がん細胞のDNA変化を見たい・・・と?

がんの原因

がんの原因として、紫外線や化学物質など様々な環境因子や活性酸素のような内的因子にDNAが曝露することによって、ゲノムの中のDNAに傷ができている。細胞とはきわめて精密な機械のようなもので、このような傷を自動修復する働きが備わっているが、対処できないほどの傷ができてしまうこともある。体の維持のために非常に大切な遺伝子に傷が生じると細胞の性質が変わったり、細胞が死んでしまったり、あるいは細胞が無限に増え続けるということが起こる。
がんの場合、細胞周期を異常に進めて細胞分裂が起こったり、細胞の数がコントロール不能なほど増え続けたり、やたらとストレスに強すぎて細胞死が起こりにくくなったりしている。

DNAに傷ができる瞬間

細胞の遺伝子に傷が生じる瞬間をリアルタイムで見た!ということが報告されていた。培養した細胞からDNAを取り出し、変化した場所だけを標識する薬剤を使ったものである。その部分のDNA断片を原子力間顕微鏡という特殊な機器で観察した、というものである。これだけ見ても、極めて特殊な状況のものを見ていることが分かる。

https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2119132119

培養した細胞を取り出しただけのものであるが、これすらもこの装置のない大学病院では見ることはできない。紫外線やたばこに含まれる多くの化学物質でDNAに傷がつく、と言われ、あたかも見てきたかのように言われるが、これは細胞や動物を使った実験で、例えば紫外線の照射量など、条件を決めて行い、その細胞なり組織からDNAを抽出して調べて分かったことである。


自分のDNAを調べたい

ご自分のDNAを調べたいという要望は少なからずあり、これは診療のものと商業ベースのものを使えば可能である。診療のものであれば、調べた範囲について医師や認定遺伝カウンセラーなどから説明を受けることができる。それは現時点で、論文などの根拠に基づいた結果である。一方、商業ベースのものはそれを自分で行う必要がある。また、その説明を医師や認定遺伝カウンセラーに求めたときに、説明できる内容には限界があり、健康管理に使いたいという部分を要約するサービスは今のところ見られない。自分で調べるというものもありうるが、その場合確かな情報を自分で取捨選択する必要が生じる。
結局、アクション可能な遺伝情報というのには、現状で限りがあるので、その部分だけを調べて、必要な対応を取るということになろう。

全身のあらゆる細胞の変化を調べたい

体中にある遺伝子の傷をMRIやCTやPETなどでみることもできない。もし見ようと思ったら、それぞれの臓器からちょっぴり検体を取って、それをDNA解析機で調べるということになるのだろうが、そのような実験ができる研究機関は限られている。また調べるのに1つの検体につき、1カ月ほど要し、また費用は20-50万円ほど実費でかかるので、すべての組織を取るとなると検体採取のための手技や手術料がそれぞれ10-100万円近く、別に解析費用と合わせて数千万円ほどかかるであろうか。
脳や心臓などの組織を採取する際には死の可能性もあるため、単純な興味だけで検査はできない。

まとめ

遺伝子の検査は可能になってきているが、実際に診療や自身の健康管理の役に立つ情報はまだ限られている。全身の細胞のDNAの傷を調べることは現実的に不可能で、一般診療はおろか研究でも行われていない。


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