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第16回:あの日のユキカゼの真実と、伝えられなかったその言葉

「宇宙戦艦ヤマト2199」第17話では、真田志郎と古代守が、話をします。ヤマトが地球を飛び立つずっと前、守が冥王星へと出撃する直前のことでした。艦長として座乗するユキカゼの前で、けっして絶望しない気持ちを、守は親友に告げます。その決意を否定も肯定もしないまま、真田は中原中也の詩集をポケットから取り出します。 

ふたりの背後に映りこんでいるユキカゼの着陸脚は、まるで写真のようにリアルな金属の質感を帯びています。第17話で、ふたりが会話する場面に映りこんでいるユキカゼは、すべて3DCGではなく、絵で描かれています。この着陸脚も絵です。真田たちと同じように、輪郭線でくくられた中をフラットに塗り分けられた絵に、人の手でこまかく手を加えることで、リアルだと感じられる質感がつくられているのです。 

一連のユキカゼの絵の下描きである「ディティールアップデザイン画」は、すべて、ユキカゼの外観や内部構造をデザインした玉盛順一朗さんが担当しています。詩集を渡そうとする真田のうしろの着陸脚は、タイヤの表面の凹凸など、公式設定資料集に掲載されている「デザインコンセプト画」よりも、さらにこまかく描かれています。 

着陸脚の表面には、斜線が多く入っています。離着陸のときについた傷や汚れ、製造時の溶接作業の痕、かたちの移りかわりなどを表現したその線が、ドカンと巨大な構造物に、微妙な表情を与えています。すぐそばにクニャクニャと垂れ下がっているジャバラ状のパイプは、着陸脚を形成する金属素材の分厚さを引き立てています。「ディティールアップデザイン画」には、画面では守が手前に立つことでほとんど見えなくなる表示板のなかの図柄も描かれています。そのちかくには「南部マーク」という指定書きもあります。南部重工製であるようです。 

重さやおおきさ、また、着陸脚が、プラモデルのようにパチパチと部品をはめ合わせるようなつくりではなく、複雑なプレス加工や溶接を経た末に出来たものであることが、一枚の絵のなかで語られています。しかも映っているのは艦首側の4本ある着陸脚のうちの2本。画面の右側には、もう一対、同じ構造体があるということになります。 

一部分だけでも、かなり頑丈につくられていることのわかる着陸脚ですが、すこし前、ユキカゼの全貌がうつる場面をよく見れば、タイヤの下のほうがグニャリと歪んでいます。これほど頑丈な着陸脚であっても、すべてを逃がしきれないほどの重量が、ユキカゼにはあるのです。また艦体の表面には、着陸脚に負けず劣らず、斜線が多く入っています。やはり傷や汚れ、歪みを表現した線です。それをさらに強調するように、ところどころに白や黄色や赤の基本色とはちがう、くすんだ色が塗り重ねられていたりもします。 

第1話では、あざやかな色合いで、とても軽やかに動いていたユキカゼも、実際は重々しい金属のかたまりであり、その艦体は傷だらけだったのです。艦隊が地球を出発する場面では、ユキカゼのノズルの周辺には汚れもかなり目立っています。あの戦いの時点で、すでに地球がどれほど苦しい状況にあったのか、やわらかな風合いの映像のなか、親友ふたりの会話のむこうから、セリフではない言葉で、饒舌に伝えられています。

真田がポケットから取り出した中原中也の詩集は、けっきょく彼の手元に残ることになりました。親友へ伝えられなかった言葉とともに。
「正直なやつだな。」学生の頃と同じ、遠慮のない言葉、あたたかな笑顔に、どこか淋しそうに口の端をあげる真田でした。

第17回:炎上するモミアゲと、世界のかたちを決めるもの

■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメ
の制作に参加。「ブレイクブレ
イド」(10年)「マギ シンド
バッド の冒険」(14年)ほか
アニメ、 ゲームの設定デザインなどを
担当、 現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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