BOX or TOOL
そんなわけで、WBC、WBO世界スーパーバンタム級タイトルマッチ、チャンピオン・スティーブンフルトンVS挑戦者ナオヤ・イノウエの無敗同士の一戦は、8Rナオヤ・イノウエのKO勝ちで終わった。
試合内容についての感想だが、フルトンのディフェンス・テクニックと目の良さは超一流としかいいようがないと思った。
反射神経もすごいのだが、先読みの洞察力が頭おかしいのか、と思わされた。なんといっても8Rもイノウエと戦っていたし、3Rあたりからはイノウエのパンチに動きがアジャストしていた。
何発か食らいながら、それでもアウトボクシングでイノウエのパンチにアジャストした動きができるボクサー、というのを初めて見た気がする。
一瞬のスキをつかれて、いい右ストレートをもらってしまい、そこからの連打でダウン、立ち上がったものの再びの連打(仕留めにかかった時のナオヤイノウエの恐ろしさはこれまで何回も見てるが、毎回戦慄させられる)でレフェリー・ストップとなったのだが、これは敗因ではないと思う。
12Rの間、一瞬たりとも気を抜かないなどという事は人間である以上、無理だと思うのだ。
フルトンの敗因を上げるとすれば、アウトボクサータイプだったという事ではないか、と私は思う。
アウトボクシングではナオヤ・イノウエに勝つ事はできないのだ、と。
なぜなら、相手の攻撃をかわしつつポイント、ポイントで自分の攻撃を
当てる、というやり方では、少なくともイノウエ相手では12Rもたないと思うからだ。
まずイノウエのパンチをかわすのが難しく、さらにかわした後に攻撃しようものなら、絶妙なカウンターが飛んでくるか、逆にかわされてさらに激しい攻撃をお見舞いされる事になる。
かわされなかったとしても、倒せるパンチでない限り、倒れなかったイノウエは自分が攻撃を受けた時、”半沢直樹”と化す。
相手を倒すパンチを持ったファイタータイプでないとイノウエに勝つのは難しいのではないだろうか。
ノニト・ドネアは、完全なファイターというよりボクサー・ファイターというタイプだが、倒すパンチを持っていた。
だから、VSナオヤ・イノウエ第一戦で、ダウン寸前となるほど追い詰めながら、試合はKOではなく判定でドネアの敗けとなったが、今までの世界戦でイノウエが一番苦戦した試合になったといえるだろう。
イノウエはそれほど打たれ強いわけではないと思える。
本日の試合後、勝利インタビュー中に観戦にきていたWBA、IBFスーパーバンタム級チャンピオンのマーロン・タパレスがリングに上がり、イノウエの対戦希望の声を受ける、というシーンが見られた。
ご丁寧に2本のベルト持参で来場していたようで、リング上で両チャンピオンがベルト2本づつ、計4本を掲げてみせ、テレビカメラとフラッシュの嵐に応えていた。
随分と積んだのだろうな、と思う。高いチケット代にも関わらず、今夜の会場だった有明アリーナが満員になっていたのを見ると、イノウエのタイトルマッチならそれでも十分ペイするのだろう。
マイクを通じて両チャンピオンが宣言したとも取れる今夜のこの場面、4団体統一タイトルマッチが年内にも観られるかもしれない。
が。
タパレスは倒せるパンチを持ってるわけでも、今夜のフルトンのような抜群のディフェンス・スキルを持ってるわけでもない。
試合が終わった後、フルトンは中々去ろうとせず、リング上をいつまでもうろうろと歩き回っていた。その顔は納得してないといった表情に見えた。
プライドの高い男なだけに受け入れるのに時間を要していたのかも知れないが、それだけではない気もする。
この試合の記者会見の席で、フルトンのチーフトレーナーがイノウエのバンテージの巻き方にクレームをつけた、というのがあった。
実際にイノウエがバンテージを巻いている動画があり、それを見るとテープを最初に巻いてから、包帯を巻いており、この巻き方は違法だと言う。
バンテージの巻き方についてはローカルルール(その試合を行う地域のルール)に従う事になっていて、地域ごとに違っている。
JBC(日本ボクシング協会)ルールではこれはOKなのだが、アメリカではNGの所が多い。
フルトン側はこの会見の後、クレームを引っ込めて通常通り試合を行うとなったのだが、試合前から負けた時の言い訳作りをしているとも取れるフルトン陣営のクレーム内容について、アメリカのボクシング雑誌『リング・マガジン』が賛同する内容の記事を載せている。
リングマガジンだけでなく、他のいくつかのアメリカの雑誌でも賛同する内容の記事があったそうだ。
内燃機関の技術で独走し、どうやっても勝てない欧米がEVシフトで一気にトヨタを追い落とそうとしたのに、何か似てる気がする。
今後、ナオヤ・イノウエの敵は、リング上よりもリング外の方が手ごわくなるのかも知れない。
そうそう。
フルトンはボクサータイプであった事が敗因だと先述したが、それ以前の根本の所で勘違いをしている、と思えたフルトンの発言を思い出した。
試合何日か前の海外のインタビューで、自信満々に”勝つのは俺だ”と答えているフルトンが、その後の発言(何と言っていたのかは忘れた)の後でこう言ったのである。
”俺たちはボクシングをしているのだから”
(この”俺たち”とは、自分とイノウエの事を指している)
違う、と私は思う。
ナオヤイノウエは、頭の中にあるイメージを自分のフィジカルを用いて具体化する為のツールとしてボクシングを”使っている”のであって、ボクシングをやろうとしているわけではない、と思う。
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