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ダンス×人形劇『エリサと白鳥の王子たち』/ニッセイ名作シリーズ【クローズド公演】

こんにちは!note更新担当のたぬ子です。

今回は、2023年2月9日に愛媛県県民文化会館で上演された、ニッセイ名作シリーズ『エリサと白鳥の王子たち』の振付を担当された、愛媛県出身の広崎うらんさんに、お話を伺いました。

2021年2月に、うらんさん演出・振付の『ひなたと月の姫』を上演いただく予定でしたが、新型コロナウイルスの影響により、残念ながら中止…。
一昨年度公演を予定していた作品とは異なりますが、うらんさんの「自分の仕事を、地元・愛媛の子たちに観てもらいたい!」という熱い想いが叶い、愛媛県での公演が実現しました。

なお、当公演は愛媛県内の小学校を無料招待したクローズド公演となっております。

ダンサーだからこそ、表現できること

写真提供:広崎うらん

ー 『エリサと白鳥の王子たち』という作品の振付けはどのように取り組まれましたか。

 この物語はアンデルセンの童話『野の白鳥』を元に作られています。
 魔女に呪いをかけられた11人の王子たちは白鳥の姿になり、太陽が沈む間だけは人間に戻ることができるという物語なんですけれども。
 末っ子のエリサは、お兄さんたちの呪いを解くために「呪いを解くことができるまでは、絶対に口をきいてはいけない」という過酷な条件を受け入れるのです。
 そんな彼女とお兄さんたちが、どうコミュニケーションをとっていくかというところを、一番考えました。
 ダンスと演劇を合わせながらミュージカルではない、もう少しフィジカルな方向で白鳥を表現できないかと。

 例えば、幼い頃の王子たちは人形で表現するんですが、ダンサーたちが人形を操るので、舞台上の王子たちは全てが自分自身なんです。
 それを違和感なくやるにはどうしたらいいのだろうと、ダンサーたちからも提案がありましたし、深掘りをすると、もっともっとおもしろく表現できるんじゃないかと思い、今回は再演ということもありかなり探りました。
 人形の操作方法は、人形劇団のひとみ座さんに教えていただくのですが、ひとみ座さんたちのプロフェッショナルとはまた違った、ダンサーだからこそできることがあるだろうと、みんなでたくさん実験しました。
 実験していると、どんどんいろんな方向に進んで行っちゃって、最終的には最初の案に戻ることもあるんですが(笑)
 このプロセスが大事!

その時その時を大切に生きる

ー 14歳の時に初めて振付をされた”革命的フォークダンス”とは、どういうものだったんでしょうか。

 ちっちゃい頃から、映画のプロム(学校の卒業ダンスパーティー)や舞踏会という人生の喜びの中で踊るダンスに興味があって。でも、どこを探してもそのようなものが周りに見当たらない。
 中学校の運動会でフォークダンスを踊ることになりましたが、みんなが恥ずかしそうに嫌そうに踊っているのが、なんだか嫌で。
 だから、もっとかっこいい曲で、もっと楽しいペアダンスを作ったら、みんな楽しく踊れんじゃないかと思って「先生、僕に振付けさせてください!」ってお願いして、振付させてもらったんです。
 みんなが楽しそうに踊っている姿を見て「そうそう、こんな風にみんなに楽しく踊ってもらいたかったんだよな」と思いました。
 でも、その気持ちがどこから湧き出てくるのか、当時の僕は分からなかったんです。だけど、ウィーンの舞踏会で踊った時に「あ!これだ!こういう場所を求めてたんだ!」と思った(笑)
 幸せ~な顔して踊っている人たちの中で踊るのが、本当に嬉しくって「ここに来たかったんだな。探していたのはここか」と、深く感じました。

ー ”革命的フォークダンス”はその後の人生に大きく影響しましたか。

 そうですね。3歳の時に”踊る喜び”を知ってからずっと踊ってましたが、めちゃくちゃヘタクソで(笑)
 並行して絵画や漫画を描いてたこともあり、夢としては「最年少で漫画家になり映画化して監督して、ちょっと出演する」でした。
 フィールドはキャンパスかケント紙の中か、フィルムの中だと思ってましたが、革命的フォークダンスで”振付”ということを初めてやってみて、自分のイメージを他者に表現してもらう経験ができました。
 僕は、自分の世界を素晴らしいアーティストたちと創造する、全て自腹のプロデュース公演を30年近くやっているのですが、「自分の見たい世界を自分で創る」その大きなきっかけになったと思います。
 それが今の仕事に繋がっているとも。

