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第18回:七色の前夜、「M」のかたちで彼は微笑む

「宇宙戦艦ヤマト2199」第19話の終盤、ドメル幕僚団のゲットーは、バルグレイ艦長に見送られ、戦場へと向かいます。バルグレイの顔には厚い忠誠の心が浮かび、手は指の先まで力強い敬礼のかたちをとっています。彼の誠実な姿はそのまま、その誠意の向かう先であるゲットーの、人としての大きさを伝えていました。口元はいつだって「M」の字、第13話では爪を磨きながらゲールをあしらっていた男の、これまで描かれることのなかった一面が、そこにはありました。

第一空母からは、空間艦上戦闘機デバッケが次々と発進してゆきます。第18話につく次回予告でも示されている場面ですが、画面の印象は予告とは大きく変わっています。いわゆる宇宙空間らしい漆黒の空の広がっていた背景は、七色の雲のうずまく、雲海のような空間に。ドメラーズⅢ世やデバッケの色も、各艦各機固有の色から、朝焼けのような、あるいは黄昏のような光を受けた色味へと調整されています。画面左手から右手へとデバッケがゆっくりと滑走してゆく場面の格納庫の壁には、予告にはなかった、こまやかなディティールが追加されています。 

ドリルミサイル、もとい、特殊削岩弾を積んだ空間重爆撃機ガルントが悠然とたたずむ場面も、予告よりディティールが増えています。ただ、よくみれば、この場面も、そのほかの場面も、これまでの話数よりも、ディティールの増えかたがほんの少しだけ抑え目であったりもします。 

たとえば、第一空母の甲板に、ゲットーのデバッケがリフトで上昇してくる場面。甲板やその内部構造は、3DCGをもとに、ディティールを追加した絵があらたにつくられているものの、デバッケ本体は、表面にいくつかの線を追加しただけで、ほぼ3DCGのままだったりします。第19話は、万全とは言いがたい状況のなか、人々が気持ちを高めてゆく物語とシンクロするかのように、ディティールの増えかたも力を蓄えるような処理になっています。 

つづく第20話の七色星団の海戦は「2199」だけでなく「宇宙戦艦ヤマト」史上においても屈指の戦い。チーフメカニカルディレクター西井正典さんとの打ち合わせの席でも、この戦いをどう描くのか、初期話数を制作している頃から、たびたび話題にのぼっていました。三段空母って格納庫みえちゃってるんですよねえ、いやぁどうしましょう?…西井さんはいつもそんなふうに、大変になるでしょうねぇとか、困りますよねぇなどと口では言いつつ、目はウキウキ踊っていたものでした。いま思えば、七色星団の戦いがあそこまでの物量戦になることや、その前後で調整をすることは、あの頃からすでに、宿命ともいえる決定事項だったようです。 

とはいえ、調整をするということは、単純に、ケチるということではありません。リフトで上昇してくるデバッケは、一枚絵としてのディティールは抑え目ではあります。けれど、そこに3DCGの時点で正確に計算されたリフトの動きや、流れゆくカゲの動きが加わることで、みごたえのある映像に仕上がっています。メカニック表現でも演出でも、限られた戦力を、最大限に活用する戦術が選択されているのです。 

バルグレイに見送られ、ゲットーはゆっくりと歩いてゆきます。その途中、彼は一瞬だけ目を閉じ、そして開きます。ひらいた瞳には、おだやかな光が浮かんでいます。相変わらず口元は「M」の字に結ばれたままではあるものの、その瞳は微笑んでいるようでさえありました。ただ歩いているだけにもみえる場面のなか、まばたきをするあいだに、言葉にならない彼の想いが刻まれていました。 

第19回:虚空に踊る赤い泡と、彼女が彼女が目覚めるとき

 ■枝松聖(えだまつきお)■
1977年(昭和52年)生まれ。 
血液型A型。東京都出身。
多摩美術大学造形表現学部卒業。 
05年、「ふしぎ星の★ふたご姫」の
各話美術設定で、初めてアニメの
制作に参加。「ブレイクブレイド」
(10年)「マギ シンドバッド 
の冒険」(14年)ほかアニメ、 
ゲームの設定デザインなどを担当、 
現在フリーランスで活動中。
「宇宙戦艦ヤマト2199」には 
「レイアウト協力」「デザイン協力」
のクレジットで参加しています。

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