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研究は乙女を扱うようにやれ

 大学を卒業し、無事修士1年生となった。

 研究室生活は目が回るほど忙しい。実験はもちろん、合間で論文を読まなければならない。授業や実験補助の準備なども必須だ。さらに分属の季節になれば、私の下に新しく後輩がつくことになる。これ以上忙しくなるのか。後輩を育てられる気がしない。でもこんな忙しい中で、先輩は私の面倒を見てくれてるのだ。ありがたい。ありがとうございます。いつも生意気言っててすみません。この文章読んでませんように。

 毎週木曜金曜は暗くて寒い部屋で液晶の明かりを頼りに電子顕微鏡と戦っている。研究内容はどうせ書いたところで同じ分野の人しか理解できないだろうし、興味もないと思うので割愛する。とにかくこの電子顕微鏡が曲者で、試薬を入れるスピードや距離感を間違えると途端にピントが外れ、"完全な無"を計測することになる。空が綺麗という理由で涙を流すような、お姉さまに「わたくし結婚しますの」と言われさめざめと泣くような、そんな純情乙女を扱うよりも細心の注意を払う必要がある。払ってても"完全な無"が現れる。ふざけるな。怖いか?私が。

 そんなわけで、労力の割にうまく行くことは少ない。どれだけ愛を囁いても、乙女は私の言葉を信じてはくれないのだ。乙女は乙女の中で定義された愛以外の愛は認識できない。何故か?乙女だから。研究をしているはずなのに、私の人生を狂わせたかつての少女をいつも思い出す。

「ただの現実逃避だろ?」

 そんな声にはグーパンで対応する。研究者が手を出さないとでも思ったか?こちとら蛍光灯浴びてるモヤシだぞ、多少は緑なんだからパンチだってできる。

 でもうまく行った時は嬉しいから、研究はやめられない。でも17時には帰る。眠いから。

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