマト カタパルト周辺詳細 外観パース」という絵があります。カタパルトのまわりの風景と、そこで作業をする甲板員たちの姿が描かれた一枚です。 右舷と左舷のカタパルトのうえには、コスモゼロがそれぞれまったくちがう角度でみえています。甲板員の姿は、場所ごとに少しずつちがう大きさでみえています。遠近感がうみだした違いが、この空間の広さや奥ゆきを伝えています。この「設定画」では、甲板にみえる小さな部品の数々が、装甲の上にどういうふうに接着されているのかなど、絵では読み取れない情報も、文章で説明されています。まるで図鑑を読み解いてゆくようなたのしさが、そこにはあります。 

「ヤマト2199」の仕事で最初にいただいた「設定画」の束は、どれもこれもが、この「ヤマト カタパルト周辺詳細 外観パース」のように、たくさんの内容が描かれている絵ばかりでした。それをみたとき「うわ大変そう」という感想と、それから「なんて楽しそうなんだろう」という気持ちが、同じくらいありました。「設定画」を担当させていただくときは、あのとき感じたような「楽しさ」のあるものにしようというのが、ひそかな目標としてあります。まず第一の目標は、それをチェックする出渕裕総監督に楽しんでもらえるものを。絵手紙を送るような気持ちというか、あるいは、総統をみるガミラス国民のような気持ちというか。 

第12話で、古代と島が首からかけているスタンプカードも、そういう気持ちでつくった「設定画」でした。発注自体は「『絵コンテ』で首から下げているカードの設定が、そういえばまだなかったので、よろしく」というぐあいの、イージーなものでしたが。 

2枚のスタンプカードの、それぞれ8つに区切られた枠の中には、艦内の場所の名前が書かれています。古代と島、それぞれが掃除を担当する場所です。内訳は「設定画」の本番を描く前に、仮のリストを提出、古代のぶんと島のぶんとに、それぞれ振り分けていただきました。その結果、クマちゃん柄のスタンプの押される「技術科解析室」は、島のほうのカードに振り分けられることに。「波動砲口内」や、コスモファルコンのおさめられた「第二格納庫」など、あまりにも広大な場所は、両方のカードに書かれることになりました。 

スタンプカードの右上に書かれた「第1種清掃任務遂行中~」という文言と署名は、じつは「脚本」にも「絵コンテ」にもない、デザイン時のアドリブです。「絵コンテ」のなか、カードが大うつしになってる絵にムニャムニャっとした線が描かれていたところから、想像をふくらませてみました。これはどんなメッセージが書かれているのだろう?ていうか、このカードって、いったい誰がつくったんだろう?と。仮のリストを提出したときに、しれっと書いてみたのですが、特に何かを言われることもなく、そのまま決定稿となりました。はたして総監督的に、あれはアリだったのかどうか、いまだに聞けないまま、ひそかにドキドキしていたりします。 

掃除の大半を終えた古代は、コスモゼロの操縦席で、ハーモニカを吹きます。ひとり、誰かへと想いを馳せているその場所に、森雪がひょっこり顔を見せます。まるで狙いすましたかのようなタイミングは、偶然なのか必然なのか。とりあえず、薄闇のなか、魅惑的にゆれうごくボディラインから目をそらす古代なのでした。

第12回:〈名将〉ドメル、その名を支える8つの「脚」

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンド
バッド の冒険」(14年)ほか
アニメ、 ゲームの設定デザインなどを
担当、 現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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