十二回目に会いましょう

「ねぇ知ってる? あの俳優さんとモデルさん別れたみたいだよ」
「ふーん。そうなんだ」
昼食休憩中、同僚にてきとうな相づちをうっていた。
ふと時計に目をやると1時5分を指していた。

「そういえばあのおしどり夫婦、実は奥さんが浮気してるんだってね。あたし驚いちゃった」
「ほんとなんですか?」
「人は見かけによらないものねぇ」
息子を保育園に迎えに行くと知り合いのママ友が話しかけてきた。
時計は6時30分を指していた。

帰宅してからご飯を作り、息子を寝かしつけてからスマホでニュースを見ていた。有名女優の結婚相手の社長がとんでもない男だったとネットで話題になっていた。
時計は10時50分を指していた。
「はぁ… まただわ…」
女はため息をついた。時計の短針と長針が重なると決まってゴシップの話題が飛び込んでくる。夫が長期出張を言い渡されてからこの症状に悩まされていた。
「もう寝なきゃ」
女は今夜も決まって0時ちょうど、夢の中で本当に好きだったあの人に抱かれる夢を見る。
重なり合う長針と短針は同じ場所で違う未来を見ている。

✳︎時計の針って一日中回っていて、1時間ごとに1回だけ秒針と短針と長針が重なり合いますよね。でも、視覚的にはそこに存在しても刻んでいる速度が違うから同じ時間に存在しない。それを心のすれ違いに例えた話です。
#小説 #ショートショート

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