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松任谷由実〜My Selection 2022

【私の音楽履歴書】 #16  松任谷由実 ②

ユーミンこと松任谷由実が今年デビュー50周年を迎えた。今、メディアでは彼女を取り上げる機会が多くなっている。記念のベストアルバムも発売され、それがYoutubeでも公開されている。何とも大盤振る舞いである。
その姿勢に敬意をはらうと共に、輝かしい活動実績と業界に与えた功績はあらためて偉大なものだと認識する。
さて、そこでこの期に、今現在の私にとってのユーミンベスト30 を選んでみることにした。

人間五十年、下天のうちを比ぶれば〜「敦盛」の一節を引き合いに出した処でも、やはり人の人生で半世紀はやはり大きい。ユーミンのアルバムタイトルに『REINCARNATION』(輪廻) というのがあるにせよ…
それはそれとして、私にとってのユーミンの世界は、その前半25年がメインである。時代の先駆者として音楽シーンのみならず世のムーブメントの一環を担って来たとも言える80年代から、いつの頃からか、コマーシャリズムとメディアとの距離感に重きを置く形になったのは、ある意味当然の帰結といえるだろう。
実際、私が彼女のアルバムをきっちり聴いてきたのは、94年の『THE DANCING SUN』までだ。それ以降は断片的に聴く程度で今ならサブスクで追いかける位である。その『THE DANCING SUN』にも収められている「Hello,my friend」までが“私にとってのユーミン”ということになる。
更に言えば83年の『VOYAGER』までがアルバム作品全体として熱心に聴いていた頃で、84年の『NO SIDE』はラクビーブームに乗っかった形で話題性が先行して少し興ざめした部分もなきにしもあらず…の記憶がある。その頃から「ブームの担い手」の役割を過剰に背負わされた形になって、それが主体となることに、私は逆に不満に思えてしまい、彼女の音楽そのものも聴く姿勢が弱くなりながら段々疎遠になっていった。
また、荒井由実時代のデビュー当初からのサポートメンバー〈ティン・パン・アレー〉(細野晴臣·鈴木茂·林立夫·松任谷正隆) の存在が非常に大きかった。松任谷正隆は彼女のプロデューサー、そして公私共にのパートナーとなっていくのだから別にして、ギターの鈴木茂が私にとってはキープレーヤーであった。敢えて30曲内に取り上げなかった「やさしさに包まれたなら」「卒業写真」「中央フリーウェイ」「DESTINY」のプレイをはじめ、唸り続けさせられるものばかりである。そして80年代前後から、松原正樹(2016年に逝去)が参加するようになって、鈴木の参加機会も段々減って来たことが、彼女の作品への興味が薄れて行く一因であったともいえる。
もちろん松原のギタープレイも素晴らしいものだ。シティポップ再注目の先駆けとなった、松原みきの「真夜中のドア」や、ユーミンの82年『PEARL PIERCE』の「真珠のピアス」イントロのカッティングギターなど名演は数知れずである。しかし、鈴木茂を贔屓にしている身としては、いささか面白くない。どんな事情があるにせよ…
その『PEARL PIERCE』が、私が初めて買ったユーミンのアルバムであり、そこから遡って過去の作品を聴き、そして、そこから時と共に聴いてきた。

さて、それでは30曲を発売時期順に挙げてみよう。

1. 空と海の輝きに向けて
 初期ユーミンの名曲。瑞々しい煌めきが可能性を感じさせる。

2. ベルベットイースター
 最初は、よく意味がくみ取れない表現も彼女の魅力。ミッション系の学校で学んだからか、イースターなんて言葉は大多数の日本人には中々出て来ない。独特の湿っぽさが心に残る。

3. 雨の街を
 夜明けの雨をミルク色、ブドウ色と語る色彩感覚。昔とあるラジオ番組で街頭のカップルがユーミンのレパートリーからこの曲を選んで唄っていたのが記憶に残り印象的だった。

4. 私のフランソワーズ
 時にフレンチシックな香りを漂わせる作品の一つ。フランソワーズ・アルディをこの曲で知る。 

5. 生まれた街で 
 アルバムMISSLIMのオープニング曲。ティン・パン・アレーの演奏が素晴らしい。加えてSugar Babe (山下達郎·大貫妙子ら) 吉田美奈子のコーラスが際立っている。清々しい名曲。  

6. COBALT HOUR 
  SHONAN BOY YOKOSUKA GIRL〜鈴木茂のスライドギターが炸裂する。

7. あの日にかえりたい 
 ボサノヴァとはこういう音楽のことなんだ…と知った私にとってのユーミンベスト1の楽曲。“光る風 草の波間をかけぬける わたしが見える”
これがとても好きなフレーズだ。

8. 晩夏(ひとりの季節) 
 竹内まりやが美大出身のユーミンにしか書けない曲と絶賛したとか。「雨の街を」同様、色彩感覚を言葉にのせる上手さに才能を感じる。

9. 潮風にちぎれて
 ユーミンの詞の特徴でもある「強がりソング」の一つ。女性の立場からではあるが、男性視点でも受け取れる「松任谷由実」として再出発した初のシングル。

10. 埠頭を渡る風 
 コンサートでは必ず盛り上がる一曲。
“もうこれ以上もうこれ以上やさしくなんてしなくていいのよ”
このメロディーが素晴らし過ぎる。この曲を収めたアルバム『流線型'80』は傑作。

