理想の父親

この前、同僚と飲みに行ったら、まとまった休みが取れずに家族をどこへも連れてってやれないと嘆いていた。他人の顔色を伺うのがマナーとされる日本では、有給休暇を取ることもできない実情がある。俺も子どもの頃にどこへも連れてってもらえない子どもだったから、同僚の気持ちも、その子どもの気持ちも両方分かる。
そこで俺は思いついた。まとまった休みが取れないとしても、たまの休日に家族で出かけることのできる場所がすぐに分かるウェブサイトを作ってみようと。
そしてすぐに実行に移した。ピクニック、アスレチック、動物園や水族館はもちろんのこと、キッズスペースのあるアウトレットやアーティストのライブなどの情報も載せた。最初のうちはサイトに一日百人も来なかったがSNSを活用したところ、じわじわと検索数が増え、その数はすぐに一万を超えた。
俺は凝り性なところがあって、ありふれた写真や文字だけでは満足できなくなった。そこで実際に現場に赴いて写真を撮り、スタッフなどのインタビュー記事も書くようになった。取材を重ねていくと「サイト見ましたよ!」と言ってくれる人も現れるようになり、とてもやりがいのある仕事になった。
そうやって他の家族から感謝されるようになったが、気に入らないことがあると暴力的になる俺は結婚できない運命にある。それは職場でも同じで、つい同僚に暴力を振るって残業を押し付けてしまうのだ。
ああ、理想の父親とは程遠い。

#小説 #ショートショート

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