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第10回:森雪の「笑顔」と、艦内の秘密のルール

「宇宙戦艦ヤマト2199」第11話では、森雪と山本玲が、艦内のトレーニングルームで、はち合わせになります。ふたり、ともに、ある男性と近しい距離にある今日この頃。落ち着かない気持ちを抱える山本に、森雪は、ニコリという文字が空中に浮かんでいそうな笑顔を向けながら、意味ありげな言葉をかけるのですが。 

「ヤマト2199」のヤマトの艦内には、戦闘のための施設だけではなく、生活を支えるための施設も数多くあります。第11話でも、トレーニングルームや大浴場、映像ルームを舞台に、それぞれに制服の色のちがうクルー同士の交流が描かれました。放送室やシャワー室など、戦闘用ではない設備の「設定画」も多くつくられる中、制作の早い時期には「個室用シャワーユニット」という装置のイメージスケッチも描かれていました。 

それは全長150cmくらいの、縦におかれた卵のようなかたちをしたカプセルで、大浴場やシャワー室とは別の、個室用の入浴設備として、考えられていたようです。やや小ぶりなカプセルは、なかに腰掛けたまま、噴射される水圧で、身体を洗えるようになっています。スケッチには、カプセルのうえのほうに開いた穴から、男性クルーが気持ちよさそうな顔で、首をだしている絵が描かれています。超未来的な「五右衛門風呂」といったところでしょうか。樽にナイフを刺すと、黒ヒゲの海賊の人形が飛び出すおもちゃに似ていなくもないビジュアルです。 

この装置は物語には登場してはいないのですが、紙の隅には「転用厳禁」など、スタッフに配られる正式な「設定資料集」に共通する注意書きが記されています。もしかしたら画面には映っていないだけで、このユニットは今もヤマト艦内のどこかの個室で、クルーの身体をぴかぴかにしているのかもしれません…。 

第11話のトレーニングルームは、この「個室用シャワーユニット」と同じ時期に、おおもとのイメージスケッチは描かれています。実際につかわれた「設定画」は、その絵をみて描かれた「絵コンテ」に、間取りなどを合わせるかたちでつくられました。スケッチには、サイクルマシン、ルームランナー、ベンチプレスマシンのほかに、メディカルチェックマシンや、ぶら下がり健康機のようなマシンも設置されていました。 

完成画面では、サイクルマシンのうしろに、クリーンでシャープな雰囲気の室内には似つかわしくない、骨太なパイプが走っています。これはべつに、森雪の秘めたる心のメタファーというわけではなく、おおもとのスケッチにも描かれていた部品です。放送室にも、ルンルンな放送をしているDJブースの脇には、ごつい伝導管が走っていたりします。どちらの施設も、全長333mの限られた空間の中を縫うようにしてつくられているので、機能上そこになくてはならないパイプ類も、そのまま残されているのです。 

第一艦橋のような場所であっても、青い花の置かれた士官室のような、一見すると、戦艦らしくないような場所であっても、同じヤマトの艦内。すぐに目につくような部品だけではなく、ドアのかたちや、壁や天井のパネルのかたち、窓枠の凸凹など、「ヤマト艦内」としての共通のルールが、人物を彩る風景の中に、さりげなく隠れています。 

森雪と山本玲は、大浴場で話をします。意味ありげな言葉が、わりとそのまんまな意味であったことに、山本は戸惑いを隠せません。森雪は、スッキリと全身をさらしてなお、本気なのか何なのかよくわからないリアクションをしています。 簡単にはゆかない人間関係が、大宇宙と湯けむりの間に、ゆらめいていました。

第11回:罰当番のスタンプカードと、彼女からのメッセージ

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンド
バッド の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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