コロナ総括❽PCR検査の拡充ではコロナは決して防げない
それを実現するには
今の500~1000倍のキャパシティーが必要
今般のコロナ禍においては、PCR検査の拡充がすべてを救う、とうそぶく識者が多々登場した。
漫画家の小林よしのり氏は、彼らのことを「PCR真理教」と揶揄している。
彼らはPCR検査を大量に行うことがコロナ禍の特効薬だと、以下のように言う。
「大量の無症状の人を大量にもし隔離できたら、無症状の人たちがさらに感染を広げる可能性を減らすことができますよね」(小林慶一郎氏、東京財団政策研究所研究主幹、5月19日)
たしかに、この説はごもっともだ。
この件については、蛇足気味だが、「無症状感染者が他人にCOVID19をうつすかどうか」についてざっと触れておく。
無症状感染者には2種類がある。
一つは、発症前の潜伏期に当たる人。
もう一つは、感染しても発症しない不顕性感染者だ。
後者に関して他者にうつす可能性はまだ確定しておらず、6月8日の記者会見で、WHO技術責任者のバンケルコフ氏が「無症状者からの感染は非常にまれ」と語って大いにもめたが、たぶんこのことを指したのだろう。
対して、前者=潜伏期の感染者は他人にうつす。それも発症2日前が感染力のピークとなるという研究が多いので、少なくとも3~4日前あたりからは他者にうつすと思われる。
英ロンドン大学衛生熱帯医学大学院のリアム・スミース教授は、バンケルコフ氏の発言に対し「無症状者から感染した人の割合は30~50パーセントの可能性がある」と声明を出している。批判を受けて、バンケルコフ氏も翌日、「無症状者からの感染はおおよそ40パーセントという推計もあるがWHOとしては不明」と見解を訂正した。
いずれにせよ、まだ症状の出ていない自覚のない感染者が他者にCOVID19をうつすことは確実だ。そうした人たちを予防的に捕捉して隔離していくためにはどうしたらよいか?
自覚がない人たちなのだから、自分からは検査にはこないだろう。とすると、投網的に全国民にPCR検査を強制的に受けさせるしか、捕捉する方法はない。
もし、PCR検査で防疫を行うのであれば、論理的に考えるとそういう結論になる。
ただ、それにはどれだけのPCR検査が必要となるか?
前出の小林慶一郎氏も加わった共同論文「新型コロナウイルス感染拡大からの「命も経済も守る出口戦略」では「全国民が1~2週間に1度PCR検査(承認申請中の抗原検査を含む)を受けられる体制(1日1000万件から2000万件の検査)」としている。
ちなみに、日本のキャパシティーは現在1日2万件。ドイツは5月時点の目標が一日20万件といわれる。アメリカは週500万件を超えたレベル(1日70万~80万件)だ。現状の日本と比較して500~1000倍、世界最先端のアメリカと比べても数十倍の検査態勢を敷かなければならない。
コロナ禍脱出には200兆円!?
ただ、実際にはそれだけの数を実施しても、無症状感染者からの感染は防げないだろう。PCR検査では、感染初期のウイルス数が少ない時期は、正確に陽性判定できないからだ。
感染初期だと50~70パーセントの感度と推定され、となると、無症状保菌者の2人~3人に一人は捕捉漏れが起こる。
そうした漏れを防ぎ、なおかつできるだけ早い段階で感染者を捕捉するためには、短期間に何度も検査を重ねるしかないだろう。小林氏もそのことを認めて、以下のような発言をしている。
「3回検査して1回でも陽性なら「陽性」と判定するルールにした場合である(中略)3回の検査で感度97・3パーセント、特異度97パーセントを達成できれば、一定の条件下では検査精度を考慮して許容できる範囲になるのではないか」(医療のためだけではなく、社会の不安を取り除くための『検査と追跡と隔離』キヤノングローバル研究所、5月1日)」
ちなみに、3回の検査を1週おきに3週間かけて行ったのでは、その間に発症してしまう人も多々出るだろう。それでは「発症二日前」の感染力ピークを捕まえられず、防疫効果は少ない。
とすると、無症状感染者を捕まえて、市中感染を撲滅するには、3日に一度程度の頻度で、国民は永遠にPCR検査を受け続けなければならない。
日本人が約1億2600万人いるとすると、1日の検査キャパシティーは最低4000万件程度は必要となる。ちなみに、小林氏は、「2週間に一度、国民全員がPCR検査を受ける」という試算を行っているが、これにかかる費用は54兆3850億円。3日に一度ならその4倍以上が必要だから、200兆円を超えるだろう。
ここまで書けば、もうPCR真理教の不毛さはわかってもらえただろう。
PCR検査拡充している国こそ
感染はどんどん広がっている
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