11. 静かなまぼろし 
 沢田研二に提供した作品。この曲の主人公は男か女かの論争が一時期あり、女性であると疑わなかった自分には「人によって受け止め方は様々なんだ」と知った楽曲。
“昔のことを懐かしく思うのは今の自分が幸せだからこそ”
これが自分には未だにわからないが…

12. 未来は霧の中に 
 アポロ11号の月面着陸を取り入れた一曲。「ジャコビニ彗星の日」と並び、時代のエポックを日常風景に落とし込むユーミン独特の上手さ。

13. りんごのにおいと風の国 
  アルバム『OLIVE』の何とも、もの悲しいラスト曲。ハロウィンをこの当時から取り上げているのは、米軍基地などで日本でのアメリカとの接点を持ってきた彼女だからこその先見性。アルバムのラストに彼女ならではのメッセージ、世界観を持ってくる作風が好きだ。

14.  ジャコビニ彗星の日
  ♬72年10月9日


15. 影になって 
 この曲も歌詞が深くて解釈が幾通りにも分かれている作品。
“昔たしかにどこかで出会った一枚のネガ”
記憶の断片に今の自分を投影するということか…

16. 悲しいほどお天気 
 日常の風景を切り取る表現が特徴の彼女の詞だが、実体験をそのまま作品に起こしているわけでもないらしい。あくまでベースのモチーフとして。
この曲を聴くと多摩美時代に玉川上水で絵を描いていた時のことなんだ…と当然思わせる曲だ。懐かしく、ほろ苦さも含んだ、とても好きな楽曲だ。

17. 人魚になりたい
 転調がユーミンの作品の大きなポイント。サビのコード進行が彼女らしい。

18. タワーサイドメモリー 
 神戸のポートピアを題材にした楽曲。“KOBE GIRL”のリフが特徴的。

19. A HAPPY NEW YEAR 
 ホイチョイ・プロダクションズの映画『私をスキーに連れてって』の挿入歌となった楽曲。あの映画のワンシーンと、とてもマッチした取り上げ方だったが、冬の寒い夜に思いを通わせ合う、どのカップルにも似合ってしまう名曲だ。松任谷正隆のピアノ(キーボード) が印象的。

20. 真珠のピアス 
 前述した松原正樹のカッティングギターをはじめ秀逸のアレンジ。
「女の怖さ」として語られる片方のピアスをベッドの下に…というのは狙いすぎの感があって、当時の私にはそれほどでもなかったけどね。今、ここを喜々として語るのは所詮ニワカだな…と思っている。

21. DANG DANG 
 土用の波がテーマ。段々と押し寄せる波を、勢いで押し切る様なメロディー。松原正樹のギターソロが力強い。

22. 忘れないでね 
 「真珠のピアス」より、むしろこちらの方が怖いと思わせた、今でいう処のストーカーソング。鈴木茂のギターが絶品。アウトロの松任谷正隆のキーボードにも耳を傾けてしまう。

23. NIGHT WALKER
 これもギターが何とも印象的な楽曲。
“ペイヴメントは夜更けの通り雨”
まさに泣きの一曲だ。
後半、鈴木茂のギターソロが出色。

24. 心のまま
 当時話題になった女性だけの太平洋横断挑戦のヨットクルーをテーマにした楽曲。イントロから引き込まれる。
“私が見た雲は馬のかたち あなた何に見えた?言葉にしてる間にちぎれていく それは愛に似てる”
ユーミン節全開だ。

25. 経る時
 私の音楽履歴書#2で取り上げた楽曲。私にとっても思い入れの強い曲。

26. TYPHOON
 清水ミチコいわく転調が素晴らしい楽曲。小林麻美もカバーしているだけに、白いシーツのイメージが殊更に強い。

27. 私を忘れる頃
 長崎の稲佐山が舞台といわれている。今井美樹のユーミンカバーアルバムでラストにこの曲をもってきているのには、センスを感じる。
「青春のリグレット」にもいえるこの別れ方は、男にはどうにもやるせなく切ないものだ。ある種の女の「狡さ」を感じる展開。
やがて霞んで視界から消えていくテールランプのイメージが強く残る。

28. 3-Dのクリスマスカード
 少しホッコリする冬の唄だ。
“空がシュガーをふるいにかけている”
いい表現。

29. 霧雨で見えない
 かつて松任谷正隆がプロデュースした麗美に提供していた作品のセルフカバー。正直に言えば麗美の方が情感はある。しかしそんな思いも越える名曲である。

30. Hello,my friend
 この曲も転調がポイント。
“僕が生き急ぐ時には そっとたしなめておくれよ”
このフレーズが全てとも言える。


あくまで現時点での30曲であり、日が変われば選曲も変わるだろう。また50曲でも100曲でもリストは作れる彼女の作品の質の高さは今さら言うまでもない。

彼女は最近(時代の)半歩先を意識していると言っていた記憶があるが、私は、ことさら時代の寵児とかの言葉で持て囃されるのにはずっと違和感を憶えていた。何とも一面的な見方であることよ…と。
彼女のベースにあるのはある意味日本的で普遍的な世界観、人生観であると思っている。諸行無常とか不易流行といったものである。
表現方法が誰もがやってこなかったアプローチであるだけに斬新にみえるが、そこに留まっていないのがユーミンの凄さだと思う。
ただ敢えて言えば、生涯現役を強調する姿は頼もしいが、今の彼女の作品は私にはそれほど響かないのも事実。それを飲み込んだ上で、彼女の今後の活動を注視したいと思っている。

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