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森見登美彦『夜は短し歩けよ乙女』(2008)

■2021年3月の読書。最近は中学受験本ばかり読んでいたので、久々にノートに記しておこうと思えた本なので、簡単に。

■小学4年生の子供がねだり、1年前くらいに購入していた。つい最近、同名の映画を地上波で放送していて、気になったから読んでみた。

■裏表紙をめくった注意書のところに、2008年に刊行された角川文庫をもとに一部を書き換えて読みやすくしたものと説明があるものの、あくまでも角川つばさ文庫という小中学生向け図書と思い込んで読み始めていたので、のっけから踏ん反り返りそうになった。

■物語の冒頭より5文目の「これは彼女が酒精に浸った夜の旅路を威風堂々と歩き抜いた記録であり」という一文から、ん?と思わせ、「偽電気ブラン」という怪しげなカクテルや、「お乳を触る」、「春画」、「憚りながら、いわゆる男性自身」、、ここまでで全317ページ中たったの24ページ。これを小学4年生になりたての子供が読んだのかと思うと一瞬ヒヤリとした。

■でも我が子はとっくに読み終わっているし、開き直って読み進めると、結構面白かった。空想と現実と難しい古風な語彙が入り混じっためちゃくちゃ感満載のファンタジー恋愛小説だが、主人公の先輩の一途さと、同じく主人公の黒髪の乙女の天然さが可愛らしくて、個人的には結構好き。難しい言葉には親切な注釈があり、子供の語彙の勉強にもなったかなという親の打算もあったことを記しておこう。

■「読者諸賢、ごきげんよう。ここに久闊を叙す」などという、ずいぶん古風で明治時代の文豪のような語り口調の先輩は、一目惚れした大学の部活の後輩の女の子を追いかけている。意中のその子は超天然さんで、先輩の反吐が出るような努力の積み重ねによって偶然を装った運命的な出会いの数々を経てもなお奇遇としか思ってくれない。それでも外堀をぐるぐると周り、堀だけを固め続ける日々が、歯痒くもおかしくてたまらない。だから、物語の終盤に、高く積み上げた外堀を超えて、中に踏み込む行動を彼がとった時は爽快感もあったし、物語の終わりに見える、これから始まるであろう二人のアオハルにほのぼのした。

■後日、同じ著者による『ペンギンハイウェイ』も読了。こちらは最後が切ないのだが、良かった。個人的に、主人公の父のファン。知的で冷静だけど、あたたかい感じがいいなぁと。

■SFファンタジー分野に明るくないが、子供の想像力や空想力についていくためにも、たまには現実離れした物語を読むのも悪くないと思った。


森見登美彦『夜は短し歩けや乙女』(2017 角川つばさ文庫)
https://tsubasabunko.jp/product/321701000033.html
森見登美彦『ペンギン・ハイウェイ』(2018 角川つばさ文庫)
https://tsubasabunko.jp/product/321712000599.html

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