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地方創生の失敗策に歯止めを

はじめに

   「地方創生」という言葉は、誰もが1度は耳にしたことのある言葉であるが、その具体的な政策や現状を知っている人は多くないだろう。そもそも地方創生の目的は、東京一極集中や地方の人口減少に歯止めをかけ、日本全体の活力をあげることである。この政策は2015年から全国で本格的に展開されているが、なかなか結果が出ていないのが現状である。

   では、国を挙げて取り組んでいるはずの地方創生がなぜなかなか成果に繋がっていないのか。ここでは地方創生について全く知識のなかった私が、その現状について知る機会となった『地方創生大全』(木下斉/東洋経済新報社/2017)を元に、地方創生政策でよくある失敗例を2つピックアップしたいと思う。

ゆるキャラ

   今や子供から大人まで、幅広い年代層に人気を誇り、一時はメディアでも大きく取り上げられたゆるキャラ。特にゆるキャラグランプリが始まった2010年以降は、全国各地でご当地ゆるキャラが生まれ、ゆるキャラグランプリのエントリー数は、ピーク時には1700を超えた。この数の中で人々の記憶に残っているゆるキャラはどのくらいいるのだろうか。

   新たなゆるキャラを産むことは、一見地域活性化に大きく貢献しそうであるが、実質的な経済効果があるのかといえば必ずしもそうとはいえない。確かに一部のゆるキャラは全国な人気を勝ち取りヒットしたわけだが、その経済効果を鵜呑みにしてはいけないのだ。例えば、2013年に日銀の熊本支店は、くまモンの経済効果は1000億超だと謳ったが、これはくまモンをつけた関連商品の売上高が主体となっている。つまり、その商品が置かれることで逆に置かれなくなる、または売れなくなる商品のマイナス効果を考慮しない数字なのである。

   また、ゆるキャラグッズは、その地域オリジナルの商品ではなく、どこにでも売っているようなクッキーやおまんじゅうなどの既存商品のパッケージにつけられていることが多い。一時的に人気を博している時はともかく、そんな商品がいつまでも店頭に並んでいて売上を伸ばすことに期待はできないのである。

   私は群馬県出身で、群馬のゆるキャラといえば2014年にグランプリを取ったぐんまちゃんだ。帰省した時は、東京のバイト先や友達に、よくお土産を買うが、駅のお土産売り場にはいつも数多くのぐんまちゃん商品が並んでいるのを目にする。私もこうした商品を買ったことがあるが、実際パッケージを開けて食べてみると、もう一度買いたいと思うクオリティのものではないことが多い。もちろん全てがそうとは言えないが、そのキャラクターに頼りすぎて、商品自体の改良に力が入っていないのは問題である。

   実際、こうしたゆるキャラ政策が結局実を結ばず、経費を無駄にしても終わっている事例の方が圧倒的に多いのだ。年々減少するゆるキャラグランプリのエントリー数もそれを物語っている。

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(出典: https://www.yaserucola.com/entry/yuruchara )

特産品

   もう1つ、全国各地で取り組まれているのが「特産品開発」であるが、これによって地域が活性化した事例もごく一部なのだ。地域独自の材料を活用して商品化することは、一見地方創生に役立ちそうだが、様々なメーカーの商品が競合になる中でそもそも仕入れてさえもらえないことも多いのである。 せっかく作った特産品が売れない要因として、『地方創生大全』では以下の3つを挙げている。

①商品自体の間違い…そもそも作ろうとする商品が、過去に他地域で成功したものであったり、その時流行りのものに乗じて作られることが多い。しかしそうしたものほど競合が多く、生き残っていくことが難しいのだ。

②原材料の間違い…原材料を選ぶ際、売れる商品像から逆算して選ぶのではなく、その地域で多く生産されるからという理由だけで選んでいることが多い。地元のその資源が1番だと勘違いして商品化し、結局他との差別化ができていないのだ。

③加工技術の過信…新たな技術を導入することで売れる商品が作れると勘違いしてしまうことがある。多大な額を設備投資に費やした結果、結局それを取り返すことができるほどの商品が作れたのか、という問題である。

   特産品開発は、協議者組織を中心に行われるが、そこには現地の販売者や消費者が関与していない場合が多い。売る側や買う側の意見が取り入れられないとなると、生産者や加工者の都合で高価格に設定される。高すぎて売れないとなると、補助金を使って経費を補助して安値にするが、それが実現できるのは補助金が切れるまでの期間だけである。

   特産品開発をして、その商品がなかなか売れない打開策として、よく取り組まれるのが「地域ブランド」活動である。現在日本全国で、地域ブランドは600以上登録されている。その中で全国に広く浸透しているブランドはいくつあるのだろうか。

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(出典: 特許庁)

   そしてブランド化で陥りやすい罠として、コンサルタント頼みでブランド化を推進しようとする地域がほとんどなのだ。外部から来たコンサルタントにお願いしているのでは、結局日本全国で同じシナリオで似たような地域ブランドが誕生し、結果その商品を置いてくれるところはごく一部に留まってしまう。

失敗例から見えてくる課題

   ここではゆるキャラと特産品の2つを取り上げたが、地方創生をめぐる失敗のサイクルは他にもたくさん起こっている。ゆるキャラや特産品開発は、地方創生についてよく知らない私はよくある成功事例のように認識していたが、全く逆であることが分かった。

   失敗が繰り返されてしまう原因としては、地方創生政策が他地域を真似することで始まり、失敗を共有せずに終わっていることが大きい。地域創生をするには、そもそもその地域独自の問題や特色と向き合い、ネタを探さなければならないのであって、他の成功事例を自分の地域に当てはめてはいけないのだ。また、行政側は人事異動が頻繁にあるため、失敗事例の引き継ぎはほとんどされないのが現実である。他の地域が同じ失敗を起こさないためにも、失敗事例こそ要因やプロセスなどを共有する必要がある。

   地方創生の現実は、私が想像していた以上に厳しく、少し調べただけでは分かりきれない複雑な構造を持っている。その構造自体から改革を行い、日本国民全員が真剣に向き合わなくてはいけない課題なのだ。まずは地方創生の現状と課題について正しい知識を広め、地方を超えて情報を共有し、試行錯誤しながら挑戦していくことが大切である。