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解禁間もないフィンテック融資(金融事業向け融資)でスタートアップが資金調達した話〜ファーストペンギンとしてお伝えしたいこと〜

スタートアップファイナンスにおいては昨今、株式を活用した調達(エクイティファナンス)に加えて、融資による資金調達(デットファイナンス)を組み合わせながら事業を成長させるケースが増えてきました。また、第三の選択肢として、ファクタリングやRBF(レベニューベーストファイナンス)など、債権や将来債権を根拠とした資金調達なども選択肢として充実してきたように思います。

イークラウドは、株式投資型クラウドファンディングを運営している会社です。スタートアップの資金調達を支援する事業を営んでおり、株式投資型クラウドファンディングは金融業、証券業(第一種少額電子募集取扱業)に類型されます。

イークラウド自身もひとつのスタートアップ企業として、これまで複数回の資金調達を行い、このたびデットファイナンスによる資金調達を実施しました。しかしながら、イークラウドのデットファイナンスはこれまで、業種の関係で門前払いでした。スタートアップ向けの窓口でも、「御社は金融業でしょうか・・」と業種を理由に文字どおり門前払いをされてきました。

(少しだけ補足すると、創業期のスタートアップは一般的なデットファイナンスとの相性は返済リスクの観点でよくないと言われています。そのため、融資の中でも、銀行からのプロパー融資ではなく、政策金融公庫や保証協会等の保証付きの融資を受け、返済実績を積むことで融資枠の拡大を目指すことが一般的です。)

今回、デットファイナンス実施の鍵となったのは、一歩先ゆく情報収集と、関係者との粘り強い交渉でした。本noteではイークラウドがどのように調達を実施したのかを振り返ります。資金調達に奔走する起業家の方々の参考になれば幸いです。

金融業に立ちはだかっていた制度の壁

デットファイナンスにおける門前払い。この背景にあったのは日本の法令です。日本においては中小企業信用保険法施行令や株式会社日本政策金融公庫法施行令という保証協会や政策金融公庫に関するルールがあり、その中で、金融業は「中小企業の範囲外」という整理がされていました。

旧条文:中小企業信用保険法施行令

第一条 中小企業信用保険法(以下「法」という。)第二条第一項第一号の政令で定める業種は、次に掲げる業種以外の業種とする。
一 農業
二 林業(素材生産業及び素材生産サービス業を除く。)
三 漁業
四 金融・保険業(保険媒介代理業及び保険サービス業を除く)

太字は筆者

旧条文:株式会社日本政策金融公庫法施行令

(中小企業者の範囲)
第三条 法第二条第三号イに規定する政令で定める業種は、次に掲げる業種以外の業種とする。
一 農業
二 林業
三 漁業
四 金融・保険業(保険媒介代理業及び保険サービス業を除く)

太字は筆者

制度改正の転機

転機となったのは、2022年11月28日に政府により閣議決定された「スタートアップ育成5か年計画」です。フィンテックのスタートアップでも金融業だと融資が受けられない制度について疑問に思っていました。同じような考えを持った人たちの声が政府にも届き、計画の中に、このような一節がひっそりと盛り込まれました。

例えば、日本政策金融公庫の創業支援制度において、また貸しのリスクがないことを審査の上で金融業(フィンテック企業)も融資対象とするなど、我が国において銀行からスタートアップへの融資が促進されるための環境整備を進める。

「スタートアップ育成5か年計画ロードマップ」案より、筆者編集

その後、法改正の検討が順調に進み、2023年6月に公布、8月に施行されました。

中小企業信用保険法施行令

第一条 中小企業信用保険法(以下「法」という。)第二条第一項第一号の政令で定める業種は、次に掲げる業種以外の業種とする。
一 農業
二 林業(素材生産業及び素材生産サービス業を除く。)
三 漁業
四 金融・保険業(クレジットカード業・割賦金融業、金融商品取引業(補助的金融商品取引業を除く。)、商品先物取引業・商品投資顧問業、補助的金融業・金融附帯業(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第二十五項に規定する資金移動業務を行うもの及び同法第三条第一項に規定する前払式支払手段の発行の業務を行うものに限る。)、金融代理業(金融商品仲介業に限る。)、保険媒介代理業及び保険サービス業を除く。)

太字は筆者

株式会社日本政策金融公庫法施行令

(中小企業者の範囲)
第三条 法第二条第三号イに規定する政令で定める業種は、次に掲げる業種以外の業種とする。
一 農業
二 林業
三 漁業
四 金融・保険業(クレジットカード業・割賦金融業、金融商品取引業(補助的金融商品取引業を除く。)、商品先物取引業・商品投資顧問業、補助的金融業・金融附帯業(資金決済に関する法律(平成二十一年法律第五十九号)第二条第二十五項に規定する資金移動業務を行うもの及び同法第三条第一項に規定する前払式支払手段の発行の業務を行うものに限る。)、金融代理業(金融商品仲介業に限る。)、保険媒介代理業及び保険サービス業を除く。)

太字は筆者

(金融業でも金融商品取引業は対象外業種の対象外、ということでめでたく対象となりました)

「では早速調達!」とはいかず…

法改正される前後で、再び金融機関へ融資の相談をしました。しかしながら、通常の窓口経由では「まだ事例が無い」、「まだ、社内ルールが決まっていないので検討できない」などの回答を受けて絶望しました。せっかく法改正が進んでも事例主義では新しい制度は使われるはずがありません。銀行内の調整は事例が無い段階だと担当としても骨が折れることを前提に、調整に熱意を持っていただける方を探すことにしました。

法改正後、本格的な交渉を開始し、以下の論点について担当から明示いただくことができました。

  • 金融業としての審査や融資などは行内にも事例が無いこと

  • イークラウドが並行して進めていたエクイティファイナンスが予定どおり着金していること

  • そのため、行内の調整も不確定部分があり、ステップも多くなる可能性があること

「まだ事例がない」といった状態から、このように具体的な論点が見えてきたことで、双方のアクションが明確になりました。予定していたエクイティファイナンスも終えることができ、行内でのプロセスもほぼ予定どおりに進めていただくことができました。

結果、ベンチャーキャピタル(VC)3社からのエクイティファイナンスと政府系金融機関からのデットを組み合わせて、資金調達を完了させることができました。

ファーストペンギンとして取り組んでみて、大事だと思ったこと

現在、スタートアップの調達環境や関連制度は目まぐるしく変化しています。

そうした中、調達で重要なのは

  • 新しい制度やサービスをキャッチアップする情報収集力

  • 先例なき道を行くための関係者との粘り強い交渉力

  • 熱意を持って伴走してくれる仲間づくり

これらではないかと、ファーストペンギンとなって改めて感じた次第です。資金調達はスタートアップの成長を左右するものであると同時に、事業の理解者を増やすことでもあると考えています。調達を目指す起業家の皆様に、最適な手段が見つかることを願っています。

おまけ(宣伝)

最後に宣伝です。スタートアップ育成5か年計画の中で、「株式投資型クラウドファンディング」についても積極的な法改正の議論が進められています。現在は1億円未満を上限とする資金調達手段ですが、今後5億円未満まで緩和され、資金調達手段としての利用シーンが増えることが期待されています。

常に変化する資金調達環境の中で、資金調達の選択肢を増やし、エコシステムを多様で豊かにすることは我々の責務であると感じています。

スタートアップの資金調達手段として「株式投資型クラウドファンディング」も選択肢に入れませんか?

制度や事例など、詳しく聞いてみたいスタートアップのCEOやCFOの方はお気軽にご相談ください(スタートアップの資金調達を支援している士業の方からのご相談なども歓迎です)。

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