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アダム・トゥーズ「ドイツにおける右派の揺れ動きを分析する:極右政党AfD(ドイツのための選択肢)躍進の背景にあるものとは何なのか」(2024年9月1日)

旧東ドイツのテューリンゲン州とザクセン州の地方選挙で右傾化が進むことは、以前から予測されていたことだ。これは、旧東ドイツと西ドイツの間での格差が拡大していることを裏付けるものであり、すでに今年の夏の欧州議会選挙で露骨なまでに顕になっている。

出典:エコノミスト誌

ドイツで9月1日に行われた地方選挙で、テューリンゲン州、ザクセン州での投票率は74%近くに達した。これは、旧東ドイツの有権者が既存政党に不満を持っているとしても、民主主義を見限っていないことを示している。

テューリンゲン州では、急進右派のビョルン・ヘッケ率いるAfD(ドイツのための選択肢)が、他の政党を大きく引き離して第一党となった。この記事を執筆している段階では、AfDが、非AfD連立政権の組閣を阻止できる33%の議席を獲得できるかは予断を許さない状況だ。

ザクセン州では、〔中道右派政党〕キリスト教民主同盟(CDU)がかろうじて第1党となったが、もし州で政権を樹立するとしたら、他の政党との連立を組まねばならない。

それ以外の政党で目を引くのが〔左翼党(Die Linke)から離反して2024年に結党された〕「ザーラ・ヴァーゲンクネヒト同盟=理性と公正のために」党、略して「BSW」だ。BSWは、左翼党から多くの票を奪っている。

今回の選挙結果は、AfDとCDU以外の政党、特に国政で連立政権を組んでいる与党政党である〔中道左派政党〕ドイツ社会民主党(SPD)、緑の党(Greens)、自由民主党(FDP)、左翼党(Die Linke)にとって屈辱的な大敗だ。旧東ドイツの大半で、国政与党は、AfDだけでなく、BSWの後塵を拝している。

選挙社会学の観点からは、今回の選挙結果は過去5年間に浮かび上がってきたパターンの裏付けとなっている。AfDの支持者は、若年層、男性層、低学歴層に偏っている。彼らは「労働者」を自認し、自身を「あまり裕福でない」と宣言する傾向にある。

例えば、有権者を「初等教育(einfache Bildung)」と、「高等教育(Hohe Bildung)」に分けた上で投票先の分布を見てみよう。

旧東ドイツで、AfDについで主要政党となっている〔中道右派政党〕CDU(キリスト教民主同盟)の支持母体は、高齢者と富裕層に偏っている。〔左翼からの離反者によって〕新設されたBSWは、社会集団間で比較的均等に支持されている。

AfD支持者は多くの事情から、自身の不安定な未来への直面を恐れているかもしれない。旧東ドイツの各州から、西側への人口流出が続いている。

出典:エコノミスト誌

しかし、驚くべきことは、「社会的苦境」という言説があっても、国家支出や福祉の拡大を支持する政策綱領に繋がっていないことだ。最低賃金のような争点で、AfDの支持者間では意見が割れている。AfDの公式見解では、最低賃金を現在の水準で据え置くとしている。このAfDの据え置き方針に、YouGovの世論調査によると、AfDの支持者の大半は〔最低賃金の引き下げ等を支持して〕反対している。

全体的には、AfDの支持者は「もっと大きな政府」を望んでいないようだ。AfDの支持者の90%が、ドイツ国家は「過剰」だと考えている。これは、市場について自由主義的な見解を取る自由民主党(FDP)と同じ立場で、旧東ドイツで他政党を支持する市民と大きく隔たっている。

全体的に見て、AfDの支持者は、公的機関に対して非常に懐疑的で猜疑心が強い。ザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州での警察への信頼は、平均では68%だが、AfD支持者だと半数しか信頼していない。公共放送のラジオ・テレビを信頼しているのは、AfDでは9%だが、国民平均では35%だ。連邦議会への信頼は、AfDで7%、国民平均で30%だ。同胞への信頼では、AfD支持者では1/3しかないのに対して、〔政権与党〕SPD支持者では60%だ。

