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『SAKURAドロップス』宇多田ヒカル


【私の音楽履歴書】 # 17  宇多田ヒカル

98年年末に、衝撃的な出来事が起こった。宇多田ヒカルの登場である。
翌99年初頭にかけての一大ムーブメントの始まりに、私だけでなく多くの人はこれで日本の音楽シーンは大きく変貌するだろうと思った。
R&Bを基調にした独自の音楽を自ら作り出し、バイリンガルでありながら、日本語の特質も把握しているというニューヨーク生まれの15歳に誰しも驚いた。
そしてさらに驚いたのは、彼女の母親は藤圭子だということ。演歌を怨歌と言わしめ、日本語でのブルースの本質に迫る解釈をしてきた歌手だ。その人のDNAを受け継いでいるという「さもありなん…」の表現力には舌を巻いたどころのものではなかった。

今回は、そんな彼女の歩みを私なりに振り返ってみたい。

先日、広島に行く機会があり、所用の合間に広島県立美術館に立ち寄った。『皇室の美と広島』と題された企画展で、伊藤若冲の「旭日鳳凰図」を観るためである。
三の丸尚蔵館所有の作品群は圧倒的だった。
さて伊藤若冲といえば「動植綵絵」を始めとして21世紀に入り一大ブームを呼び起こした画家だ。その若冲の作品にジョー・プライスコレクションの一つとして「鳥獣花木図屏風」がある。
それをモチーフにしたMVが、宇多田ヒカルの「SAKURAドロップス」だった。MVそのものはそれを上手く消化しきれていなかったのでは...と思わなくもないが、とても印象的な作品で、とても好きな楽曲だ。

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それでは私にとっての代表的な10作品をあげてみたい。

「Automatic」(98.12/9)
とにかく衝撃的だったとしか言い様がない。何故か後輩の結婚式の二次会で歌った…

「First Love」(99.4/28)
 決してAutomaticだけじゃないアルバムの作品度の高さ!当時いきつけのスナックでよく熱唱していたなぁ〜(こんなんばっかりw)

「SAKURAドロップス」(02.5/9)
その後パートナーとなる紀里谷和明がMVを手掛ける。タイトルはサクマドロップスと掛けているとも言われていた。全編に流れるシンセサイザーのリフが散る桜を想起させる。美しい。

「COLORS」(03.1/29)
「頑張れなんて簡単に言うなよ…」時々憤慨に近い感情を抱く場面がある。しかし誰かに励ましても欲しい。人とはなんて勝手なものか〜
宇多田ヒカルの歌の上手さに加えての、手の差し伸べ方のかっこよさよ。

 「Beautiful World」(07.8/29)
『エヴァンゲリオン新劇場版 序』のテーマ曲。
余談だが、私はガンダムにしてもエヴァにしてもTV版のファーストしか認めない原理主義者ではある。ただ、いいものはいいと評価する柔軟性は持ち合わせたい。


「Prisoner Of Love」(08.5/21)
打ち込みが印象的。そしてサビのリズムが心地いい。ラストの“Stay with me”のリフのカッコよさよ…発音!

「Goodbye Happiness」(10.11/10)
 いわゆる「人間活動」宣言で音楽活動休止に入る前の作品。Automaticなどのセルフパロディめいた内容もあり、映像はとても楽しい作品。特にサビのメロディーラインが秀逸。いい。

「道」(16.9/16)
有名な飲料水CMに使われてはいたが、その商品イメージに反してかなり深遠なリリックではある。亡き母に捧げる彼女なりのレクイエムか...

私の心の中にはあなたがいる
いつ如何なる時もどこへ続くかまだ分からぬ道でも
きっとそこにあなたがいる

「真夏の通り雨」(16.9/16)
 後悔のない人生なぞあるものか。そう自分自身のことは自己で完結させるべきこと。しかし、愛しき人との関わりは後から思うことばかり…
アルバム『Fantome』は傑作だ。そして、この曲は美しくも儚い…
忘れる必要もなく、乗り越える必要もない…
ただ自分の存在を知るのみ…

「One Last Kiss」(21.3/9)
これもエヴァ劇場版第4作目の劇中歌。
日本語によるポップスの一つの大いなる到達点。宇多田ヒカルでしかなし得ないであろうことを、宇多田ヒカル自身が実証した名曲中の名曲。




母の死がもたらした「自己確認」「他者との関係性」といったテーマにより、近年、文学作品からの研鑽からか彼女自身が持つ日本語による表現の深化をもたらしている。
決して気位が高いアーティスト然とした姿勢で世間に向かうのではなく「今の、素の、等身大の、そのままの宇多田ヒカル」を音楽を介在にして表現してきた。
そこが素晴らしい。
これからも、彼女が思うままに、彼女の思うままに、素晴らしい作品を提供してくれるに違いない。


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