小麦帝国の侵略--ジョージ・ソルト『ラーメンの語られざる歴史』(国書刊行会)

(2019年10月15日シミルボン掲載の再掲)

本書は今や日本の国民食となったラーメンが、どうやって日本に入ってきて定着したか、戦後、どのように広がっていったか、今どうなっているかを詳細に語る。

速水健朗『ラーメンと愛国』が類書だが、それよりももっとかっつり史料をあさっている。手つきは学者。文献も日本のものは十分におさえてあるのだが、英語圏のものもあり、視点が広がる。

特に、戦後のアメリカ占領軍による小麦援助政策が、重要であることがわかる。援助といってもしっかり買い取らせている。その癖に「アメリカは寛容」というメッセージを流すことも忘れない。小麦という穀物を輸出することは、パン・卵・肉といった食文化そのものの輸出でもある。朝ごはんを米にするかパンにするかでおかずメニューが変わってくるのは想像できるだろう。

大量の小麦を、カロリーに変えるため、肉油とセットのラーメンが労働者に大人気。戦中戦後の貧しい時代もあって、和食=栄養貧しい、洋食=栄養豊富、という教育(プロパガンダ)がされたようだ。インスタントラーメンも出た当初は、栄養満点! というのだから面白い。今では「汁まで飲んだらやばいやつ」という認識はできているのに。当時の日本がいかに栄養不足で、洋食(といっても欧米だけではなく、中華もこの洋には含まれていた)が栄養満点なものとして求められていたかが、よくわかる。

ニューウェーブ系の台頭(麺屋、黒い看板、作務衣)や海外での展開にはもう少しページを割いてほしいところ。でもまあ驚くのは海外の研究者なのだが、これほどまでに説得力のあるものを書けること。ラーメンマニア、一読の書。


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