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枝川雑記

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あれやそれやこれやについて書いたら入れておくところ。
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#エッセイ

あの頃の私に必要だった「気まぐれ、だけど芯がある」真珠のひと粒ネックレス/keleleupepo by mela

 おしゃれをする勇気がなかった22才の夏、たまたま机を並べてお勉強をすることになった、すばらしくエレガントなスペインの老婦人に「いつでもひとつはアクセサリーをつけておくことね」と言われて、お知り合いになったばかりの彼女にストンと深く憧れを抱いていた私は、このアドバイスを実行しようと心に決めました。  とは言え、ありがちなことながら「美しくない私が美しいものを身に着けたってねぇ……」と、心細い諦念の薄笑いを浮かべて、薄暗いところで青春を空費していた私にとって、アクセサリーなん

手放してしまった「アリス」と「ピーターパン」のこと

 成長する過程で手放してしまったものが、おとなになってから恋しくなることがある。ふと「あんなものを持ってたな」と思い出して、それまではちっとも惜しくなかったものの不在が、じりじりと存在感を増していく。たとえば今、小学校の4年生くらいのときに持っていた「不思議の国のアリス」と「ピーターパン」が恋しくなっているみたいに。  たぶん両親のどちらかが実家で見つけて、私のために持って帰ってきてくれたものだったと思う。茶色い厚紙のケースに入った、おとな向けの小説本だった。アリスとピータ

たまに海外でソフィア・ロッシと名乗ることについて。

 しばらく欧州をうろうろしていたとき、偶然から友だちになった中国人留学生の子たちが、なぜだかフランチェスカだのマリアだのと横文字の名前を名乗り始めたときには、ちょっと驚いた。  私が「今、フランチェスカって言った?」なんて確認を取ると、かわいく小首をかしげて「これは海外用の名前なの」って前置きをしてから、手帳に漢字で書いて本名を教えてくれた。もう長いこと象形文字を見ていなかったから、小学校で習った漢字だけで構成されたフランチェスカの本名は、涙が零れそうになるくらい懐かしいもの

書き取って没入する濃密読書

 目の表面だとか脳の内側だとかに、見聞きしたり考えたりしたもので出来上がった生活の滓みたいなものが溜まったとき、じぶんとは丸っきり関係のない人たちの悲喜交々を目の当たりにすると、苛立ちがすっと落ち着いたという経験がある人は少なくなさそうです。よく「自分より怖がってる人を見たら怖くなくなった」とか「私の慶事なのに、お祝いに駆け付けてくれた友だちがわんわん泣いて喜んでくれたから、なんか笑っちゃった」とか、そんなエピソードを目にするのですが、あの現象に近いのでしょうか。  自分の疲

駆け出しマンガ家トケイさんの「じゃぱん」の西のほうにいる私の感想

「ご趣味は?」 梅田地下ダンジョンから観光客を救出することです。大都会OSAKAには見どころがたくさんありますが、気が付けばもう10年以上も大阪をうろうろしている私が最も好きな場所といえば、難攻不落のダンジョンとして世界に勇名を馳せる梅田の地下街です。 なにせ、目的地まで(あんまり)迷うことなく歩いていくだけで、お上りさんな同行者からの賞賛を浴びられる。 今回ご紹介する駆け出しマンガ家のトケイさん(@tokeikamone )を、阪急三番街のフードホールから、大阪メトロの御