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家族性高コレステロール血症の大規模研究

家族性高コレステロール血症とは・・・

コレステロールの値が高くなる遺伝性疾患である。両方の遺伝子のいずれにも変異を認める「ホモ接合体」は極めて稀であるが、LDLコレステロール値の上昇と若年性のアテローム性動脈硬化性血管疾患を引き起こす。
日本では患者さんが少ないとされ、情報が限られていたが、この研究で大規模なデータをもとに患者の予後について研究されている。オランダ、米国、南アフリカの医師による論文をもとに紹介する。

参考文献 Tromp, TR et al. Lancet January 28, 2022

Worldwide experience of homozygous familial hypercholesterolaemia: retrospective cohort study

試験登録:https://clinicaltrials.gov/ct2/show/NCT04815005

写真は 「写真AC」さんから

研究の概要:

38か国、751人が含まれ、565人にホモ接合体を認めた。
診断年齢の中央値:12.0歳
男女差:女性389人(52%)、男性362人(48%)。全体が751人。
人種:アジア人121人(23%)、白人338人(64%)、黒人68人(13%)
診断時の既往:心血管疾患や大動脈弁狭窄が65人(9%)
診断時のLDL値:14.7mmol/L;11.6-18.4mmol/L(=568.4mg/dl;448.5~711.5mg/dl)
エゼチミブ投与:342人/534人(64%)
リポタンパク質アフェレーシス施行:243人/621人(39%)
治療後のLDL値:3.93mmol/L = 151.9mg/dl
心イベント発症年齢中央値:高所得者国37.0歳、非高所得者国 24.5歳

心イベントをもっと詳しく

1.心血管死
高所得国 2.5%、そうでない国 5.1%
年齢 高所得国 49.5歳 そうでない国 24.0歳
2.心筋梗塞
高所得国 11.9% そうでない国 11.9%
初発年齢 高所得国 39.5歳 そうでない国 32.5歳
3.狭心症
高所得国 15.6% そうでない国 9.0%
初発年齢 高所得国 32.0歳 そうでない国 24.0歳
4.大動脈弁置換術
高所得国 8.9% そうでない国 4.5%
治療を受けた年齢 高所得国 31.5歳 そうでない国 30.0歳
5.末梢動脈疾患
高所得国 2.4% そうでない国 9.8%
診断年齢 高所得国 51.0歳 そうでない国 21.0歳
6.脳血管疾患
高所得国 4.5% そうでない国 1.1%
診断年齢 高所得国 38.0歳 そうでない国 28.5歳

心イベントの発生率の差(カプラン・マイヤー)

1.高所得国の方がリスクが低い
2.LDL を4.9-12.5mmol/Lに抑えられているグループ(Lowest group)はリスクが低い
3.女性の方がリスクが低い
4.遺伝子検査を受けた群の方がリスクが低い

この研究で分かったこと

1.家族性高コレステロール血症の中でも重篤な表現型を取る、ホモ接合型の場合、かなり若年で診断され、また心イベントの発症年齢も早いことが分かった。
2.ただしこのタイプは極めてまれであり、30万人に一人と考えられ、日本では370人程度と推定される。
3.高所得国とそうでない国とで、心イベントの発症年齢が10年以上異なる。診断早期に十分な加療が必要ということが考えられる。
4.LDL値の中央値は14.7mmol/L(568mg/dl)と極めて高値であり、採血によって容易に疑うことの出来る疾患である。
5.家族性高コレステロール血症の予後は心イベントによって決まる。家系内での発症が分かった時点で他の家族の一般採血でLDLをチェックすることで早期発見・早期治療につなげることができる。

家族性高コレステロール血症の基礎情報

定義:
ホモ接合型家族性高コレステロール血症の患者は、血漿LDLコレステロール値が非常に高く、アテローム性動脈硬化症の加速を引き起こす。その症状には、致命的および非致命的な心筋梗塞、ならびに外科的または経皮的血行再建術を必要とする閉塞性血管疾患が最も顕著に含まれる。また大動脈弁内およびその周辺にコレステロールが沈着すると、重度の大動脈弁上狭窄症を引き起こす可能性がある。黄色腫と呼ばれる、皮膚または腱、あるいはその両方にコレステロールが沈着することが、この病気の特徴である。動脈硬化または大動脈弁狭窄症、あるいはその両方の発症と重症度が、家族性高コレステロール血症の予後決定因子である。家族性高コレステロール血症は臨床情報、または遺伝子検査で診断可能である。

臨床診断
標準的な脂質低下療法未治療の場合:LDL> 13 mmol/L(500 mg/dL)
標準治療後 LDL ≥ 8mmol/L(300 mg/dL)
10歳未満の黄色腫の存在、または両親のヘテロ接合性家族性高コレステロール血症の存在

遺伝子診断
遺伝子名:LDLR、APOB、PCSK9、LDLRAP1
同じ遺伝子の両方の対立遺伝子に同一の変異を持つ患者は単純なホモ接合体である。同じ遺伝子の両方の対立遺伝子に同一でない変異がある患者は複合ヘテロ接合体であり、2つの異なる家族性高コレステロール血症遺伝子に変異がある患者は二重ヘテロ接合体と定義される。LDLRAP1遺伝子は、バイアレル変異によって引き起こされる非常に稀な常染色体潜性遺伝形式を取る。遺伝子によって表現型は異なり、LDLコレステロールが低く、表現型の重症度が低い患者も認められる。表現型が一致すれば、遺伝子検査で病的変異を認めなくても、診断を除外することはない。

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