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「ホームアドバンテージ」は存在するか?

します(記事終了)
そこまで本気で調べていないので調べ漏れは多分(というか間違いなく)あります

ホームアドバンテージとは何か

試合の実施場所を本拠地とするチーム(ホームチーム)では、そうでないチーム(アウェイチーム)に比べて種々の面で有利になる事象をホームアドバンテージhome advantageと呼ぶ。

これは厳密に科学的背景が明らかになっているわけではないものの、確かに存在するようである。
例えばある記事ではJリーグにおけるホーム/アウェイの勝率が調べられているが、ここではホームチームの勝率42.47%に対してアウェイチームの勝率は33.69%と低いことが示されている。

これはアウェイが不利になるのか、ホームが有利になるのかという両者の可能性が考えられるが、一般的にはその名の通りホームが有利になると考えられる傾向にある。

競技種や試合種別の影響

Jamieson et al. (2010)は、ホームアドバンテージに関してのmeta-analysisであるが、ここでは競技種や試合種別(レギュラーシーズンか、プレーオフか、など)、試合の実施年代などの種々の変数を考慮しながらホームアドバンテージの効果量が分析されている。
ここでは、まず全体としてホームチームにおいては統計的に有意に高い勝率を示すことが明らかになったことが特記される(95%CI: 0.590-0.618, 勝率については50%/50%を基準とするため0.5が基準値となる)。

これは様々な変数を考慮した上でも存在することが明らかになり、例えば個人競技か団体競技かという点はホームアドバンテージの大きさに影響しないとされている。
また、試合種別の点からは、レギュラーシーズンの試合よりもプレーオフ/チャンピオンシップの試合で特にアドバンテージが大きくなるという結果であった。

このように、その状況によって効果量の大きさに多少の差はあれ、ホームアドバンテージは明らかに存在する可能性が高い。


なぜホームアドバンテージが生じるのか?

生理・心理的要因

ホルモンバランスは心理的な影響を受けることが明らかになっている。
例えばテストステロン濃度は人がさらされているシチュエーションによって変化し、例えば競技前の状況ではその濃度は上昇し、競技終了後には勝利すると上昇するが敗北すると減少する、といった変化が生じる(Wood & Stanton, 2012)。

「置かれているシチュエーション」という点について、ホーム/アウェイの問題もかかわるようである。
例えばエリートホッケー選手を対象としたCarré et al. (2006)では、ホームの選手はアウェイの選手に比べてより高い自信と低い身体性&認知性不安であり、そして試合前のテストステロン濃度が有意に高かったことが示されている。

ホーム・アウェイ・練習というそれぞれのシチュエーションにおけるテストステロン濃度を示したグラフ。図はCarré et al. (2006)による。

テストステロン濃度の変化は、さらにその選手がスターターかどうかという点からも影響が生じる可能性がある。
ラグビーユニオンチームを対象としたCunniffeらの研究では、スターターにおいてはテストステロン濃度においてホーム/アウェイ間での有意な差は認められなかったが、非スターターではホームにおいてはテストステロン濃度がスターターと比べて有意に低かったことが示されている。

スターターに対して非スターターでは、ホーム戦におけるグループ間での有意差のほかにも、ホーム/アウェイ間での有意差も認められた。図はCunniffe et al. (2015)による。

これはホームでの試合とテストステロン濃度に直接的な関係があるというよりは、その他の複数の要因が交絡して生じる現象であると考えた方が良いと思われる。

ジャッジングの問題

ホームアドバンテージに寄与する要因のひとつとして、ホームチームに対して行われる審判のジャッジが挙げられている。
ここでは、審判の意思決定にクラウドノイズ(観客の声)が関係している可能性がある。

これについて、例えばUnkelbach & Memmert (2010)では、ドイツブンデスリーガの試合を対象に、ホームチームとアウェイチームに対するイエローカードの数が分析されている。
これによれば、1試合当たりのイエローカードを出された数自体にホーム/アウェイ間での有意差が認められたほか(1.89 vs. 2.35)、さらにこのイエローカードの差と観客の密度に相関的な関係が見られた。

