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忘れられた人々のための芸術

 表現をしていると、作品を批判されることはままある。単なる誹謗中傷のこともあれば、的を得ていることも多い。厄介なのは前者だが、後者の方が精神的ダメージは強い。余裕がある時ならば少し凹んで受け入れるが、余裕がないと筆を折ろうかとも考える。

 幼少期から私はプライドが天に昇るほど高く、この手の批判に耐えられなかった。そこで生み出される思考が、「私の作品は馬鹿には理解できない」だった。自分は沢山本を読んできている、この作品の良さが分からないのは読者に教養がないからだと思い込み、自分を守っていた。

 これは失敗だった。自分の大事な鑑賞者を見下すことはもちろん良くないが、作品にとっても良くない。作品にとって鑑賞者は生きていく糧である。作品が世に出て行こうとするのを阻む、危険な考えだ。自分がヴィーガンだからと子どもにもタンパク質の足りないヴィーガン食を強要するようなものである。

 私が読んでいた本の中で、こんな言葉があった。


忘れられている人々のために表現してください。社会の底辺にいる人にも理解されるようにしてください。
簡素な生き方 シャルル・ヴァグネル p83-84

 この言葉に、感銘を受けた。

 芸術とは、生きていく上で必要不可欠ではない。しかし、人々の暮らしを豊かにしてくれるものだ。生きる希望を与えてくれるものだ。

 生きる希望を必要としているのは、十分な教育を受けて教養とお金が十分にある人ではなく、日々を生き抜くことが精一杯な人の方ではないか。

 世の中には、確かに「忘れられた人々」がいる。一度レールから外れた人間に、社会は冷たい。必要な支援を受けられない人々、社会的に居場所がない人々。せめて芸術は、この人たちを救って欲しいと思う。

 私を含めた、救えない人たちを救ってほしいと思う。

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