見出し画像

第20回:歩みを停めたコバンザメと、渇いた大地の風の色

「宇宙戦艦ヤマト2199」第21話で、フラーケンとハイニは、次元潜航艦UX-01の甲板で、ガミラス社会の現状について、話をします。二人の前には、収容所惑星の渇いた大地が広がっています。社会の闇から闇を、自由に渡り歩く彼らでさえ、皮肉めいた口調にならざるを得ない光景が、そこにありました。 

フラーケンをはじめとしたクルーと森雪、ノランらが並んで立つ艦は、3DCGではなく、人物とおなじ質感の絵で描かれています。また、艦体の後方には、FS型宙雷艇の姿も見えます。第20話では、コバンザメとも呼ばれていた小型艦艇です。またもやコバンザメ状態というか、絵で描かれた次元潜航艦と完全に一体化しているかに見える宙雷艇は、じつは3DCGです。ただしその下部にある、ヤマト侵入の際にも使われた吸着アーム、乗り込みチューブは絵で描かれています。ハイブリッドなコバンザメなのです。

次元潜航艦や吸着アームなどの絵は、デザイナーの石津泰志さんが描いた「ディティールアップデザイン画」をもとに描き起こされています。「ディティールアップデザイン画」は、3DCGでつくられたメカニックを、どう「盛って」ゆくかを「原画」などの担当者へ伝えるためのデザイン画。すでにそれだけで一枚の絵になっているスタイルのものと、白い紙に、なにやら部分的に線だけが描かれているスタイルとが、場面ごとに使い分けられています。 

第21話のこの次元潜航艦は、画面では丸ごとが絵。通常ならば「ディティールアップデザイン画」も前者の、一枚丸ごと絵となるところですが、実際のデザイン画は、むしろ後者に近いスタイルで描かれています。部分的にこまかく描かれたディティールと、「このあたり19話C003を参考に」や「21話C344を参考におねがいします」といった指定の書かれたアウトラインのアタリとが点在するという、変則的なスタイルになっています。 

次元潜航艦は、ほかの艦よりも小型であり、キャラクターが艦のすぐ近くに立っているような画面も少なくありません。そういうときの艦の多くは絵で描かれていて、「ディティールアップデザイン画」も何枚もあるので、それらを参考にしてくださいということですね。 

第21話でも、この艦がおおきく映り込む場面がいくつかあります。いままでの話数になかった、正面のアングルからとらえられた次元潜航艦などには、一枚の絵のスタイルの、言い換えれば、時間の掛かる方法の「ディティールアップデザイン画」が描き起こされています。「参考に」という、丸投げといえなくもない変則的なスタイルは、限られた制作時間のなか、まだデザイナー以外は誰も知らない情報を、より多く伝えるための戦術的判断であったようです。 

ちなみに宙雷艇がコバンザメ状態になっている場面の「ディティールアップデザイン画」には、吸着アーム、乗り込みチューブのほかに、宙雷艇の着陸脚も描かれていたりします。「設定画」にはない、この場面のために新たにつくられたデザインです。なにかの都合か、実際の画面ではカットされてしまっているのが、惜しまれるところです。

フラーケンとハイニは、ガミラス社会の現状について、話をします。間違っていることを知りながら、他人事のように批評してみせる声には、どこか渇いた響きがありました。その渇きに応えるかのように、大地では、そこに息づく人と人の間に、熱を帯びた風が生まれようとしていました。

第21回:まだ誰も知らなかった「ヤマト2199」の「正解」

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメの
制作に参加。「ブレイクブレイド」
(10年)「マギ シンドバッド 
の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

バックナンバーはこちらです。

■マガジン『ヤマト2199の「中」の話』

記事の方針等は、こちらに。 

■5月から「宇宙戦艦ヤマト2199」のnote、はじめます。

『ヤマト2199の「中」の話』の記事本文の『note』やブログへの転載は、ナシでお願いします。有料リンク集への掲載も禁止とさせてください。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?