このような、観衆によるある種の「社会的圧力」は審判の意思決定に影響を与える可能性があると考えられる。
2020年以降のパンデミック下では多くの試合が無観客になり、2020年シーズンとそれ以前のシーズンを比較することはこの点からの考察を深めることが出来るかもしれない。
例えばVandoni et al. (2022)では、セリエAとセリエBを対象として、2018−19シーズンと2020-21シーズンにおける得点率や反則の数などが比較されている。
ここでは、ホーム戦においては有観客のシーズン(すなわち18-19シーズン)と無観客のシーズン(20-21シーズン)の間で反則の平均数に有意差が認められたのに対して、アウェイ戦では観察されなかったという結果が示された。

このように、観客の存在が審判のジャッジに影響を与え、それがホームアドバンテージを生み出している可能性がある。一方で有意な差が認められないとする観察研究もあり(Gong, 2022など)、一貫した結果が認められるわけではない。

運動学習という観点から考えてみる

ホームでの試合において、ホームアドバンテージとして実際に選手のパフォーマンスが高まっているということはあるのだろうか?
答えは明らかではないが、しかし運動学習の観点ではそれを考える上でのポイントが存在している。
ここではMagill & Anderson (2016)を参考に、運動学習という観点からホームアドバンテージについて少し考えてみたい。

動作にまつわるコンテクストと学習の動態

動作スキルの構成要素や動作を行う上で付帯する文脈(コンテクスト)の類似性は、学習の転移という点で非常に重要になる。
これはオープンスキルにとってとりわけ重要なものであり、相手を「いなす」ための技能などを身につける場合、練習の段階から相手と対する形式の練習がより効果的ではないか、という考えと同じことを指している。

特に記憶という点においては、覚えるときと思い出すときのコンテクストやその手がかりが近ければ近いほど記憶のパフォーマンスは向上するとされ、これは符号化特定性原理と呼ばれる。
また、種々の研究から明らかにされていることとして、人は学習するように明示的に指示されたものよりも、課題に伴うコンテクストについてより多くのことを学ぶ、ということがある。

ホームアドバンテージとの関連?

例えば英単語を思い出すとき、正しく日本語と対応させるように引き出すのではなく、「単語帳のこの辺にあったやつ」という関係で思い出すという経験はおそらく誰しもあるだろう。

少し雑な例えではあるが、コンテクストの類似性とホームアドバンテージについて考える際にはこれと似たような現象が起きる可能性がある(実際は意識レベルで想起されないこともある)。

練習と同じ環境であれば、その環境は練習で行った要素を試合というシチュエーションにおいて適切に引き出す手がかりとなるかもしれない。
ホームアドバンテージがもしも審判や選手の心理生理学的要因のみならず、実際に技能的に高まることによって生じるとしたら、このような点が関与しているとも考えられる。

References

  • Carré J, Muir C, Belanger J, Putnam SK. Pre-competition hormonal and psychological levels of elite hockey players: relationship to the "home advantage". Physiol Behav. 2006;89(3):392-398. doi:10.1016/j.physbeh.2006.07.011

  • Cunniffe B, Morgan KA, Baker JS, Cardinale M, Davies B. Home Versus Away Competition: Effect on Psychophysiological Variables in Elite Rugby Union. Int J Sports Physiol Perform. 2015;10(6):687-694. doi:10.1123/ijspp.2014-0370

  • Gong H. The Effect of the Crowd on Home Bias: Evidence from NBA Games During the COVID-19 Pandemic. J Sports Econom. 2022;23(7):950-975. doi:10.1177/15270025211073337

  • Jamieson JP. The Home Field Advantage in Athletics; A Meta-Analysis. J Appl Soc Psychol. 2010;40(7):1819-1848. doi:10.1111/j.1559-1816.2010.00641.x

  • Magill RA, Anderson DI. Motor learning and control : concepts and applications. 11th edition. 2016. McGraw-Hill.

  • Unkelbach C, Memmert D. Crowd noise as a cue in referee decisions contributes to the home advantage. J Sport Exerc Psychol. 2010;32(4):483-498. doi:10.1123/jsep.32.4.483

  • Vandoni M, Ferraro OE, Gatti A, et al. The Role of Crowd Support on Home Advantage during COVID-19 Restrictions on Italian Football Competitions. Comparison between 2018-19 and 2020-21 Seasons of the Italian Serie A and Serie B Championships. Sports (Basel). 2022;10(2):17. Published 2022 Jan 30. doi:10.3390/sports10020017

  • Wood RI, Stanton SJ. Testosterone and sport: current perspectives. Horm Behav. 2012;61(1):147-155. doi:10.1016/j.yhbeh.2011.09.010

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