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アニメ「sin 七つの大罪」とよしもときんじ監督のこと

2017年放送のTVアニメ「sin 七つの大罪」に、インダストリアルデザインという役職名で参加させていただいていました。美しき魔王さまたちが棲まう魔界の宮殿・万魔殿や、都会の片隅の六畳一間のアパート、地獄のキモかわいい生きものや、女子高生が身につけるアクセサリーなど、幅広い範囲でデザインを担当する機会をいただきました。

このタイトルを思い出すとき、まず心に浮かぶのが、よしもときんじ監督という存在と、その仕事。脚本でも絵コンテでも、スケジュールの限界ギリギリ、というかすでにアウトなのではという時期まで「おもしろい」を徹底的に追求されていた姿が印象深いです。あまりの激務で入院されていたときも、第七話、大食い勝負に臨んだ主人公ルシファーさまが体調を崩してしまい、搬送先の病院でタイヘンな目に遭うエピソードのための資料写真を撮影してしまうほどの飽くなき創作意欲をお持ちで。というか、説明してみるとあらためてすごい内容ですね、第七話。

その姿勢はデザインとそのチェックにおいても共通で、こんな感じでどうでしょうと、打ち合わせで事前に話した内容に基づいて描いた絵を提出すると、その絵から新たに発想したアイディアがあるのでそれを追加してほしいというチェックが返ってきたり。第一話では魔王さまたちが万魔殿の上空で戦う場面があるのですが、それは最初の脚本ではどこかの闘技場での出来事で。ならばと闘技場を描いてみたら、やっぱりそのプランはヤメにして、すでにある万魔殿の広間がせりあがってそこで戦うことにしましょうとなり、さらにせり上げているのは何者かの巨大な腕にしましょうとなって…と、気がつけば出発地点では誰も考えていなかったビジュアルが完成していました。ただ、やはりそこまで二転三転するのは、最低限まとまってはいるんだけど、何かが足りない、というときで。あ、30分で描けたけど、この魔物たち、いい感じにキモかわいいな。と、自分でも手ごたえを感じるときは一発OKでした。

もともとはアニメーターで、演出業をされるようになってからもその画力や表現力は健在、ビジュアルにとても敏感なよしもと監督の心に、この絵は、デザインは届くのか。「sin 七つの大罪」の制作中は、仕事でありながら、どこか修行のような、あるいは道場破りでもあるような、ふしぎな高揚感が心のどこかにずっとありました。監督と何度もやりとりを重ねてゆくうちに、こぎれいにまとまっていたデザインが、心がザワリとするようなデザインへと次第に変化してゆくプロセスは、とてもエキサイティングな体験で、贅沢な時間でした。

いまも何かの仕事でデザインがひと通り出来上がって、提出する前はいつも、これでいい?もっと突き抜けられる場所はない?と、絵のなかへ問いかけています。アニメのデザインはおもしろい仕事だし、もっともっとおもしろくできる。「sin 七つの大罪」という作品と、よしもと監督との時間が教えてくれたその気持ちはあれからずっと心の中にあって。油断すると、こなすことに流れてしまいがちな自分をしっかりと支えてくれています。

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