児童精神科医の気になる論文:抗うつ薬が軽症のコロナの重症化予防に??
驚きの論文が出てきました。よもや、よもやである。
コロナに抗うつ薬が効果ある??
Lenze, E. J., Mattar, C., Zorumski, C. F., Stevens, A., Schweiger, J., Nicol, G. E., Miller, J. P., Yang, L., Yingling, M., Avidan, M. S., & Reiersen, A. M. (2020). Fluvoxamine vs Placebo and Clinical Deterioration in Outpatients With Symptomatic COVID-19: A Randomized Clinical Trial. Jama, 63110, 1–9. https://doi.org/10.1001/jama.2020.22760
この論文の目の付け所は、フルボキサミンがσ1受容体アゴニストである選択的セロトニン再取り込み阻害薬(SSRI)であることでしょう。
フルボキサミンは、σ1受容体を刺激する作用を持ちます。
このσ1受容体の働きは、サイトカインの産生を調節することと指摘しており、その抗炎症効果が期待される。この仕組みを理解した上で、この研究は軽症のCOVID-19患者に対する同薬投与により、重症化が抑制できるかどうかを調べています。
COVID-19患者152例を対象とした二重盲検プラセボ対照ランダム化比較試験(RCT)による研究を実施しています。あくまで予備研究です。
対象
・ミズーリ州とイリノイ州
・成人 軽症外来患者152例(7日以内に症状を発現)
・2020年4月10日から8月5日にCOVID-19への感染が確認
・酸素飽和度が92%以上
・フルボキサミン群(80例、100mgを1日3回、15日間服用)VSプラセボ群(72例)。
評価項目
臨床的悪化(電話/インターネットで症状確認)
・呼吸困難や肺炎による入院
・SPO2<92%(Room Air) or 酸素必要
フルボキサミン投与の結果は?
80例中で臨床的悪化は認められなかった。
平均年齢:46±13歳
女性:72%
152例中115例(76%)試験終了
15日後に臨床的悪化を示した症例
・フルボキサミン群:0例 VS プラセボ群:6例(8.3%)(95%CI 1.8〜16.4%、P=0.009)。
・深刻な有害事象
・フルボキサミン群:1例 VS プラセボ群:6例
・プラセボ群では肺炎および消化器症状の頻度が高い。
自宅療養中の重症化を防ぐ可能性
この論文の臨床的な意義としては、わが国でも導入されている自宅安静での重症化の予防に役立つかもしれないということでしょう。重症化して病院に入院する、すなわち医療の逼迫を予防する効果が期待されるかもしれません。
しかしながら、この研究はN数が少なく、追跡期間も短いことから、更なる大規模調査が期待されることになるでしょう。成人以外の子どもはどうなのか? 人種による違いは?など色々と疑問を感じる次第です。
児童精神科医としては抗うつ薬は・・・
ところで、SSRIは抗うつ薬に分類されます。24歳未満の大うつ病への抗うつ薬の投与は、アクチベーションシンドロームを誘発する可能性が高く、その投与は慎重投与となっています。
子どもへの安易な投与は控えるべきでしょうし、新型コロナウイルス感染症への予防投与もまだまだ研究の段階と言えるでしょう。