 僕、ちっちゃい時からいつ死ぬか分からないと思って生きてるんです。
 だから、その時その時をちゃんと大切に生きていこうと、やりたいことはなんでもやっていました。
 小学生の時には「中学・高校時代にしかできないことを、全部楽しもう!」と思っていました。
 とにかく学生時代というものはあっという間だから「その時にしかできないことを、全力でやろう」と思っていました。

 “全力”って言っても例えば、テスト期間中で部活がなく天気がいい日だと、僕はもう天気をエンジョイしたい。
 こんな天気は二度と来ないかもしれないと思い、部活がない時間にお天気を満喫しながらゆっくり帰宅して、うちでのんびりしているとお母さんに「テスト期間中でしょ」って怒られる。
 でも僕は「お母さん、こんなにいい天気を満喫することの方が、僕には大事なんだよ」って、返していましたね(笑)

演出家の世界を、より豊かにするのが振付師

ー ご自身が演出する作品と、他の方が演出される作品では、作品への向かい合い方など違ってきますか。

 それは、全然違います。”作品”は、演出家の世界が全てです。
 どういう世界でどう物語を描きたいか、それを舞台美術や衣装、音楽でどう表現したいのか、演出家が一つ一つ決めます。
 同じ物語でも演出家によってアプローチが全然違うので、世界はいかようにでもなります。

 振付師は、演出家の意図をどれだけ汲めるかが仕事なので、僕がどうしたいかではなく、演出家がどうしたいか。演出家が描いている世界に一番フィットする、いえ、それ以上の動きを提案するのが役割です。
 演出家のやりたい世界を更に良くするために、どんな提案ができるかということに命懸けてるんです。それが、僕たちの必殺仕事人的な仕事のやり方ですね(笑)
 なおかつ優れたダンサーたちは、振付や動きがいくらでも膨らんじゃうので、彼らの提案が演出家にとって求めてる方向性かどうかをジャッジして、それをいかに物語に沿わせていくか、創りたい世界観に合わせていくかということも、僕の役割です。

ー いろんな人の力が合わさって、この作品ができているんだなと感じます。

 そうですね。舞台作品というのはどれもそうです。見えていないところで本当にいろんな人のたくさんの協力があって、できあがっているんです。

子どもにだからこそ真剣に向き合う

ー 作品づくりで大切にされていることはありますか。

 僕は小さい頃から、子ども扱いされるのがめっちゃくちゃ嫌だったんです。
 幼稚園の頃から、少女コミックや別冊マーガレットとか読んで、ドラマティックな物語の世界に酔いしれ、小学1年生の時には『小学2年生』を読んでました。
 だから、小学校の鑑賞会で観た舞台の幼稚な感じみたいなのが、耐えられなかった(笑)
 そういう子ども扱いするような作品づくりをしたくなくて、子どもにだからこそ真剣に向き合っていきたいと常に思っています。

自分の感覚で観て、感じて、拾って

写真提供:ニッセイ文化振興財団 撮影:三枝近志

ー 『エリサと白鳥の王子たち』に込めた想いを教えてください。

 今回の公演は、子どもたちに人間の尊さや愛、逞しさ、美しさって何だということを感じてもらえる作品になっています。
 「これでよかったね」ということではなくて、悪いことも、卑怯なことも、人間の怖い部分も含めて、そんな世界をどう自分が感じ取るかってことを大事にしてもらえたらいいなと思っています。
 だから、観た人によって感じ方が違って当然だし、観る時期もあるし、それぞれが自信を持って自分の感覚で観てほしい。

 今回のような学校招待の公演は、僕たちがひょいっと投げる想いの種を、子どもたちにそっと植えられる有難い機会だと思っています。
 子ども騙しではなく、子どもだからこそ、僕たちが伝えたい想いが何なのかが問われるので、僕たちにとってもかけがえのない真剣勝負の場なのです


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