見出し画像

家族性高コレステロール血症の基本

初版 2023年7月11日
修正 2023年7月12日(最新)

脂質代謝の基本

もっとも大事なのはLDLコレステロールの値

健康診断にある「脂質代謝異常症」の項目のうち最も大切な数字がLDLコレステロール値である。日本循環器学会のガイドラインでも、狭心症や心筋梗塞などの冠動脈疾患の主要なリスク因子として、高血圧とともに挙げられている。

https://www.j-circ.or.jp/cms/wp-content/uploads/2023/03/JCS2023_fujiyoshi.pdf

LDLコレステロールを生活習慣の改善や薬物治療によって低下させることで、これら冠動脈疾患の予防となることは繰り返し示されている。現在では、包括的リスク評価と言って、性別、血圧値、糖代謝異常の有無、LDLコレステロール値、HDLコレステロール値、喫煙の有無によってレベル別の治療方法が提案されている。

低リスクの場合はLDLコレステロール値<160mg/dL、中等度リスクではLDLコレステロール値<140mg/dLで管理されるが、高リスクではLDLコレステロール値<120mg/dLが目標となる。

血液中を流れる脂質の種類

コレステロールやトリグリセライドのような脂質は血液(水)に溶けないので、タンパク質にまとめられて血液中をふわふわと移動する。

食事中の脂質のほとんどはトリグリセライドであり、小腸上皮から吸収され、アポタンパク質B-48というタンパク質とともに「カイロミクロン」という脂肪滴となって乳糜管や胸管という脂専用の管を通って全身の血液へ合流する。

カイロミクロンは全身(主に筋細胞や脂肪細胞)の毛細血管でトリグリセライドを提供し、小さくなっていく。そのうちある程度の大きさになり、「レムナント」になり肝臓へ取り込まれるようになる。

肝臓に取り込まれたカイロミクロンレムナントや遊離脂肪酸に由来する過剰なトリグリセライドは、アポタンパク質B-100とともに「VLDL」として肝臓から放出される。VLDLの合成は肝臓における遊離脂肪酸の増加に伴って増加する。例として、高脂肪食の摂取や、肥満や糖尿病のように過剰な脂肪組織が遊離脂肪酸を循環血中に直接抄出するようなケースで認められる。肝臓から分泌されたVLDLも毛細血管を通して細胞でトリグリセライドを提供し、「IDL」から「LDL」へと小さくなっていく。

※VLDL:low-density lipoprotein

※IDL:intermediate-density lipoprotein

※LDL:low-density lipoprotein


LDLコレステロールとは

肝臓から放出されたVLDLは末梢の組織でトリグリセライドを提供して、また肝臓に戻ってくるまでに、より比重の重くなった「低比重リポタンパク質」であるLDLとなる。

LDLはアポタンパク質B-100(APOB-100)という大きなタンパク質がシート状(βsheet)に覆い、隙間をリン脂質が埋めている脂肪滴である。中身のほとんどはコレステロールであり、少量のトリグリセライドが含まれる。このAPOB-100の末端には、肝細胞の表面にあるLDL受容体とくっつくリガンドが含まれているので、このLDL受容体によって補足されたLDLは肝臓に取り込まれる。

LDLに含まれるコレステロールは、肝細胞の中でAcyl-CoAから30もの行程を経て新たに生合成されるコレステロールと合わせてプールされる。このプールされたコレステロールは、胆汁として分泌されるか、アポタンパク質B-100とともに再度VLDLとして放出される。

血流中のLDLが多すぎると、肝臓のLDL受容体で補足しきれず、血管内皮へと侵入する。そのLDLを血管壁内のマクロファージが補足する。コレステロールはマクロファージ内で脂肪滴となり、これが動脈硬化プラークとなる。コレステロール結晶は、NOD-, LRR- and pyrin domain-containing protein 3 (NLRP3) を介するインフラマゾームを活性化し、これが炎症の促進と動脈硬化の促進に寄与する。


HDLコレステロールとは

LDLコレステロールと異なり、複雑な生成経路である。HDLがリンパ管や血流における脂質の主な引き受けを行っている。肝細胞あるいは小腸細胞からアポタンパク質A-1が生合成される。これは当初は脂質に乏しいが、末梢の細胞(マクロファージなど)に生成するABCA1を介してpre-βHDLとなる。レシチン・コレステロール・アシルトランスフェラーゼ(LCAT)とリン脂質変換タンパク質(PLTP)によって、pre-βHDLは成熟し、HDL3となる。ABCG1やSR-BIからコレステロールを引き受け、最終的にHDL2となる。

HDL粒子のコレステリル・エステルは、これステリル・エステル変換タンパク質(CETP)によってLDL粒子へと移し替えることができる。実際、代謝疾患や心血管リスクの高い患者では、このCETP活性が高かった。そこで、CETP阻害薬の開発が進められている。


家族性高コレステロール血症(FH)の原因遺伝子


LDLR

これがFHの原因として最も多い遺伝子であり、90%を占めている。肝臓の表面に発現し、血中のLDLコレステロールを補足し、血中のLDL値を低下させている。変異は遺伝子全体に万遍なく見られる。

APOB

次に多いのがAPOBであり、5-8%を占める。トリグリセライドやコレステロールをVLDLやLDLとしてまとめているアポタンパク質である。LDLRリガンドを介して、LDLRと結合し肝細胞へ取り込まれるが、APOB変異により、アポタンパク質B-100とLDLRとの結合親和性が低下することで、LDLが取り込まれず、FHの原因となる。APOB遺伝子にはホットスポットが存在し、3,500番目のアルギニン周辺の変異により、LDLRとの親和性が低下するという報告がある。実際にLDLRと結合するのは、3359-3369のアミノ酸である。

PCSK9

これがFHの原因遺伝子の3番目で、1%程度である。肝臓で合成されたPCSK9は血漿へ分泌され、肝臓表面のLDLRに結合する。LDLRは通常、細胞内に取り込まれてからリサイクル経路を介して再利用されるが、PCSK9と結合しているLDLRは酸性条件下で分解されてしまうので、リサイクル経路が遮断されることになる。PCSK9阻害薬の開発によって、高LDL血症の新たな治療選択を広げた。遺伝子変異としては、機能獲得型の変異を有するPCSK9はLDLRとの結合力が強いとされ、LDLRの分解促進によってFHの原因となる。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?