論点紹介:『ディストピアSF論 人新世のユートピアを求めて』(小鳥遊書房)

第1章◉古典的ディストピア—三部作から二一世紀ディストピアへ

  • ジョージ・オーウェル『一九八四年』→ビッグブラザーはいるのか問題。まだ「人間的」なディストピアではないか? 21世紀ディストピアはもっと非人間的である可能性。

  • オルダス・ハクスリー『すばらしい新世界』→ドラッグで精神の平穏を。文明の外部はエンタメとして内部に。ディストピアは内部に構造化された外部を持つ。

  • レイ・ブラッドベリ『華氏451度』→ファストな時代に教養(本)は不要。焚書された本を暗記した人が登場する。作者と一体化したいというのは倒錯した欲望では。

第2章◉監視ディストピア—スマート化された身体のアイデンティティ

  • 入江悠(監督)『AI崩壊』→遍在するカメラで完遂される監視。AIは人間の写し鏡で、差別も偏見も学習する。AIは人間の子供なのか、それとも親なのか。

  • 林譲治『不可視の網』→監視カメラ+AIが人々の欲望を映し出す時、誰の欲望をもっとも反映するのか? 見たくないものを見たくないという欲望すら不可視化される社会。

  • デイヴ・エガーズ『ザ・サークル』→テクノロジーで情報を集め公開=透明化すれば社会は良くなるのか? あらゆるものが記録され参照され得るとき、何が起こるのか?

  • 平野啓一郎『ドーン』→テクノロジーで断片化した私たちのアイデンティティは、別のテクノロジーで統合できるのか? 分人時代のアイデンティティ維持は可能か、不可能か?

第3章◉人口調整ディストピアと例外社会

  • 星新一「生活維持省」→社会の平穏のためにコンピューターで公平に市民を「減らす」社会に「疑問のひびき」はないのか。執行者と当事者は別ではなく、重なる。

  • 藤子・F・不二雄「定年退食」→人口爆発+環境汚染のため高齢者の福祉削減=退食。高齢者の人権がジリジリと削られる。「健康にして文化的な生活」のために「退食」を迫る。

  • 垣谷美雨『七十歳死亡法案、可決』→少子高齢化社会の財源確保のために「70歳死亡法案」が可決された日本。社会に巨大な穴を開けたが、実は最初から穴は開いていたのでは?

  • 山田宗樹『百年法』→不老化技術により不死となった反面、社会は停滞。寿命を100年と定めたが、自分たちで自分たちの寿命を決める「政治」は可能か?

  • 瀧本知行(監督)『イキガミ』→若者に生命の尊さを理解させるためにランダムに命を奪う制度。制度に抵抗できるのか? 理不尽さを理解可能(にみえる)ものへズラすのが精一杯?

  • 早川千絵(監督)『PLAN75』→高齢者の自己決定(自決)を促す社会とテクノロジー。選びたくない選択肢から選ばさせる現実を、どうすれば良いのか。

第4章◉災害ディストピアとニーズの分配

  • ジョン・ウィンダム『トリフィド時代』→人類の失明+歩く植物トリフィドの複合災害に見舞われ、人類文明は崩壊しつつある。テクノロジーの維持にはインフラが必須。

  • 『猿の惑星』新三部作→新型感染症+猿の知性化。人類は文明崩壊の危機に瀕し、猿は文明を築き始める。ディストピア化する人間社会とユートピア的な猿の社会が交錯する。

  • パオロ・バチガルピ『ねじまき少女』→石油が枯渇した社会。生き物は資源として利用され、自然からテクノロジーで切り出された文明は再び自然と混ざり一体化しつつある。

  • テレビドラマ『日本沈没ー希望のひとー』→日本沈没という国難=ディストピアに直面し、希望(ユートピア)を語ろうとしたら、見事に別のディストピアが出現した。

第5章◉労働解放ディストピアの製造コスト

  • カレル・チャペック『ロボット RUR』→人間を労働から解放するロボットの誕生は、人間から生殖能力を奪った。労働のないユートピアには、製造コストが必要なのか。

  • H・G・ウェルズ『タイムマシン』→80万年後の人類は2種族に分離。労働しなくてよいイーロイ人は、生産ラインに立たなくて良いが、自分が生産ラインに乗せられる。

  • アンドリュー・スタントン(監督)→汚染された地球を離れた人類は快適さのなかで身体機能を退化させる。ロボットはなんでもやってくれるが、目的意識はもてない。

  • 小川哲『ユートロニカのこちら側』→自分の情報すべてを提供すれば労働しなくて良い実験都市アガスティアリゾート。「すべて」とはなんだろうか。頭の中の想像力も含まれるのか?

  • アーシュラ・K・ルグィン『所有せざる人々』→労働ゼロが無理なら、公平に労働を分配したらどうか? 公平な分配は定常性が前提で、そのために意図的に社会は停滞におかれないか?

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