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ポキールを覚えている

≪ポキールを覚えている≫

人間ドックの便潜血検査では2回分の検体が必要である。3日以上は冷蔵庫に入れてくださいとある。三重四重にして野菜室に入れた。翌日、すっかり忘れ、「あれ、3日前のほうれん草かしら」と思い、取り出してから思い出したときの不愉快な気持ち。保存液の改良とか何とかならないものか。そもそも検体を採取するときの、おおげさな慎重さと、していることの滑稽さが相容れない。
小学生のころ、蟯虫検査でポキールというのがあった。青いセロハンテープみたいなものを肛門にあて、くっついた寄生虫卵を見つけようというやつ。あの屈辱的検査は半世紀以上たっても名前を忘れられない。衛生状態がよくなり2016年には学校健診からはずれたらしいが、つい最近までやっていたのだなと思う。
ポキール前は小さなマッチ箱に便を入れて持参した。当日便が出ず、困って愛犬の便を持参した輩がいて、たくさんの虫卵にちょっとした騒ぎになったことがあった。徳用マッチ箱に大量の検体を持参した豪傑もいたらしい。

≪寄生虫実習≫

大学で寄生虫実習の時間があった。自分の便を持参し、顕微鏡で観察する。自分の便を見ているという気恥ずかしさで、いつもより饒舌で同級生の顕微鏡を覗いたりしている。
実習担当の教官が、席を離れた学生のプレパラートを、こっそり住血吸虫卵のプレパラートに変えた。蟯虫どころではないたちの悪いやつだ。私は一部始終を目撃していた。
上機嫌で帰ってきた学生は自分の顕微鏡を覗いて、しばらくし、不安そうにきょろきょろするが、また覗き込み、決して席を離れず、一言も発しなくなった。頭の中は「やべー、教科書で見たやつだ、まさか、でも、やべー」というところか。
こんな時、すぐ実習担当の先生に相談する学生はまずいないらしい。その状況を受け入れられず、必死に平静を装い、同級生の誰にも知られてはならないと決意する。実習担当教官は、その様子があまりに哀れで、すぐ教えてあげることが多いという。


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