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なぜショートボブは王道なのか


アメリカの数学者バーコフは美しさを数式で計算しようと考えました。バーコフは「M=0/C」という式に秩序が大きいほど、複雑さが減少するほど, 美しさは増すということを示しました。これはより単純で、まとまりのあるものが美しいという概念式だと考えられます。

小顔効果

ショートボブのようなサイドのふくらみがあるヘアスタイルは「線分の長さの対比錯視」を応用して小顔に見せる効果があり、顎や首を細く見せています。顔のパーツの配置とは関係なく顔が髪で遮蔽されるほど顔幅が小さく知覚されるという調査もあります。

 また、縦線で分割された長方形のほうが、より細長く見えるという「バイカラー錯視」という効果もあります。サイドの髪で顔幅を3つ縦線で分割された顔は、縦ラインが強調されることで顔を細く見せる小顔効果が期待できます。
 さらに、後頭部から首にかけての「くびれ」を髪の毛で隠してしまうと、特に横から見た場合に頭が大きく見えると言われています。

最強モテカワ要素

 オーストリア出身の動物行動学者ローレンツは、「ベビースキーマ」という概念を提唱しました。生物にはそれぞれ特定の行動を引き起こす「鍵刺激」があると考えられており、人間における鍵刺激の例として挙げられるものがベビースキーマです。

 ベビースキーマとして身体に比べて大きな頭、前に張り出た広い額、顔の中央よりやや下に位置する大きな眼、短くてふとい四肢、全体に丸みのある体型、やわらかい体表面、丸みをもつ頬、不器用な(ぎこちない) 動きといった要素があります。

 ローレンツによれば、対象が生き物かどうかにはかかわりなく、このような要素をもつものを人間は無条件でかわいいと感じる仕組みを持っているということです。

 べビースキーマを増強させるには、顔の横幅を広くする(丸くする)、目の横幅を広くする、口の横幅を狭くするなどが有効であり、これらはショートボブのスタイルで補えると考えられます。

機能美

 日本では第2次世界大戦直前に広まった、簡素で機能的なデザインが美しいと評価されるようになりました。機能美への感受性は知識や経験によって変わるようです。たとえば建築や土木の専門家は知識を豊富に持つことで、簡素な建築物の美しさをより強く感じられるようになると言われています。

 ショートボブは女性のヘアスタイルでは非常にシンプルであり、機能美を感じられるものの一つと考えられます。美容師や理容師などの職業の方だけでなく、毎日ヘアセットをし、自分のヘアスタイルに悩む女性も髪の専門家と考えられるため、このことも人気である理由の一つではないでしょうか。

考察

 私は髪型はその人の印象を決めるのに重要であり、ショートボブが多くの人に好まれるヘアスタイルだと思います。人の心理に働きかける造形は美しいといえるかもしれません。

 しかし、美しさや好ましさを判断するときにバーコフが作り出したような公式を用いることは難しいと考えます。外見的な評価は、評価をする人の状態や経験、環境などに左右され、美的評価も単純な美しさ以外に好き嫌い、面白さ、心地よさなど様々な種類があるからです。

 有名な研究に「平均顔は多くの人にとって魅力的である」というものがありますが、特定の人物に好かれようとするなら平均や王道を目指すべきではないのかもしれません。


参考文献

森川和則. "2-1 化粧による顔の心理効果~ 顔錯視研究の観点から~." 映像情報メディア学会誌 69.11 (2015): 842-847

金子智栄子, 門脇幹雄. "外見の印象--髪型が性格のイメージに及ぼす影響." 文京学院大学研究紀要 3.1 (2001): 1-11

奥村和枝,  森川和則. "髪型の小顔効果は本当? 顔輪郭の遮蔽が顔の形状知覚に及ぼす影響." (2010): 177

森川和則. "顔と身体に関連する形状と大きさの錯視研究の新展開―化粧錯視と服装錯視―." 心理学評論 55.3 (2012): 348-361

三浦佳世, 河原純一郎編著「美しさと魅力の心理 」ミネルヴァ書房(2019)201p


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