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第8回:アナライザーとオルタ、盤上を舞うふたりの関係

「宇宙戦艦ヤマト2199」第9話で、AU09ことアナライザーは、ヤマト艦内の解析室で、将棋をさします。相手は「オルタ」と名づけたガミラスの自動人形。アナライザーは解析室の床の上ではなく、X字型のジャッキに支えられた台の上にいます。相手と同じ目線で、相手の手の届くところで、ひとつの盤を囲むために持ち出されたその台の上で、アナライザーはオルタと同じ時間を過ごします。 

宇宙戦艦ヤマトが、はるか16万8000光年先の惑星イスカンダルへ向けて、旅をする「宇宙戦艦ヤマト2199」では、その物語の多くが、ヤマトの艦内を舞台に展開してゆきます。舞台となる場所や登場人物たちが使うアイテムの「設定画」も、たくさん準備されています。けれど、ときには遥かな旅立ちをはじめたばかりの頃には、想定していなかったような場面に遭遇することも、あります。たとえば女子三人でパフェを食べてみちゃう、とか。たとえば、ひとやすみして、飲み物を飲む、とか。 

ヤマトは、西暦2199年の宇宙をゆく戦艦なので、現代の百貨店で売っているものや、画像検索サイトで出てきたものを、そのまま描くわけにはいきません。パフェといっても、この世界のどんなものをモチーフにしたパフェ?など、そのツド考えて、「設定画」をつくってゆく必要があります。また、道具を通して語れることもあるので、アリモノじゃないほうがよい、というのもあります。第7話の冒頭、ひとやすみしている新見のマグカップには「PROJECT IZUMO」の文字が刻まれています。訳すと、「イズモ計画」。どうもこのお姉さんはクマちゃんが好きなひとであるらしいという情報以上の、シリーズの重要な伏線が、そこには隠されています。 

第9話で、アナライザーが載っている台も、当初の設定にはないけれど、話をつくる必要上から生まれたアイテムでした。映像の設計図である「絵コンテ」には、「広い解析室で寄りそうように将棋をさしている」というト書きが書かれています。その横に「寄りそう」ほどの距離感になるように、台に載ったアナライザーとオルタの絵が描かれています。 その絵をもとに、出渕裕総監督と、チーフメカニカルディレクターの西井正典さんと、どういうデザインにするのか、打ち合わせをして決めてゆきました。

「だいたい絵コンテにある通りで。まぁ、作業台なのかな。そういうものだと、思っていただければ。」
「そうですね、そんな感じで。」 
「ところでコレ、アナライザーはどうやって載ったんだろうねえ。」
「いやアナライザーだし、やっぱりジェット噴射でしょう。」
「それだッ!」 

 …そうした打ち合わせを経て、デザインを、具体的なかたちにしてゆきました。 解析室の場面で登場しているので、おそらくは解析室の備品。艦内でも特に未来的なデザインの場所であるから、備品だって、それなりにスタイリッシュなものであるはず。アナライザーが載っているから、ある程度の重量にも耐えうる強度が、この台にはあるはず。そしてそのことが、横アングルからでもわかるような構造に。それから、ジェット噴射をくらっても燃えなさそうな素材に。それから、たとえ映るのは2カットであっても「ヤマト2199」らしいデザインであるように。 

解析室のアナライザーとオルタは、将棋をさしながら、会話をします。ガン見といっていいくらい、カメラの近くに置かれた将棋盤は、まるでマス目状の地上絵が刻まれた大平原のようにも見えます。世界そのもののようですらある盤の上で、お互いの戦略を戦わせるゲームと、お互いの存在を問いかける言葉が、同時に交わされてゆきます。イヌとネコの区別のしかたを教え、教えられていた頃とはちがう関係が、ふたりの間で始まっていました。

第9回:冥王星の大地に沈む、緑の艦と青の夢

□バックナンバー□

■第1回:はじめてのコスモゼロ、赤と銀のその輝きの秘密  

■第2回:第三艦橋が崩壊しない、ゆがみない理由

■第3回:赤道祭の裏側の、もうひとつの「おまつり」

■第4回:火星への花束と、仕掛けられた風景

■第5回:古代守の瞳にうつる、誰も知らない「彼」の心

■第6回:ユキカゼが拓いた希望と、貫かれた意志

■第7回:人類初のワープテストと、決して透けては見えないモノ

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■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンドバッド
の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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