AfD支持者は、文化闘争を行っている。支持者の86%が、ドイツ語を非性差別語化しようとする最近の取り組み「gendern(ジェンダー・ニュートラル化)」に反対している。この取り組みへの反対は、旧東ドイツでは71%だ。AfD支持者の2/3は、「ドイツで女性は差別されている」とする考えを否定している。

AfD支持者が好事的にターゲットにしているのは、フェミニズム、移民・市民権・犯罪に対してリベラルな政策を提唱している典型的な「西側」政党であり緑の党だ。そして、AfD支持者はこの反リベラルな争点では団結している。

ザクセン州でのAfD支持者の42%にとって、移民は重要な争点となっている。移民の争点化では、州の平均的有権者の2倍だ。

もっと決定的になっているのは犯罪についての争点だ。ザクセン州のAfD支持者の98%が、これから犯罪が「大幅に増加する」ではないかという懸念を表明している。

しかし、AfDが戦っている文化戦争は、移民と犯罪だけではない。支持者の75%は、経済成長よりも気候政策を優先することに反対している。テューリンゲン州、ザクセン州、ブランデンブルク州の平均では46%だ。

緑の党に対陣を張っているのはAfDだけではない。メルケル退陣後の新体制のCDUも緑の党への対抗路線を取っている。これはデータにも表れている。旧東ドイツであるザクセン州、テューリンゲン州、ブランデンブルク州の有権者の70%近くが緑の党に投票する選択肢を排除している。緑の党を選択肢として検討しているのはわずか17%だ。

出典:YouGov

AfDが、反「移民」、反「緑の党」とするなら、誰もが気になるのは、AfDがどの程度まで「ナチス」なのかということだ。

Infratest Dimap社が2023年に行った世論調査によるなら、ドイツの有権者のうち、20%強が、人種差別、排外主義、権威主義、親ナチスな見解を表明し、極右かオルト右翼的的見解を表明している。同年のAfD支持者では、この割合は50%をはるかに超えた数値となっている。

AfDは党員数では、「大衆政党」に程遠いことは着目に値する。旧東ドイツの全体で、統一以降に各政党の党員数は激減しているが、〔中道右派政党〕CDU(キリスト教民主同盟)、〔中道左派政党〕SPD(ドイツ社会民主党)、さらに緑の党でさえも、AfDよりも登録党員数は多い。

しかし、AfDは大衆政党ではないとしても、結社や非公的な繋がりのネットワークを通じて存在感を示している。AfDはじわじわと、東ドイツの政治的規範を定義する存在となっている。

テューリンゲン州と、ザクセン州の選挙結果は、この2州特有のものだ。しかし、この数年のドイツ政治の右傾化は驚くべきものとなっている。Election.deは、ドイツの政治を個々の選挙区レベルで追跡するウェブサイトだ。同サイトは、2021年9月の連邦議会選挙の直前には以下の図の左側で図示されている得票分布を予測している。実際の選挙結果は、結果は右側に図示されたものとなった。このデータは、ドイツが単純小選挙区制を採用した場合の勝利政党の議席分布を示している。これを大まかに言うなら、現在ドイツの6~7党体制を維持したまま、アメリカやイギリスのような単純小選挙区制を採用した場合の、ドイツの政治地図だ(むろん、ドイツでウェストミンスター制が採用されたら、政党の急速な統合が予測されるだろう)。

下の地図は、Election.deが2024年に予測したものだ。明らかに2019年以降の劇的な変化が示されている。

ドイツが、単純小選挙区制を採用したとするなら、旧西ドイツでは〔中道右派政党〕CDU(キリスト教民主同盟)がほぼ全勝し、旧東ドイツではAfDが全勝するだろう。

ザクセン州で行われた調査で最も隠された事実を暴いたものの一つがある。それは、AfDとBSWの支持者は共に、旧東ドイツ市民は依然として「二級市民」だと感じていることだ。

〔原題直訳:「ドイツにおける右派の揺れ動きを分析する」〕
[Adam Tooze, “Chartbook 314 Analyzing the right-wing swing in Germany”, Chartbook, no.314, Sep 01, 2024]
〔翻訳者:WARE_bluefield

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