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Entertainment

ナオヤ・イノウエ VS ルイス・ネリが終わった。

1Rにナオヤ・イノウエ、キャリア初のダウンを奪われると2Rに
ダウンを奪い返し、5Rに再度ナオヤ・イノウエがダウンを奪い、
6Rにネリを仕留めた。

試合の感想。

はしゃぎ過ぎです、ナオヤさん。

以上である。

入場時、実況アナウンサーが”殺気を感じます!”と言っていたが、
私は感じなかった。
それで言えば、ノニト・ドニアとの第2戦入場時の方がはるかに
”殺気”を感じた。
今日の入場の時のナオヤ・イノウエの表情は、これからケンカで
”タイマン”を張りに行く、という顔に私には見えた。
そこにあるのは冷えた”殺気”でなく、熱い”怒気”だと感じた。

第4Rだったか、両者がリング中央でノーガードで挑発し合うシーン
に重ねてアナウンサーが、”これはエンターテインメントだ!”と
言っており、試合後のホスト・トークで上田晋也氏も”すごい
エンターテインメントでしたね!”と言っていた。

”期待以上の試合を、この34年ぶり(ボクシング興行としては34年前
のタイソンが敗れたジェームス・ダグラスvsマイク・タイソン戦以来)
の東京ドームでおみせします”
と試合前にナオヤ選手は度々口にしていたという。

熱くなるのは観ている観客の側だけでいいとも思うが、試合をやる方
だってやっぱり熱が必要なのだと思う。
しかし、熱くなり過ぎると、やってるおもしろさも加味されて、
ボルテージだけがどんどん上がっていき、足元が見えなくなる。

1Rダウンした後は、その手前で冷静と情熱の間を保ちながら、
それでも波のような会場の歓声に煽られた熱気がその肉体から
飛び出したがっているのをギリギリ抑えている感じが、
ナオヤ選手の筋肉の躍動から伝わってくるようだった。
2Rダウンを奪って以降、接戦に見えながらもナオヤ選手が
圧倒していると感じた。

”今でもやっぱり、日本人が誰も辿り着けないであろう場所まで
来てるとは思うんですけど、全然満足していない。
今ここまで来ても満足していないから”
(ナオヤ・イノウエ試合前インタビュー)

皆の期待やこうしたロジックを掲げなければ保てないほど、
モチベーションが枯渇してきているのだろうか?
それとも私の熱が冷めてきているだけか?

もう十分だなどと思っているわけではない。
(十分以上の事をナオヤ選手は既に成し遂げているとは思うが)
これからもナオヤ選手はまだまだ戦い続けるだろう。
それは髪の毛一本分ほどの、瞬発力や筋力、気力の低下との戦い
になるような気がする。

発露するのは髪の毛一本分だが、一度それが発露してからは、
一本づつ徐々に低下していくといったエンターテインメント性
への配慮をボクシングという競技は持ち合わせていない。
一本分低下した事が現出した瞬間から、一気に瓦解していく。
そうして栄光の座から落ちていった偉大なチャンピオン達を
何人も知っている。

栄光のレベルが高いほど、落ちていくスピードと落ちた時の
落差を受け入れられず、栄光に包まれた頃の光を求めて、
何度もリングにカムバックしたチャンピオンが何人もいた。

それほどにボクシングという競技は、身もふたもないほど
あっけなく、戦う者から光を奪う。

ナオヤ・イノウエがそうした時を迎えるかどうかはわからない。
クレバーな彼はその時が来る前に、ひらりとその即物的なあっけ
なさから身をかわすかも知れない。
が、いずれにしろまだ遠い先の話だと思う。

”皆の期待以上の試合を・・・”
期待以上の試合をこれまでナオヤ・イノウエは魅せてきてくれた。
数多の戦いの中でナオヤ・イノウエは信じられないようなタイミング
のパンチやディフェンス、フェイント、想像もできないフットワーク
の動き、まばたく前に打ち終わるコンビネーション、
雷鳴のような瞬発力・・・を魅せてくれた。
それらこそが私にとって極上のエンターテインメントだった。

今後は多分、別の種類のエンターテインメントになっていくのだろう。
それでもその肉体から繰り出される動きは、これまで魅せてくれた
エンターテインメント性を宿しているだろう。
まだしばらくの間は。

今日は世界戦がナオヤ・イノウエの試合含め4つ行われた。
WBAフライ級王者のユーリ阿久井政悟選手は、マーヴィン・ハグラー
のような隙の無いファイト・スタイルで判定勝ち、初防衛を
成し遂げた。

最終ラウンド、挑戦者の桑原選手にボディを決め、たまらず桑原選手
がクリンチし、からくもダウンを逃れた時点であと2分近く残っていた。
クリンチをブレークした後、残り時間の間、ゴングが鳴るまで、それ以前
の11ラウンドを圧倒してきたユーリ選手は、ダメージを受けていた桑原選手のボディに一発もパンチを出していない・・・ように見えたが、
きっと私の勘違いだろう。

井上拓真選手も1Rダウンを奪われてから、それ以降相手を圧倒した内容で
頑張って判定勝ちした。
奇しくも今夜は兄弟で1Rダウンした夜だった。

驚くべきは武居由樹選手である。
あの古豪ジェイソン・マロニー(ナオヤ・イノウエがバンタム級時代の世界
タイトルマッチでナオヤ選手に7RKOで敗けている)相手に、判定勝ちで
デビュー後9戦目で世界チャンピオンになってしまった。
よく最終12R、マロニーの猛攻を耐え抜き、倒れなかったものだ。
スタミナ面は問題はないと思うが、あの最終ラウンドは
今後の課題だと思う。
それも含め、今後が楽しみである。

武居選手がチャンピオンになった事で、今夜、ナオヤ・イノウエが返上した
バンタム級の世界タイトルは、
4団体とも全て日本人がチャンピオン・ベルトを巻く、という
日本ボクシング史上類をみない状況となった。
こんな事、あるはずがない・・・と思えるほどだ。
いずれ統一戦が行われる事になるだろうが、それにしても
すごい事になった。

選手の皆さんお疲れ様でした。
素晴らしいファイトをありがとう。
ゆっくりお休み下さい。

(3分ジャスト)By Qeen / We are the Champion



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