見出し画像

第24回:デウスーラⅡ世の青いツノと、彼が銃をとる理由

「宇宙戦艦ヤマト2199」第25話で、デスラーはタランに銃口を向けます。今あえて関わる必要のなかったはずのヤマトに干渉した末の行動でした。その顔には、総統として君臨していた頃には考えられなかった種類の表情が浮かんでいました。 

黄金の銃口越しにデスラーをとらえたこのカットの絵は、第七章としてイベント上映されたものとその後のバージョンでは、別のものになっています。構図はほぼ同じなか、デスラーの口元は上映版よりも表情豊かに、あごはかたく引き締められ、髪の毛は豊かに、より立体的に描かれています。イベント上映版のときの絵は、いまも「第七章PV」のなかにあり、公式サイトでも見ることができます。 

デスラーだけでなく、彼の後ろに映っている風景も、その後のバージョンでは別の絵に置き換えられています。ゆるやかなVの字を描く枠の下、透明素材の窓の向こうには、上映版にはなかった細長い構造物が見えています。デスラーが立っているのは、デウスーラⅡ世の艦橋の最上部。艦首方向にある窓と窓のあいだの装甲についた、ツノのようなかたちの構造物が内側に透けて見えているのです。 

艦橋の絵は3DCGと、それをもとにメカニックデザイナーが描いたデザイン画、それから、それを整理した下描きと、いくつかの工程を通過して描かれています。3DCGは、びゅんびゅん動いているヤマトやデウスーラのCGとはちがう、画面構成のためのガイドとして、つくられたものです。イベント上映版の映像にも、まったく同じ3DCGのモデルが使われているのですが、このときにはデザイン画や下描きの段階は通過することなく、CGから直接、風景の絵が起こされていました。ガイドということもあり、3DCGでつくられていたのは、艦橋の内部だけ。そのため、上映版では、その外側にある情報がない絵になっていたのでした。  

この場面のためのデザイン画は、メカニックデザイナーの石津泰志さんが担当されています。デウスーラⅡ世とその艦橋のデザインも担当されているかたです。その目が、3DCGをみたとき、窓の外にはツノふう構造物がないとおかしいと判断した。だから、デザイン画にもそれがあるように描いた。そのデザイン画があるから、直した。

ひょっとしたら、上映版のままでも、誰も気づかなかったかもしれない。家事をしながら、あるいは実況ツイートでもしながらテレビを観ていたなら、ふつうにスルーするような。そんな些細なちがいの根っこにあるのは、何か高みを目指すような思想というよりは、そういう、わりとシンプルな気持ちのつらなりだったりします。そしてこの場面に限らない、「宇宙戦艦ヤマト2199」の多くのものごとが、そういう気持ちでつくられているのです。 

デスラーはタランに銃口を向けます。その顔に浮かぶ表情は、総統として君臨していた頃には考えられなかったような、熱を帯びたものでした。ただ純粋に、誰かのために戦い、争う、一人の男が、そこにいました。 

第25回:沖田が最後に語った言葉と、届けられた想い

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメの
制作に参加。「ブレイクブレイド」
(10年)「マギ シンドバッド 
の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

バックナンバーはこちらです。 

 ■マガジン『ヤマト2199の「中」の話』 

記事の方針等は、こちらに。 

 ■5月から「宇宙戦艦ヤマト2199」のnote、はじめます。

『ヤマト2199の「中」の話』の記事の『note』やブログへの転載は、ナシでお願いします。有料リンク集への掲載も禁止とさせてください。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?